小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>


Scene28

クリスマスパーティーが終わり、卒業の日が近づいて来たある日の休日、純一兄妹はリビングでテレビを見ていた。
画面は丁度天気予報に入ったようで、キャスターが天気図を見ながらあれこれ言っていた。
純一「へぇ、本州の方はもう雪が降ってんのか……」
本州の天気図には所々に雪だるまのマークがあった。
当時は気付かなかったが、ホワイトクリスマスになった地域もあるようだ。
音夢「今年はいつ頃降り出すんでしょうね」
音夢がテレビを見ながら嬉しそうに言う。
純一「さあな……」
もともと初音島は一年中温暖な気候なので雪の降る量は本州に比べて少ない。例え降ったとしても、積もる事はここ数年無かった、降らなかった年も少なくない。
音夢「でも、これだけ早く降りだしたんだから、もしかしたら数年ぶりに見られるかもしれないってニュースで言ってたよ。吹雪と桜吹雪が同時に起こるとこ」
音夢がそう言うのも、初音島の咲いている桜は、嵐が来ようが雪が降ろうがお構いなしに、決して枯れる事無く咲き続けている、それは例え吹雪になったとしても例外ではなく、その為、吹雪いた日には同時に桜吹雪が起こり、その光景は全国から注目までされている。
頼子「あ、それは私も見てみたいです」
と、朝食の後片付けを終えた頼子が言った。
純一「雪は降るかも知れないけど、吹雪になるまでにはいかないんじゃないか?」
実際、純一も生まれてこのかたその光景を実際に見たことは無く、見たと言ってもこの季節になると決まってする当時の映像だけで、それほど珍しいものだ。
音夢「もう、兄さんは夢が無いな」
純一「違う、現実を見てるんだ、積もったら積もったで雪かきしなきゃならんし、それに交通の邪魔だ」
そんな二人の会話をくすくす笑いながら見ている頼子。
頼子「本当に、純一さんと音夢さんは仲がよろしいんですね」
音夢「よ、頼子さん。わ、私は別に、兄さんの事なんて……」
それを聞いた音夢は慌ててそう言った。
純一「何慌ててるんだ?」
音夢「別に、慌ててなんてないです」
音夢はそう言うと、足早にリビングを出た。
純一「何なんだろうな?」
純一がそう頼子に聞いたが、頼子は小首を傾げた。


リビングからの勢いそのまま自室に戻った音夢は自分の携帯が鳴っている事に気付いた。
音夢「はい。もしもし?」
「あ、音夢。眞子だけど、今時間いい?」
電話に出ると聞き覚えのある声が聞こえた。眞子からだ。
音夢「うん。眞子どうしたの?」
眞子「えっと……その、音夢に、相談したい事が、あって」
そう言っている眞子の言葉は歯切れが悪く、いつもの彼女らしくなかった。
音夢「相談……?うん、いいよ。私なんかでよければ、何?」
音夢が促すと眞子は言いにくい事なのかしばらく沈黙が続いたが。
眞子「私ね……藤倉の事好きなんだ」
それを聞いた時、音夢は息を呑んだ。眞子に好きな人がいたというのは、さほど衝撃的でもなかったが、その人が同じクラスの智也だという事には驚いた。
音夢「そう、なんだ」
驚いている事を悟られないようになるべく、普通にした。
眞子「私なりに何回もアプローチしてるんだけど、なかなか気付いてくれなくて……」
音夢は今の眞子の気持ちがわかるような気がした。自分も今同じような立場にいるのだから。
音夢「眞子、諦めちゃ駄目だよ。私は上手く言えないけど、これだけはわかるから……」
受話器の向こうで眞子が小さく「うん……」といったのが聞こえた。
眞子「でも……」
次の眞子の言った事にまた驚かされた。
眞子「確信は無いんだけど。白河さんも、もしかしたら藤倉の事気になってるみたいで……」
音夢「えっ、白河さんってあの白河さん?」
驚きのあまり思わず聞き返してしまった。
――藤倉君ってモテるんだ……
という事を同時に思ったりした。本人に失礼だが。
眞子「クリスマスパーティーの時は智也見当たらなかったし、もうすぐ卒業して春休みに入っちゃうでしょ?それで会える回数も減っちゃうから……」
クリスマスパーティーと聞いて音夢は思い出した。
――その時藤倉君は、白河さんと……
数日前のクリスマスパーティーに音夢と純一、智也とことりでさくらが開いたお化け屋敷に行っていたのだ。
音夢はこの事は言わない方が良いと思い黙っていた。
その時、一つ妙案が浮かんだ。
音夢「あ、そうだ。眞子、明日遊びに行かない?藤倉君も誘って」
眞子「えっ?」
音夢がこう切り出すと眞子は小さく声をあげた。
眞子「で、でも、男子が藤倉だけって言うのもなんかおかしくない?」
音夢「それは大丈夫。兄さんも連れて行くから」
そう言うと「それなら……」と眞子も承諾した。
眞子「でも、何か朝倉に悪いわね。せっかくの休みなのに」
音夢「大丈夫だよ。どうせ兄さん何もせずにだらだらしてるだけなんだから」
音夢がそう言うと眞子は少し吹き出して「それもそうか……」と付け加えた。
音夢「じゃあ、兄さんと藤倉君には私の方から連絡するから」
眞子「うん。音夢、ありがとう。なんか喋ったら少し気が楽になったよ」
その後待ち合わせの場所と時間を決めて、音夢は電話を切った。と同時に一階に下り、リビングに向かった。
純一「あ、戻ってきた」
音夢「兄さん、明日用事無いよね?」
そう聞かれた純一は顔をしかめて。
純一「戻ってきて最初がそれか……それにその言い方はいかにも俺が用事が無いような言い方だな」
音夢「事実でしょ?」
そう言われて純一は反論できずに呻いた。
純一「で、なんだ?」
音夢「明日、眞子と遊びに行くんだけど、兄さんも行かない?と言うより来て」
純一「なぜ命令形なのかは置いといて、何で俺が行かなきゃならないんだ?」
純一がそう聞くと音夢はしばらく何か考える素振りを見せ。
音夢「うー……ん、それは内緒。それでね、藤倉君も誘って欲しいんだけど。兄さんも男一人だと嫌でしょ?」
どうやら純一は無理にでも連れて行く気らしい。
純一「確かに、居心地は悪そうだな……。藤倉か、分かった。で、どこに行くんだ?」
音夢「うん、商店街にショッピングにでも行こうかなって」
純一「って、買い物かよ。……まあいい、じゃあ、藤倉に電話でもするか」
純一はそう言うとやれやれと首を振りながらリビングを出た。


