小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene05

目の前には見られない光景と、少女が椅子の上に座り窓の景色を眺めていた。
――ん?また誰かの夢を見ているのか……
純一は心の中で深い溜め息をついた。
他人の夢を見せられる……純一が魔法使いだった祖母から受け継いだ魔法の一つである。
魔法と言っても、ただ他人の夢を見せられるだけ。
魔法が使えると言うのがかっこいいだとか、何とか言っている人もいるが、そんな人達に純一は声を大にして言いたい。
――他人の夢ほど面白くない物はないと……
登場人物が分からないラブストーリーや、経緯が不明の冒険物語なんかは、安眠妨害の何物でもない。
純一は正直、うんざりしていた。
ジリリリ……
――ん?
カチ
純一「……」
純一は眠気眼で目覚まし時計を見る。
――!?
純一「やっば、遅刻だ!!」
――……
純一「……かったるい、サボろう……」
純一は持っていたボール型の目覚まし時計をベッドに放り投げると服を着替え、特にする事も無いので散歩する事にした。
――しかし……
純一「こんな気持ちの良い日に学園に行く奴らの気が知れないな……」
軽く伸びをしながら純一は桜公園に来ていた。
初音島にあるこの公園の名称は「初音島中央公園」だが、一年中枯れない桜が多数植えられているので、人々からは桜公園と呼ばれている。
「おーい、あっちに妖怪がいるぞー」
「行ってみよーぜ」
純一「……ん?」
何人かの子供達がそのような事を言いながら走りすぎて行く。
――妖怪ねぇ……
――まあ、ここには一年中枯れない桜と出来損ないの魔法使いまでいるんだ、――今更妖怪が来ようが何が来ようが……
純一は、特に気にすることなく子供達の横を通り過ぎようとした。
「正体現せ―」
「猫又―」
――もう驚かん……
純一「……」
――しかし……ガキに苛められるか?普通……
純一がふと子供達が群がる所を見てみると。
純一「ん?」
純一は一瞬自分の目を疑った。
何故ならそこにはメイド服を身に纏い、さらには頭にネコミミを生やした少女がうずくまり、子供達に苛められていた。
――は……はは、そう言う事か……
純一「……」
――見ちゃったからには放って置く訳にもいかないよな……
純一「……おい」
純一は一番近くにいた子供の肩に手を置いた。
その子供が振り返ると。
純一「何しくさってんだ?ああ?」
出来る限り睨みを利かせてみた。
「!?」
純一を見た子供達は泣きながら何処かへ行ってしまった。
純一「ふぅ……」
――かったるい事させやがって
純一「大丈夫?」
次に純一は俯いて泣いているネコミミ少女に手を差し伸べた。
「うう……はい」
その少女はその手を取ると純一を見上げた。
純一「っ!?」
その少女の容姿は軽くかわいいの部類に入るほどだった。
――……ったく、一体誰の趣味だ?
「あの、ありがとうございました、私、鷺澤頼子と申します」
と、地面に座ったまま行儀良く頭を下げた。
純一「あ、ご丁寧にどうも、俺は朝倉純一です」
釣られて同じように挨拶する純一。
――て、何でこんな所で自己紹介してんだ?俺
純一「まあ、無事で何より、じゃあこれで」
頼子「えっ?」
純一は立ち上がりそのまま歩き出そうとしたが。
ガシッ。
純一は服の裾を引っ張られ強制的に止められた。
純一「……まだ、何か用?」
純一はそう言いながら振り返ると。
純一「な!?」
純一の服の裾を引っ張っていたのは頼子ではなく、杉並だった。
杉並「相変わらず鈍い奴だなあ、朝倉」
純一「杉並!?一体何処から湧いて出た?」
杉並「何、つい今しがただ」
杉並はそう言うと立ち上がり、何処からか虫眼鏡を取り出した。
頼子「あの、この方誰なんですか?」
多少怯えながら純一に訊く頼子。
純一「こいつは杉並で、俺のダチみたいなもんだよ」
杉並「見よ!」
