小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene27

十二月二十四日、風見学園三大祭の一つ、クリスマスパーティーの当日だ。
生徒達の中には、客寄せなど商売に励む者、適当に屋台を回るもの実に様々だ。
智也「えーと……確かこの辺に」
純一「まさか外にあるとはな」
智也、純一はもちろん後者常連なのだが、今回は数日前さくらに来てくれと頼まれた『お化け屋敷』に音夢、ことりを連れ行く事になった。


数日前、食堂。
さくら「おにいちゃーん!大ニュース、大ニュースだよー!」
食堂で昼食を食べていた、純一、智也、音夢、ことりの所にさくらが叫びながらやって来た。
純一「本当に来た」
智也「何者なんだ?……あいつ」
さくらは何か言っている智也と純一、その横で苦笑いを浮かべている音夢とことりに疑問を感じたがあえて訊かなかった。今はそれどころではない。
さくら「うーん?みんな、なんか変だけど、そんな事より大ニュースだよ!」
純一「あー、そんな大声で何度も言わなくても聞こえてるって」
ことり「何が大ニュースなんですか?」
ことりが訊くとさくらはとっておきと言うようにしばらく間を置き。
さくら「今度のクリスマスパーティーでボクとボクのお友達とでお化け屋敷をする事になったんだよ!」
驚いたか。とでも言いたいようなさくらだったが、みんなに期待していた反応は見られなかった
純一「ああ、知ってるぞ」
智也「カップル限定なんだよな?」
さくら「え!?何で知ってるの!?まだ宣伝も何もやってないのに!」
逆に驚いたさくらは何故だか分からないと言った様子で近くにいた音夢とことりに助けを求めた。
音夢「さっき、杉並君に教えてもらったんです」
さくら「うにゃっ!」
さくらは「しまった……」としばらくうな垂れていたが、すぐに立ち直り。
さくら「でも、そういう事だから、みんなも是非来てよね」


そういう訳で一向はそのお化け屋敷に着いたのだが。
純一「な、なんだこれは?」
音夢「すごい……」
純一達は前方の『お化け屋敷』なる建物を見て思わず目を丸くした。
それは黒い布で覆われていて、いかにもそれらしいのだが、何故か二階建てで、さらに入り口は一階ではなく二階にあり、外に設置された階段にはすでにカップルが多からず少なからず並んでいる。
智也「どうやったらこんな短期間でこんなものが建てられるんだ?」
四人はしばらくインパクト大のその建物を見ていたが、そうしていても仕方ないので、とりあえず大して長くない列に並ぶ事にした。


智也「何か、外の割には……」
ことり「あんまり、怖くないですね」
お互い苦笑しながらさくらに誘われたお化け屋敷を進んでいる。
外見はなぜか二階建てと、結構力の入っている?のだが、内面はそうでもなく、外面と同じ黒い布で覆われた通路や部屋にそれらしい人形やら、服を着た生徒が「うらめしやー」と、お決まりの台詞を言っている。
当然ながら恐怖は全く感じないのだが。
ことり「ちょっと、足元が不安定だと思いませんか?」
そう言いながらも足元に気を配りながら進むことり。
前面黒色の床は二人が歩くたびにギシギシと音を立てて軋み、さらに時々揺れる事もあった。
智也「ああ。まあ、大丈夫だとは思うけど……」
遊園地等にあるお化け屋敷ならこのような事があっても演出だと素直に思えるが、今は思えなかった。
智也「早く、進むか」
ことり「そうですね」
二人はまた違った恐怖を感じながら半ば早足で進んだ。
その時だった。
智也・ことり「えっ……」
ありえない位に沈み込む足に二人はほぼ同時に声をあげた。
そしてそれとまた同時に軽くなる体。
――嘘だろ……!
そう思う頃には既に落下は始まっていた。
とっさに智也はことりを抱きしめそのまま落ちて行った。
純一「……ん?」
音夢「兄さん、どうしたんですか?」
急に立ち止まる純一に音夢が声をかける。
純一「あ、いや……今何か音しなかったか?」
そう訊かれた音夢はしばらく考え首を横に振る。
音夢「ううん、何も聞こえなかったけど……」
純一「そうか、空耳か……」
そして、大して怖くないお化け屋敷をある程度進んでいると。
純一「うわっ……と、音夢、止まれ」
少し前を歩いていた純一は音夢に止まるよういった。
音夢「どうかしたんですか?」
純一「危ないな。ほらここ、穴が開いてる」
そう言って、目の前に開いている穴を指差す。
音夢「本当……どうしたのかな?」
純一「うーん……人形でも落ちたか。とりあえず、早く出口に行ってこのことをさくらに知らせよう」
音夢「え?さくらちゃん出口にいるの?」
純一「今まで会わなかった事を考えると、後は出口しかないだろ?」
純一が言うと音夢は「あ、なるほど」と手の平を打つ。
純一「とにかく急ぐぞ」
音夢「うん」


