小説『D.C.〜Many Different Love Stories〜』
作者:夜月凪(月夜に団子)

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Scene08

ある日の放課後。

――ったく
智也「暦先生、鍵位自分で返せよな……」
智也は、そう愚痴をこぼしながら放課後の廊下を一人で歩いている。
それは、今から数十分前。
純一「んー……今日も終わった終わった」
ホームルームが終わり、急に騒がしくなる今日室内で大きく伸びをする純一。
智也「朝倉、この後どこかで遊ばないか?」
杉並「勿論、俺も一緒だ」
智也、その後ろで言う杉並、そのさらに後ろには工藤も立っていた。
純一「杉並が来るかどうかはともかく、まあ、別にいいぞ」
智也「そうと決まれば早速……」
そう言って歩き出した、その時。
ガシッと、智也は背後から誰かに肩を捉まれる。
智也「何だ?杉並、忘れ物でもした――」
のか……と、言おうとしたが、その杉並は智也の目の前にいた。
杉並「俺ならここにいるぞ」
智也「じゃあ、誰だ?一体……」
ゆっくりと振り返ると。
智也の目の前には智也達のクラスの担任、白河暦が智也の肩を掴んだまま立っていた。
智也「こ……暦先生!?」
智也は突然の事に驚き、声が上ずっていた。
暦「ん?ひどい驚きようだな、どうかしたのか?」
智也「い、いえ!何も……ところで、何か用ですか?」
暦「ああ……」
暦は思い出したのは用にポケットの中に手を入れ、鍵を一つ取り出した。
暦「この鍵を用務員室に返してきて欲しいんだ、私はこれから職員会議でね」
智也「え!?」
暦「まさか、出来ないなんて、言わないよなー?」
智也「……やらせていただきます」
暦のある意味脅迫じみた言葉にただ頷くしかない智也、ここで断ったら、暦の実験体にされかねない。
暦「よろしい、さすがは藤倉だ、それじゃあ頼んだよ」
暦先生はそう言うと足早に教室から出て行った。
そう言う訳で鍵を返してきた智也はこうして廊下を歩いている訳だ。
――あーあ……何か一気に疲れたような気がする。
智也「ん?」
微かに聞こえた声に立ち止まる智也
智也が耳を済まして聞いてみると
――歌?
智也「……音楽室の方からか」
気力ゲージがマイナス値を記録し、このまま帰ろうと思っていた智也はまるで引き寄せられるように、自然と声がする方へ足を進ませた。
その歌声はやはり音楽室からだった。
智也はその澄んだ歌声の主が知りたくて教室のドアをそっと開き、中を見る
その歌声の主は。
智也「あ、白河か」
その歌声の主はことりだった。
――歌が上手いってのは聞いてたけど
学園のアイドルであることりはその歌の素質も凄く、ちょくちょく音楽部から助っ人を頼まれているのはもはや学園全員が知っている事である。
――心地良い歌声だなぁ
覗きみたいで悪いとは思ったが、智也はその歌声に聞き入っていた。
ことり「……誰か、いるんですか?」
――っ!
突然声を掛けられ、智也は驚いた。
ことり「あなたは、あの時の」
智也「悪い!除くつもりはなかったんだけど、あんまり上手いもんだから、声かけるのが悪くて」
素直に謝る智也。
ことり「いえ、気にしないで下さい、あなたなら……」
智也「え?なんか言った?最後の方、聞き取れなかったけど……」
するとことりは手をパタパタ振りながら。
ことり「いえいえ、何でもないですよ……ところで、あの時は本当にありがとうございました」
と、頭を下げることり。
智也「いや、いいよ。そんなだいぶ前の事……」
ことり「あの、まだお名前聞いてませんでしたよね?」
――ああ、そうか、あの時は
智也「俺は一組の智也、藤倉智也」
ことり「藤倉君ですね?」
智也「ああ、じゃあ、邪魔しちゃ悪いからもう帰るよ」
ことり「あ、私もきりがいいのでもう帰りますから、一緒に」
そして、二人で歩く並木道。
智也「しかし、本当に白河は――」
ことり「ことり」
智也の言葉を遮るように言う。
ことり「ことりでいいですよ、知らない仲じゃないんだし」
智也「……じゃあ、ことりは本当に歌が上手いんだな」
ことり「そ、そんな事……あ、私はここで」
智也「うん、じゃあ、さよなら」