杉並はそう叫ぶと、持っていた虫眼鏡を頼子に近づけた。
杉並「生きた化石だ!リアルミステリーが、目の前で息をしているのだぞ?」
純一「は?」
杉並「くぁー!ネコミミとはまいった!盲点だった」
頼子「あ、あの……」
杉並「それで、その立派なお耳は本物なのか――」
ガシッ
頼子の耳を触ろうと近づいて来た杉並をかろうじて阻止する純一。
純一「おい!失礼だぞ、その剥き出しの好奇心をしまえ!」
杉並「ふ、じゃあ朝倉、お前は気にならんのか?触ってみたいとも思わんのか?」
純一「く……それは……」
純一は、一瞬杉並から目線を逸らした。
純一「でも!おわ!?」
その一瞬で杉並は純一の前から消えていた。
杉並「時に純一、まさか、お前このまま彼女を放って置くつもりじゃないだろうな?」
消えたのではなく、純一の背後に移動していた杉並は再度純一に問いかけた。
純一「じゃあ、俺にどうしろと言うんだ?」
それを聞いた杉並は純一の肩に手を回し、引き寄せた。
杉並「幸い、お前の両親は海外赴任中で、空き部屋もあるではないか」
耳元でそう囁く杉並。
純一「マ、マジか……」
「あいつだよ、ママ」
遠くの方で聞こえてきた子供の声に杉並と純一が向くと。
「あいつが僕達が遊んでいたのを邪魔したんだ」
――あれは、さっきのガキ?
「まあ!」
その瞬間、その子供の隣から出てきたのは。
「いい歳して、私の可愛い学ちゃんを苛めるなんて、絶対許さないザマス!」
杉並「おお!これは現代では既に絶滅したと言われていたザーマスおばさん……ミステリーだ」
虫眼鏡片手に感嘆の声を漏らす杉並。
純一「杉並、後は任せた!俺達は一先ず逃げる、行くぞ頼子さん!」
頼子「あ、はい!」
杉並「それではまたお会いしましょう、生きた化石のお嬢さん!」
杉並は走り去って行く純一と頼子に向けて手を振った。
ドドドド……
杉並「ん?」
「邪魔ザマス!」
ドカッ
杉並「ぐあ……」
ドサッ
ザーマスおばさんは振り返った杉並に体当たりの一撃を加え、それをふっ飛ばし、純一達を追って行った。
純一「はあ、はあ、ここまで来れば……」
頼子「はあ、はあ、はあ……」
全速力で逃げて来た二人は、ある程度来た所で止まった。
信「何やってるんだ?朝倉」
そんな二人の前に現れたのは、信だった。
純一「信か……はあ……」
信「……純一、この子は誰だ?」
純一「ああ、いろいろあってな……」
頼子「あの、この方は……」
純一「ああ、信と言って、杉並同様、ダチみたいなもんさ」
信「よろしく……えっと、名前は?」
頼子「あ、私は鷺澤頼子と申します、こちらこそ、よろしくお願いしますね」
頼子は純一の時と同様、礼儀正しく自己紹介した。
そんなほのぼのとした時間を過ごしていた三人だったが。
信「ところで、お前こんな所で、しかも私服で何してたんだ?」
ドド……
純一「ああ、何かかったるくてな……」
ドドドド……・
頼子「純一さん、あれ……」
信・純一「ん?」
頼子が指差す方向を向くとそこには何時ぞやのザーマスおばさんが、脅威の執念深さを発揮し、まだ追ってきていた。
純一「な!?こ、こんな所まで……」
信「朝倉、あの異様の者は一体なんだ?」
純一「信、気を付けろ、あれがここにいるって事は、杉並は……」
――恐らくやられたのだろう……
信「何!?杉並が……?」
徐々に迫ってくるザーマスおばさん。
信「くそ、朝倉!ここは俺に任せて頼子さんと一緒に逃げろ!」
純一「よし、任した、信!」
頼子「信さん、大丈夫なんですか?」
心配そうに訊く頼子に信は黙って親指を立てた。
純一「行くよ、頼子さん!」
二人が逃げて行くのを確認した信は。
――あの杉並を……できるな、しかし!
信「おらあぁぁーー!!!」
迫り来るザーマスおばさんに一人突っ込んで行った。

-5-
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