小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


Scene24

智也は、ジリリリと、けたたましく鳴り響く目覚ましを止めた。
智也「……さて、着替えるか」
今日の初音島は実に快晴だ。
こんな日は一日中日向ぼっこをしていたいものなのだが、今日は事情が違った。
昨日の夜中、突然眞子から電話があり、一緒に映画を見ると言う事になっている。
智也は手早く着替えるとこれまた手早く支度を始める。
朝食はどうしようか迷ったが、時間がないのでやめにした。
携帯で時間を確認する。
どうやら走らなくても良さそうだ。
智也は携帯をポケットの入れると待ち合わせ場所に向かった。
眞子との待ち合わせ場所は映画館に程近い喫茶店になっている。
待ち合わせ場所に着くとそこにはもう既に眞子の姿があった。
智也「よお」
眞子「え?」
眞子も智也に気づいたようだが。
智也「?」
まるで珍しいものに遭遇したかのような目で智也を見ていた。
智也「……おい」
眞子「え?あ、ああ、ごめん。まさか藤倉が時間通りに来るなんて思わなかったから」
智也「あのな……俺はあまり人を待たせない主義なんだ」
なるほど……と頷く眞子。
智也「そんな事より、いつ始まるんだ?」
眞子「うん、今から行けば丁度いいくらい」
智也「じゃあ、行くか」
二人が映画館へ向かおうとする頃。
その様子を見ながら電話を掛ける男がいた。
信「じゃあ、おやじさん。彼らが来たら予定通り頼むぞ」
『俺ぁ別に構わんが……いいのか?こんな騙す様な真似』
信「これも彼女の為なんで。映画見る前に逃げ出されたら意味が無いからな。よろしく頼むよ」
『了解。後は俺に任せろ』
信「……さて、後は水越次第だな」