夕方、智也は家でテレビを見ていると、携帯が鳴った。
智也「はい……何だ朝倉か……」
純一「何だはないだろう……」
純一がそう言うと智也は笑いながら。
智也「はは……悪い悪い。で、何の用だ?」
純一は音夢から聞いたことを伝えた。
智也「買い物?他は誰か来ないのか?」
純一「いや……多分今言ったメンバーだと思うな」
智也「ふーん……そうか、わかった、行くよ」


そして次の日。
純一、智也、音夢、眞子の四人は商店街に来ていた。
純一「うーん、いい天気だ。音夢、これじゃあ、吹雪どころか雪も降らなそうだな」
この日の初音島は久しぶりの快晴で暖かいと感じるほどだ。
そんな天気を仰ぎながら言っている純一の横で悔しそうに唸っている音夢。
眞子「何の話?」
眞子が聞くと純一は昨日の純一と音夢の会話の内容を簡単に話した。
眞子「ああ、そう言う事ね。でも、私は降ってほしいかなぁ。吹雪と桜吹雪、見てみたいし」
智也「俺は降らないでほしい」
そう言う眞子の隣で智也はきっぱりと告げる。
音夢「藤倉君は兄さんの肩を持つ気なんですか?」
純一「当たり前だ。俺と藤倉の間には簡単には崩れない熱い友情で結ばれてるのだ」
そう言いながら智也と肩を組む。
智也「ああ。俺はいつだってお前の味方だ、朝倉!」
純一「おお、同士よ!」
商店街の真ん中で固く握手を結ぶ。
そんな二人に呆れの眼差しを送る眞子と音夢。
眞子「よくこんな所でそんな事ができるわね」
音夢「兄さん、時と場所を考えてください。一緒に歩いてる私達まで恥ずかしいじゃないですか」
智也「まあ、そんな事はともかく、単に雪が嫌いなだけだ」
と、純一の手を解きながら言う。
純一「そ、そんな事って、お前な」
智也「はは……冗談だ、冗談」
眞子「熱い友情が聞いて呆れるわ。て、藤倉雪嫌いなんだ」
智也「ああ。あんなのが積もったら雪かきが面倒だし、朝の通学にも支障が出る」
当然だと言うようにきっぱり言う。
音夢「それ……昨日兄さんが言った事と全く一緒です」
眞子「と言うより、あんた達は雪を今までそんな風にしか見てなかったわけ?」
二人は呆れたような顔で言う。眞子には二人を哀れんでいるようにも見える。
純一「朝の登校は一分一秒も惜しい勝負の時なのだ」
そういう純一と、頷く智也。音夢が「だったら早起きすれば良いのに」と呟いたが二人の耳には届かなかった。

-28-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える