小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene23

藤倉智也は悩んでいた。
――もう寝るか……それとも
そんなに大した悩みじゃない、本日の活動時間を終了するか否かだ。
時計を見る、時刻は深夜二時を指していた。
このまま起きていてもやる事は無い。いや、無くなった、と言った方が正しい。
ここ数日、智也は徹夜漬けだった。かといっていまいち勉学に本気になれない彼がその事で徹夜している訳ではない。
学園内の悪友二人組み……杉並と信の頼まれた物の製作だった。
智也自身も最初は断った、が。
「藤倉、最近白河嬢とやけに仲が良いのではないか?となると水越の事もあるから……ふたま――」
この脅迫じみた杉並の言葉で了承せざるをえなかったが、彼らも「代金は支払う」と言ってまで頼んできたので渋々受ける事になった。
その目的の物は――決して公言できるような物ではない、特に女子の前では絶対に。
そんな仕事も昨日の晩で終わり。その日に秘密裏で杉並に渡し代金も受け取った。
だから何もやる事は無い。
しかし、明日は休日で学校が無い。と言う事は必然的に明日はいつまで寝ていても大丈夫だと言う事になる。
そういう点で今日しか出来なさそうな事は無いかと頭を捻ったが。
何も思いつかなかった。
智也「……寝るか」
――たまには睡眠時間十時間突破して、一日中だらだら過ごすのもいいだろう
そう思い、ベッドに向かおうとしたその時。
智也「ん?」
机の上に置いてあった携帯が鳴った。
――なんだ、こんな夜中に
どうせ杉並か……などと思い無視を決め込んだが、ふと見たディスプレイに表示されている名前を見て驚いた。
水越眞子。
携帯はそう表示している。
智也は、どうしたんだ?と思いつつ携帯に手を伸ばした。

その数分前。
水越眞子は悩んでいた。
電話をかけようか、それとも休み明けにするか。
しかし、明日しかないと言っていた既に携帯の画面には掛ける相手……藤倉智也の電話番号が表示されていた。
後は通話ボタンを押すだけなのだが……それが問題だった。
もう一度携帯画面を見る、午前二時を指していた。
真夜中だ、もう寝てるかもしれない。
そもそも迷惑だ。
眞子「どうしよう……」
彼女はそう呟くとため息をついた。
そもそも何故彼女がこんな事をしているのかと言うと。
それは先日の文化祭の後。