――くん、藤倉君、起きて下さい、藤倉君
智也の脳裏にせっぱ詰まったことりの声が聞こえた。
智也「んっ……」
智也がゆっくり目を開くと、そこには暗闇が広がっていた。
智也「なんだ……暗いな……」
ことり「藤倉君っ。大丈夫?」
ことりに呼びかけられ、智也はだんだんと意識が鮮明になっていた。
智也「ああ。俺は大丈夫」
そう言いながら上を見上げる。しかし、室内が暗すぎてほとんど何も見えなかった。
どうやら無理な建物の急造に床が耐えられなかったのだろう。
智也「そうだ。ことりは大丈夫なのか?」
ことり「私は大丈夫。藤倉君が下になってくれたから……」
智也「そうか。よかった」
智也はとりあえずほっとした。
どうやらとっさに取った行動が上手くいったらしい。
後はいかにして外に出るかだ。
ことり「さっき、出口を見つけたんだけど、外から鍵が掛かってるみたいで」
智也「そうか……しかしこう暗いとな」
他に出口を探そうにもこう暗いと何も出来ない。
ことり「でも、上に穴が開いてるから誰かが気付くと思うけど」
智也「だといいけど……あ、そうだ」
智也は気がついたように携帯電話を取り出す。
しかし、電波が届いてないらしく画面には圏外と表示されていた。
智也「携帯も駄目か……純一達が気付いてくれると良いが」


純一「ほらな」
音夢「そうですね」
純一兄妹が出口付近まで来たところ、純一の言うとおり、そこには白い着物に身を包み、頭に上にうたまるを乗せたさくらがはたから見ればそれはそれは可愛らしくお化け役をやっていた。
さくら「うにゅー……なんで二人して笑ってるのさ」
不満げに口を尖らすさくら。
純一「こっちのことだ……それより」
音夢「さっき見たんだけど、通路に穴が開いてましたよ」
純一の代わりに音夢がさくらに説明した。
さくら「えっ、それ本当!?」
純一「ああ、早く何とかしないと、誰かが踏み外して落ちるぞ」
純一が言うと音夢も同意の意味で頷いている。
さくら「うん、白河さんと藤倉君も来てるんでしょ?早く知らせないと」
純一「ちょっと待った」
純一は今さくらが言った事が信じられなく、言葉を遮った。
さくら「え?どうしたの?お兄ちゃん」
純一「だって……ことりと藤倉はまだここに来てないのか?」
純一が訊くとさくらは頷いた。
音夢「え……?でも、確か白河さんと智也君は私達より先に入りましたよね?」
そう言うと純一が間違いないと頷いた。
純一「まさか……」
その時純一の脳裏によくない光景が浮かんだ。
それは、他の二人も同じだったらしい。
音夢「兄さん、急がないと」
純一「ああ、さくら!早く一階に行くぞ」
さくら「うん!」


――もしかして……また、なのか?
――違う!そんなはずは……
ことり「藤倉君?」
智也「……っ!」
ことりに呼びかけられ智也ははっとなった、そして、嫌な考えを振り払うように首を横に振る。
智也「……何?」
ことり「ううん、特に何かって訳じゃなかったんだけど、何度呼んでも返事がなかったから」
周りが暗くてお互いの顔はよく見えないが智也を心配してくれたらしい。
智也「ごめん、ちょっと……考え事をな」
気のせいだろうか、ことりは智也がそう言った時、心なしか声が沈んでいたように聞こえた。
ことり「……」
ことりは考えた。もしそうだとしたら、それは周りが暗闇だからか。でも、あの『声』は、はっきり聞こえた。まるで苦しんでいるようなあの『声』は何だったのだろうか。
ことりは躊躇したが、意を決して。
ことり「藤倉君――」
ことりが次の言葉を口にする直前、鈍い金属音と戸が開く音がした。
それと同時に少し眩しい位の光が今まで暗かった部屋に差し込んだ。
純一「藤倉、ことり、大丈夫か!」
戸が開くと同時に、智也、ことりを見つけた純一、音夢、さくらが駆け寄ってくる。
智也は大丈夫だと言う代わりに片手を上げてひらひら振って見せた。
智也「サンキュ。おかげで助かった」
音夢「白河さんは大丈夫ですか?」
ことり「え、う、うん。私は大丈夫。でも、よくここが分かりましたね」
ことりが訊くと、純一達はここに来るまでの経緯を二人に説明した。
さくら「ごめんなさい。白河さん、藤倉君」
説明し終わった後、本当に申し訳なさそうにさくらが二人に謝った。
智也「いいって、いいって。俺達にも怪我は無いし、結果オーライって事で」
智也が言う横でことりも頷いた。
音夢「でも、お化け屋敷は営業停止です」
さくら「えー?!何でー!?」
純一「お前な……あんな危険なところ、風紀委員のこいつがほっとくとでも思ったのか?」
純一の言葉を聞いたさくらはがっくりと肩を落とした。

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