次の日。

杉並「それはなんと言うお宝映像か」
教室の廊下で、感嘆の声を漏らす杉並。
智也「そんな大袈裟な」
杉並「そんな事はない、可憐で清楚、学園のアイドルである白河嬢の歌う姿など、まさにZ級のお宝映像だぞ」
――そんなもんかね
杉並「ところで藤倉」
智也「ん?何だ、改まって」
急に話を帰る杉並。
杉並「そろそろ夏だな……」
智也「ああ、そうだな……」
杉並「照りつける太陽、そんな夏と言えば海」
智也「相変わらず回りくどい言い方だな、本心は何だ?」
杉並「ふ、夏休みに皆で海に行こうという提案があるのだが、お前も来い」
――来いって……命令かよ
智也は心の中でそう突っ込んだが、あえて口には出さなかった。
杉並「朝倉兄妹、水越姉妹、胡ノ宮嬢に砌と師走、芳乃嬢、わんこの了承は得ている。そこでだ、お前に頼みたい事があるのだが……」
どうやら智也は既に参加人数に入っているらしい。
――まあ、別に行きたくない訳じゃないけどな
杉並「ん?どうやらターゲットが来たみたいだな」
――ターゲット?
杉並は智也そっちのけでそのターゲットやらの所に行った。
智也が杉並の向かっている方向を向くと。
智也「ターゲットって、ことりの事か?」
そこには友達であろう女子二人と一緒に歩いていることりがいた。
杉並「ん?何故お前が彼女の事を下の名前で……まあ、それは後でじっくり調べるとして」
なんだか最後らへんにかなり微妙な事を聞いた気もするが、それはさておき
杉並は彼女達を呼び止め。
ことり「あの、なにか」
杉並「今度の夏休みに皆で海水浴に行こうと思うんだが、そこで是非とも白河嬢達もどうかと……」
杉並の言葉にしばらくどうしようか迷うことり。
「あの……それには他に誰が」
友達の一人が訊く。
杉並「ん?一組の朝倉兄妹と同じく一組の水越眞子とその姉、四組の胡ノ宮環、杉浦砌に藍澤師走、三組の芳乃さくらと二年の天枷美春、そしてここにいる俺と智也だ」
智也「おい、俺はまだ行くと言った訳じゃ――」
杉並「じゃあ、行かないのか?」
智也「く、いや」
杉並「ふ、当日が楽しみだよなあ」
――こいつ……
どうやら自分に拒否権はないなと思った智也。
「どうする?ことり」
ことりはしばらく考え。
ことり「……いいですよ」
杉並「おお、そうか。ならば」
と彼女達と何やら話している杉並、おそらく集合日時や場所を教えているのだろう。
そして三人と別れた後。
杉並「まさか本当に白河ことりから了承が得られるとは……」
智也「何だ?駄目元か?」
杉並「……まあいい、当日が楽しみだな、藤倉」
杉並はそう言うと先に教室に入って行った。
智也は杉並が去り際に見せた笑みが気になったが。
――いや、あいつの事で頭使う事自体が無駄な事だ……
――あいつはそれなりの機材が揃った研究所でさえも解明するのは不可能だろう
智也はそう思うと、教室に戻った。

その日の放課後。

眞子「藤倉」
智也「何だ?眞子、用なら手短にしてくれ」
――それでなくとも今日は杉並の事で無駄に頭使ったんだ、早く帰って休みたい……
眞子「なんか用でもあるの?」
智也「ああ、ちょっと、解明不可能な生物の事で頭使ってな、早く帰りたいんだ」
眞子「は?」
眞子はしばらく言葉の意味を理解しようと考えていたが。
眞子「まあ、いいわ、藤倉ってさ、夏休みに何か予定とかってある?」
智也「予定?どうした?急に」
眞子「もしなかったらさ、みんなで海に行く事になったんだけど、あんたも行かない?」
――海?……ああ、あの事か
智也は休み時間の杉並とのやり取りを思い出した。
――杉並の奴、言ってなかったのか
智也「ああ、その事は今日杉並から聞いた」
眞子「それで?」
智也「まあ、どうせ暇だからな、行く事にした」
――といっても、ほとんど強制みたいな気もしたが
眞子「そうなんだ。楽しみだよね」
智也「まあ、な」
――確かに、悪い話でも、ない
ふと、参加するメンバーを思い出しながら思った。
眞子「何ニヤニヤしてるの?」
智也「え!?……い、いや、何でもない」
――顔に出てたか、危ない危ない……
智也「用は、それだけか?」
眞子「え?あ、うん」
智也はその言葉を聞くと「じゃあな」と眞子に手を軽く振りながら教室を出た。

その頃、朝倉家では。

純一「ふう……」
――ったく、ろくな番組やってねーな
純一はテレビのチャンネルをころころ変えていたがそれにも飽きたのかテレビを消し。
純一「……暇だ」
その時。
「おにいちゃーん!……あれ、いないなあ、もしかして、居間かなあ?うたまる」
「にゃー」
二回から物音と微かに聞こえるさくらの声。
――さくらか……まあ、暇つぶしの相手にはなるな
しばらくして、さくらが降りてきた。
さくら「お兄ちゃん、やっぱりここにいたね。あれ?音夢ちゃんは?」
と探すように辺りをきょろきょろする。
純一「音夢は風紀委員の仕事だ、それで、お前は何の用だ?」
さくら「あ、そうだった。えっとね、夏休みにみんなで海に行くでしょ?」
純一「ああ」
さくら「それで、新しい水着を買おうかなーって思ってるんだけど、お兄ちゃんはどんなのがいい?」
純一「……」
――さくらに似合う水着ねぇ……
純一は一通りさくらの全身を見て。
純一「お前に似合う水着はスクール水着ぐらいだな」
――どう見ても……さくらには悪いが
さくら「ふーん、そうなんだ。よし、じゃあ、当日を楽しみにしててね!」
さくらは軽く頷くとそう言い、帰って行った。
――何を楽しみにするのやら……
純一「あーあ、暇だぁ……」
純一は風紀委員の仕事の後に美春と一緒に買い物に行くと言っていた音夢が早く帰ってくるよう願った。

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