場所戻り二人は。
智也「そうそう。それで、映画って何見るんだ?」
眞子「え?うん、それはあっちに着いてから決めようと思って」
そう言う眞子自身もチケットは松岡から貰ったのでそこの映画館が何を上映しているのかまでは知らなかった。
しかし、午前中に見たい映画はピックアップしていたのでそれらがあればいいなと思っている。その全てが恋愛映画だと言うのは智也には内緒だ。
そして映画館に着くが二人は目を疑った。
智也「ま……眞子、本当にここなのか?」
眞子「う、うん。これに書いてる通りに来たから間違いない、と思う」
チケットに書いてある大まかな地図通り来た二人の前にある映画館は外見からもうかなりの年代が経っていると分かった。
しかも、上映されている映画も一作品しかないらしく、宣伝看板も一つしかない。
眞子「が、外見は古いけど、映画は一応新作やってるみたい」
その映画館が唯一上映しているのは今話題の新作「宇宙の中心で愛を叫ぶ」なのは不幸中の幸いに眞子は思えた。
眞子「きっと藤倉も知ってると思う。テレビでも特集とかやってるから」
智也「ああ、聞いた事はある。確か、恋愛物……だよな」
それを訊いた眞子が頷く。
智也「……ま、いいか。行くぞ?」
眞子「え?……あ、ちょっと、待ちなさいよ」
そう言いながら二人は映画館の中に入って行った。
その後二人が見るはずの『宇宙の中心で愛を叫ぶ』の宣伝看板が反転し完全にひっくり返った。
代わって出てきた看板に記されていたのは『死霊の扉〜怨み〜』
いわゆる『グロい』で知る人ぞ知る、ホラー映画のタイトルだ。
そんな事は知らない二人は受付にチケットを渡しそのまま席に着いた。
館内にはやはり古い為か人が少なく二人は前列中央の一番いい席に座れた。
眞子「何か、楽しみ」
と映画が始まるのを心待ちにしている眞子を智也は眞子にもこんな一面があるのかと興味深げに見ていた。
そしてほどなくして映画が始まる。
それと同時に、二人はようやく異変に気付いた。
『宇宙の中心で愛を叫ぶ』とはスペースシャトル乗組員の男女二人が繰り広げるSF恋愛映画である。
しかし、実際に映っているのは、とてもそうとは思えない全くの別物だった。
『ひっ……や……』
『貴様が……貴様が……』
智也「お、おい。これちょっとおかしくないか?眞子――」
智也は同意を求めようと眞子を見たが。
眞子「……ひ」
眞子は体全体を震わせていた。
――もしかして……怖がってるのか?
「や……やめて、お、おね……」
「貴様が……貴様の一族が……・」
智也は目の前の光景もそうだが何より眞子の反応が信じられなかった。
いつも勝気で強気な眞子が異常なまでの怖がりを見せているのだ。
智也「へえ……」
――これは、映画見るよりこっち見た方が面白いかもな。
そう思いつつ眞子を観察していたが。
「し、死ねー……」
「い、いや……いやーーーーーーーー……」
スクリーンでは、直視するのを思わず躊躇ってしまいたくなるほど凄惨な光景が映し出されている。
眞子「……っ!」
智也「お、おい……」
すると突然あまりの怖さに智也にしがみつく眞子。
怖さのあまりしがみつく眞子を見て、智也は普段は見られない彼女の可愛らしさを見ているような気がした。
「グハハハ……。ブチマケロ。血も、肉も……スベテダーー!!」
画面上に血しぶきや肉片が舞った。
――これは、ちょっとグロすぎるんじゃないか……?
本編はさらに山場を向かえ、どんどん過激になっていく。
智也「さすがにヤバイな」
――眞子、大丈夫か?
智也が声をかけようとした。
眞子「……っ!」
智也「?!」
不幸な事に眞子は掴んでいた智也の服を思い切り締め始めた。
しかも、その強さはエスカレートする映画の内容に比例するように強くなっていく。
智也「ちょ……お、落ち着け……いや、そ……それより……手、を……」
このときから映画が終わるまで二人はそれぞれ別の意味で苦しみ続けた。
眞子「ハア……ハア……・死ぬかと思った……」
完全に脱力仕切っている眞子は智也が手を貸さないとまともに歩けないほどふらふらになっていた。
智也「……ったく、それはこっちの台詞だって」
智也は何度も意識が飛びかけたが気力で繋ぎ止め、何とか生還した。
しかし、智也の苦悩は終わらなかった。
美春「あれー?藤倉先輩に、眞子先輩じゃないですかー!」
智也「よ、よう、天枷……」
智也は力なさ気に答えた。眞子には、その気力すらない
美春「先輩達もここの映画見に来てたんですか?」
智也「あ、ああ、見たと言うより『見せられた』だな」
美春はふらふらで今にも倒れそうな眞子を見て。
美春「でも、眞子先輩がふらふらになるほどの映画って……一体どんな……それに」
眞子は完全に体を智也に預けているので二人はかなり密着していた。
智也「あっ……い、いや、これはな」
智也もその事に気付くが事情が事情なだけに眞子と放れられないでいた。
美春「まさか、お二人がもうそのような仲まで行っていたなんて。美春、知りませんでした」
智也「お、おい。お前、絶対何か勘違いしてるだろ?」
美春「いいえ。美春はこの事は決っっして!公言しませんのでご安心を」
結局美春は言うだけ言って最後に「では、美春はお邪魔みたいですから……」と言い残しその場を逃げるように去って行った。
智也「お、おい!ちょっとま……はあ……」
智也はその場で深くため息をついた。


智也「落ち着いたか?」
眞子「……うん、ありがとう」
眞子は公園のベンチに腰掛一息ついていた。
眞子「ごめんね。迷惑かけて」
智也「全くだ……と言いたい所だけど、ま、それなりに楽しかったから、いいよ。気にするな」
――それに、面白いものも見れたしな
智也「えっと、これからどうする?どっか行くか?」
眞子はそれを聞いて力無く首を横に振った。
眞子「もう帰ろう?あたし疲れた……」
語尾にいつもの覇気が感じられない、余程疲れたのだろう。
智也が送っていこうとしたが、眞子は大丈夫、とだけ言って断りその場で別れることにした。
眞子「藤倉」
歩き出した智也は振り返った。
智也「何だ?」
眞子「……今日は、本当にありがとうね」
智也「……ああ」


後日、眞子はあの相談所に向かっていた。
――なんかはめられた気もするけど、一応お礼は言っとかないとね
しかし、その教室に行くと前はあった看板がなくなっていた。
試しに戸を開けようとしたが鍵がかかっているのか開かなかった。
ふと眞子は戸に貼られている紙に気がついた。
『行列の出来る○○相談所は大盛況の元、一時終了しました』
その紙を見ている眞子を廊下の過度から見ていた信は人知れず微笑するのだった。

-24-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える