小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene29

ある休日、純一、智也、音夢、眞子の四人は商店街にショッピングに来ていた。
と言っても、実際店外のウィンドウ等で品物を見ているのは音夢と眞子で純一と智也はそれに付き合っていると言った感じだ。
しかし、本当のところ、真の目的は別にある。
そもそもきっかけは、前日、眞子から音夢に当てた一通の電話にあった。
その内容には、音夢も大変驚かされたのだが、そこで急遽決まったのが今回のショッピングというわけだ。
しかし、いざ智也を誘ってきてみたは良いが、音夢も後々の事は考えておらず、今まではごく普通のショッピングになってしまっている。現に今でも、音夢と眞子はある店内から外で待っている純一と智也(特に智也だが……)を窺っている。
眞子「音夢……これからどうしよう」
音夢の隣にいた眞子が囁くように問い掛けた。
現在の眞子はいつもの彼女らしくなかった。弱弱しい口調からはいつもの活気ある性格は感じられず、何だか守ってあげたくなる、普段より一層女の子らしく見えた。
とはいえ、音夢にも良い考えが思いつかない。もう一度店の外で待っている智也と純一を見る。
いつも通り、何も変わらぬ様子で純一と話している智也を見るとやっぱり気付いてないんだ、と音夢は分かった。と言うのも隣にいる純一と全く同じ様子だからだ。
音夢「とりあえず、一旦出よう?話しながら歩いてたら、きっと何か良い考えが浮かぶよ」
音夢がそう言って励ました。その言葉は半分自分にも言い聞かせていた。音夢の言葉を聞いた眞子は小さく頷くと、二人は店を出た
純一「お、終わったか」
そんな二人に気付いた純一が声を掛ける。
智也「ふう……昼にはまだ早いな」
智也が携帯で時間を見ながら言った。


純一「さて、この後はどうする?もうここらでお開きにするか?」
近くの喫茶店で昼食を済ませた純一達はこの後どうするか決めていた。
と、その時。
「あ、おにいちゃんだー!」
遠くの方からそう言う声が聞こえたかと思うと、次の瞬間四人が良く知っている人物が砂煙を上げながら近づき。
そのまま純一の方にダイブ――
する前にきっちりと音夢の片手がしっかりとさくらの頭を捕らえていた。
さくら「うにゅー……」
阻止されたさくらは無念の唸り声を上げている。音夢はと言うとしっかりさくらを止めたまま変な声で笑っている。
智也「す、すげえ」
智也と眞子はこの瞬時の出来事を感心してみていたが、ただ一人、純一は溜め息をついた。
――たしか、前にも似たような事があったような気がする……
とまあ、そんな事はともかく。
さくら「えー、みんなでショッピングー!?何でボクも誘ってくれなかったのさー」
事情を聞いたさくらは不満げに頬を膨らませながら言った。
純一「悪い悪い……。今度はちゃんとお前も誘うから、な」
さくら「むー……あ、そうだ!」
しばらく膨れていたさくらだが、何か思いついたらしくパッと表情が明るくなった。
音夢「どうしたの?さくらちゃん」
音夢が聞くとさくらはみんなに笑顔を向けながらこう答えた。
さくら「じゃあ、今日みんなでボクの家にお泊り会やろー!」
と、それを聞いた四人は当然驚いた。
純一「なっ……いきなり何言い出すんだお前は?」
さくら「えー、いいじゃんいいじゃん、楽しそうだし、きっと楽しいよ」
「説明になってない!」と、純一が叫ぶ一方、音夢は眞子に近寄り。
音夢「眞子、これって……」
眞子「……うん」
眞子が小さく頷くと音夢は純一とさくらの方を向いて。
音夢「まあまあ、兄さん、いいじゃないですか。本当に楽しそうだし」
さくら「ねー、音夢ちゃんもそう思うよねー」
純一「ね、音夢まで……」
二人に攻められ、ついに純一も堕ちる事になった。
純一「眞子と藤倉は大丈夫なのか?」
眞子「うん。私は平気」
智也「ああ。俺も構わないよ……と言いたいところだけど、少し遅れていいか?」
と、時間を確認してから言う智也、と同時に、眞子が不安げな顔を見せた。
音夢「何か、用事ですか?」
音夢も不安げな声で聞く。
智也「……?ああ、俺昼からバイト入っててさ。そうだな……七時位になるけど、それでよければ」
さくら「うん、オッケーオッケー、全然大丈夫だよ」
さくらがそう言うと、音夢と眞子もほっとしたような表情を見せた。
智也「助かる。じゃあ、お詫びと言ったらなんだけど、夕食は俺に任せてくれ」
さくら「わー、楽しみー」
純一「へえ、お前料理できたのか」
智也「ああ。まあ、一人暮らしの知恵程度の物だから、そんな期待しないでくれ……おっと、バイト遅れる。じゃあ、また後で」
そう言うと智也は走って行った。
さくら「じゃあ、ボク達も行こう」
眞子「あ、あたし一旦帰るね。準備とかいろいろあるから」
音夢「うん、じゃあまたね」