眞子はため息をつきながら廊下を歩いていると、ある看板が目に映った。
『行列の出来る○○相談所』
看板にはそう書いてあった。
どこかで聞いた事のあるようなフレーズに一瞬戸惑ったが、何か良いアドバイスをくれるなら……と、半ば心の中で頼みつつ戸を開けた。
杉並「ほら、藤倉に頼んでおいた品だ」
信「お、やっと来たか」
教室の中には椅子に座った信とその目の前に立っている杉並がいた。
杉並は何か言った後、軽く手を上げてそのまま教室を出ようと振り返り、戸を開けたまま立っている眞子を見た。
杉並「おお、ここでお前に会うとは奇遇だな」
眞子「……あんた、何してんの?」
杉並「なーに、ちょっと配達をしていただけだ……信、客だぞ」
杉並はそう言うとそのまま教室を出て行った。
信「お、いらっしゃい……て、水越か」
眞子「もしかして……。ここ、信の店?」
信「もしかしなくても、ここは俺の開いた立派な相談所だ」
信は誇らしげに言って見せた。
眞子「相談って……例えば?」
信「どんな相談でもいいぞ。日頃の小さな悩みや借金、上下関係に家庭での悩み。勿論、恋愛相談もオーケーだ」
『恋愛』と聞いた眞子の体が驚いたように震えた。
信「?」
眞子をジーッと見る。
眞子「な、なによ?」
信はしばらく眞子を見て。
信「……なるほど、そういう事か」
と、小さい声で呟いた。
眞子「何か言った?」
信「いや。……そんな事より、ここに座れよ」
と言って自分の前にある椅子を指す。
信「何のかは知らんが……表の看板見て入ってきたと言う事は、それなりに悩みがあるんだろ?」
眞子「う……」
図星だけに言い返せない。
眞子は黙ったまま席に着いた。
本当は音夢やさくら、親しい女子に相談するのが上策だろうが、成り行き上ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
眞子はゆっくりと自分の胸の内を明かした。
勿論、本人達の名前は出さず、自分には好きな人がいるのだが、最近その人はある女子と凄い親しそうに話している。どうすればいいのか?と言う旨だけ伝えた。
話を一通り聞いた信はしばらく考え込み。
信「ふむ……それは忌々しき事態だな、では……」
と言いながらポケットから紙を二枚取り出し。
信「これは明日上映の映画のチケットだ。これでそいつを誘ってみろ」
眞子「えっ!?あ、明日?」
眞子は突然の言葉に驚きを隠せなかった。
信「え?じゃないだろ。話によるとそいつはかなり鈍感だと見える。そうだろ?」
眞子「そう……ね」
的確な指摘に驚きながらも頷く。
信「じゃあ、強気で迫らんと、相手に分かってもらえないだろ?」
その後渋々承諾した眞子はチケットを受け取り、電話しようか迷っているうちに今に至る、と言うわけである。
――えーい、もうなるようになれだ!
勢いに任せて通話ボタンを押す。
何回か無機質な呼び出し音が鳴るが、出ない。やはりもう寝たのだろうか?
眞子は諦めかけた、その時。
智也『はい、もしもし……』
耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。
自分で掛けといてなんだが、まさか出るとは思わなかったので言葉が出ない。
智也『……?もしもーし、眞子ー生きてるかー?』
眞子「う……うん、ごめんね?こんな時間に」
智也『全くだ。で、どうしたんだ?それこそこんな時間に』
眞子「う、うん。藤倉、明日暇?」
時間的には『今日』なのだが、そこはお互い気にしなかった。
智也『明日?……ああ、あるぞ予定』
眞子「え?!」
智也『明日は一日だらけて過ごす事にしてるんだ。悪いが他の奴を誘ってくれ』
眞子「……」
智也『……』
二人はお互い沈黙した。
眞子「藤倉」
智也『ん?』
眞子はゆっくりと間を置いてから一言だけ言った。
眞子「……死にたい?」
しばらく沈黙する智也。眞子は智也の引きつった顔が頭に浮かんだ
智也『分かった。悪い冗談だった』
屈服した智也が白旗を揚げた。
眞子「じゃあ、藤倉。明日暇?」
改めて尋ねた。
智也『あ、ああ。死ぬほど暇だ』
眞子「じゃあさ、二人で映画見ない?」
今度は受話器の向こうで何か物音がした。
智也『……眞子、早く寝たほうがいいぞ?』
眞子「え?」
智也『何でせっかくの休日にお前と二人で映画見なきゃならないんだ?』
眞子「だってあんた暇でしょ?」
智也『ぐ……』
眞子「あたしだって暇なの、だから」
智也『そ、そうだ。萌先輩と見に行きゃいいだろう?』
眞子「お姉ちゃんと見に行ったって映画館入る時から出る時までずっと寝てるから一人と変わらないわよ」
智也『確かに……それはありうる』
眞子「そうでしょ?だから藤倉しかいないの」
智也は考えているのかしばらく黙り。
智也『わかった……行くよ、行けばいいんだろ?』
と、脱力しきった声が聞こえた。
眞子「うん、ありがと……じゃあ、時間は午後にしてあげる。さすがにこの時間じゃ、起きるの辛いでしょ?」
智也『ああ、助かる』
その後、眞子は集合場所と時間を伝えた。
智也『わかった。じゃあ、切るぞ?』
眞子「うん、ごめんね。こんな時間に」
智也『全くだ。この借りはいつか何十倍にして返してもらうからな……じゃあな』
眞子「……ふう」
電話を切った後眞子は大きくため息をついた。
しかし、彼女のその顔は笑みで満ちていた。

その頃。
智也は電話を切った後、机の上に携帯を放り投げ、ベッドに倒れこんだ。
智也「これって……デート、だよな」
何しろ二人っきりだ。今まで眞子が自分にくっついてきた事は多々あったが二人だけと言うのは恐らく初めてだ。
智也「……寝よう」
そう呟くと目覚ましをセットし直した。

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