智也「ふう……まあ、こんなもんかな」
日が短くなったのかすっかり日も暮れている頃、バイトを終えた智也はさくらの家で作る事になった夕食の材料を買っていた。
――あとは……芳乃さんの家に
智也「……ん?待てよ……」
ここで智也は重大な事に気が付いた。
――そう言えば……芳乃さんの家って、どこ?
そう、材料を買ったはいいが、智也はさくらの家がどこにあるのか知らなかった。
智也「あー……しくじったなあ……」
そうぼやきながら智也がその場に立ち尽くしていると。
「少年、お困りのようだな」
突然誰かが声を掛けてきた。
智也「あー、そうなんですよ、ここまで来たは良いけど、家がどこにあるか聞いてなくて……て」
そこまで言った後に、その人を見る。
智也「杉並!?何で今頃こんなとこにいるんだ?」
そう問われた杉並は微笑すると。
杉並「そんな事はどうでもいい。お前の方こそ、寂しい一人暮らしの割には、また随分と買い込んでいるではないのか?」
と、智也の両手にぶら下がっている買い物袋を見て言った。
そう言われた智也はむっとして。
智也「寂しい、は余計だ。これは今日芳乃さんのとこでみんなに夕飯を作る事になってな、その材料だ」
そこまで一気に言った後、智也は杉並の表情を見て後悔した。
智也には彼の表情はうんざりする位輝いて見えた。
杉並「ほう。で、もう少し詳しく聞かせてくれるんだろう?」
智也「……」
智也は心の中で大きく溜め息をついた。
――こうなった奴はもう誰にも止められない
と、長年の付き合いから分かっていた智也は今更逃げる訳にもいかなく、観念した。


その頃、芳乃家では、はじめに来ることが決まっていた純一兄妹と眞子、それと後から来る事が決まった萌と頼子が智也の到着を待ちわびていた。
さくら「おにいちゃーん、ボクお腹空いたよ〜」
さくらがへなへなになりながらそう言う。そんな彼女に合わせるようにうたまるも力なく鳴いた。
純一「もう少し我慢しろ。もうすぐしたら藤倉が来る筈だ」
萌「藤倉君は、いつ頃来ると言ってらしたんですか?」
音夢「七時頃だと言ってましたけど……」
頼子「でも、もう三十分位過ぎてますよ」
と、時計に目をやりながら言う頼子。
眞子「こんだけ待たせたからには、食べれない物出した時はただじゃおかないんだから」
純一「大丈夫だ。音夢ならともかく、その心配は無用だろう」
音夢「兄さん、どういう意味ですか?」
純一「お前の料理には見た目からは判断できない恐ろしさがあるからな」
即答する純一。
音夢「大丈夫ですよ。藤倉君が来なくても、兄さんの分は私が作りますから」
と、「兄さんの分」をやたら強調して恐ろしい位の笑顔で言った。
音夢「きっと美味し過ぎて、気絶しますから」
と、付け加えた。
純一「訂正だ。気絶じゃなく、そのまま何処かの川を渡るところまでは確実に飛ばされる」
音夢「……」
純一「……」
睨み合う二人。
頼子「じゅ、純一さん、その音夢さんの料理は決して、その……不味いんじゃなくて……えっと……そうだ、とても個性的な味なんですよ」
眞子「鷺澤さん……それフォローになってない、全然」
さくら「うにゃ〜……もう、毒でも何でもいいから何か食べたいよ〜……」
と、横で呟くように言うさくら。
音夢「さ、さくらちゃんまで……」
純一「やめろ、さくら早まるな!」
音夢「兄さん!」
そう純一が呟くと、再び照準を彼に向ける音夢。
萌「あらあら……喧嘩するほど、仲がよろしいという事で」
眞子「ちょっ……お姉ちゃん、そんな呑気な事言ってないでよ」
音夢「それにしても、藤倉君どうしたん――あれ?」
音夢が何か気付いたように声を上げる。
頼子「音夢さん、どうかしましたか?」
頼子にそう聞かれた音夢は恐る恐る口にした。
音夢「えっと……藤倉君ってここの場所、知ってましたっけ?」
音夢がそう言った瞬間、場の時が止まった
そして、とても嫌な予感がする……と同時に思う純一達であった。

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