第十二話 あまり人には隠し事はしないように
「というわけなんでセイバー陣を襲撃したいと思う」
「話の冒頭で何言ってるんですか」
善明が突然そんな事を言いだした
いつも通りの朝、全員で食事した後のんびりしていた時にである
「いやぁそれがさぁ。こっちにも事情って言うものがあってよぉ」
「事情って何かあったんですか?」
ハサンが善明に聞くが
困った顔をしながら、腕を組む善明
「それがさぁ〜もう説明するのも面倒なんだよ。どれくらい面倒かと言うと、あぁ〜もう面倒くせぇ!考えるのも面倒くせぇよ」
「どんだけ面倒なんだよ!!もう少しやる気ぐらいだせぇ!!」
面倒くさがる善明にツッコミをいれるハサン
善明はダルそうに全員に言う
「まぁ簡単に言えば爺さんからちゃんと聖杯やれって言われてよォ。もしやんなかったら給料減らすぞって脅されてんだよ」
「あんたは聖杯より金が大事なのかよ!」
「そういうわけだから、襲撃は一週間後だ。全員整えておけよ」
善明が突然の事にハサンハ納得いかなかった
他のサーヴァントはただ頷く、そして何事もなかったかのように過ごす
襲撃三日前の朝
「あん?ハサンの様子がおかしい?」 バリバリ
「そうなんですよ。最近は食事以外は部屋にこもってしまって、ロクに話もしないし」 ズゥー
「そう言えばこの頃アイツの姿見えないなぁ」 もぐもぐ
煎餅をかじっている善明と饅頭を食っている雁夜にハサンの事について相談しているのは女アサシン事アサ子さんである
アサ子はハサンの事で心配し、善明に相談していた。一度茶を飲み、続ける
「それに朝方まで寝ないで部屋で何かシコシコやっているようなんです」
「シコシコ?」
善明はその部分に反応する
いや、反応せざる追えないと思った
「部屋に前に丸めた紙みたいな物が散乱していて・・・一体何をしているのかしら。夜な夜な何をシコシコやっているのかしら」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
善明と雁夜はハサンがどういう事になっているのか分かったのか、何も言わず困った顔をする
というより言えなかった。ある意味
「とにかく難しい年頃だから、こういう事は男の善明さんと雁夜さんに聞いた方がいいかと思って、ちょっと様子を見てきてもらえます?」
「ほっとけよ。男はな、年頃になると家族とかうっとうしくなる時期があんだよ。そうやって自立していくの」
「というよりサーヴァントって年頃とかあんのか?」
「じゃあ一体部屋で何をシコシコやっているんですか。それも自立に必要なんですか」
「自立っていうかぁ・・・まぁ立ってるよ」
「そうだな、一人である意味・・・要するに・・・」
ハサンの部屋
コロン
「う〜ん。後は何と書き出せばいいんだ。敵陣に手紙を出すなんて本当に何も知らないもんな〜」
ハサンは部屋に丸まった紙を投げる。その紙は所どころに散乱している
机には紙とペンがあり、目の前のある窓は開けている
「分かっているのは」
ハサンはある一枚の手紙を取りだす。それはアイリスフィールの手紙だった。ハサンは朝早くにセイバー陣のいるアインツベルン城に自分の足で行き、手紙を入れている。差出人も自分の名前を書き、受取人はアイリスフィールに書いている。このやり取りが何日が続き、お互い分かりあえるようにしている
そして手紙の返事は
≪手紙読みました。本当に礼儀正しいサーヴァントね。わざわざ手紙なんて書くなんて・・・こっちも話し合いが出来るよう切嗣を説得してみるわ アイリスフィール≫
という心優しい文章が書かれてあったので、ハサンの仮面の目、隙間、穴から涙が滝のように流れ出していた
「うぉおおおおおおおお!!なんて心優しいマスターなんだ!!・・・そうだ!!この書き出しにしよ・・・」
「ハサン」
「はっはいィィ!!よっ善明さん?居たんですか!?」
廊下から善明の声が聞こえ慌てるハサン。急いで机の上を片付ける
善明は部屋に入らず、ハサンに話しかける
「お前よォあんまアサ子に心配かけんじゃねーぞ」
「え?何言ってんですか」
「それともう一つ・・・」
そこで善明は一度言葉を切り、扉を少し開ける
そこからエロ雑誌をハサンに見せる
「手はキチンと洗えよ」
「何を気持悪い気ィ回してんだァァ!!」
ハサンは善明の変な心遣いにシャウトする
「何勘違いしてんですか、違いますからね!私そういうんじゃないですからね!!つーか何でいつもよりちょっと優しくなってんだよ!気持ワリーんだよ!!」
「え?違うの?こういうんじゃないの?」
善明は扉を開ける
そして何故か善明の後ろにはSM嬢が三人ほど居た
「なんだよ。俺ァはてっきりアレかと思ってよう、完全に勘違いしてたわ。ワリーな、わざわざ来てもらったのに。はい解散」
「アンタ私が部屋で一体何してたと思ってたんですかァァ!!誰だよそいつら!!どっから連れてきたんだよ!!」
「オォイ!馬忘れてんぞ!!・・・・・使う?」
「何にだよ!!」
「文通?はァ?じゃあお前毎日夜な夜な書いてたのって手紙?ホント青くせーことやってんなァ」
「皆さんには言わないで下さいよ。敵陣と文通なんて知ったら色々とアレなんで」
「アレなんでって何だよ。何かやらしい事でも考えてんのか」
「かっ・・・考えてねーよ!!そーいう風に思われるのが嫌なんですよ!!」
善明は座りながら手紙を読みながらハサンにネチネリ言う
ハサンは必死に言い返す
「私はただ純粋な気持ちでセイバーさん達と交流したいだけです」
「交流って何を交わらせるんだよ」
「友情ですよ友情!!少年は友情・努力・勝利で出来てるんですから・・・考えてみて下さいよ。この聖杯戦争で誰も争わずに話し合いだけで解決出来て、あちらもそれを願っているんですよ。これも何かの縁があるんですよ」
ハサンは誰も争わず聖杯を手に入れるのを夢見ていた
その思いが遂に叶う事が出来ると思っている
「でも、皆さんに聞かれたら偽善者とか世迷言とか言われるに決まってますよ」
「んなことねーよ。意外とそういうのは理解してんじゃねーのあいつら」
「いやないですよ」
「ハサン」
「アサ子さん!?」
善明とハサンが話している時にアサ子の声が聞こえてきた
アサ子は扉を少し開けるが部屋に入ってこなかった
「お茶とお菓子持ってきたから良かったら食べて」
扉からそっと出てきたのが穴の空いたこんにゃくとローションが乗っているお盆だった
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「た、足りないといけないと思って・・・・・これ」
アサ子はさらにある物をお盆の隣に置いた
「糸こんにゃく」
「えぇ・・・・・・・・・・」
ハサンは顔を青くする
そしてアサ子は扉越しにハサンに言う
「・・・ハサン。ハサンがどんなになっても・・・私の・・・人格ですから」
バタン!!
アサ子少し空いた扉を思いっきり強く閉め、そのまま走り去った
ハサンは未だに顔を青くしている
「ホラな。分かってくれるだろ」
「どんな理解のされ方してんだァァァ!!!」
ハサンは正気を取り戻し、善明に向かって激怒しながらツッコム
「アンタ、人の人格に何話したんだァァ!!なんでお茶としてローション出てくんだよ!なんでこんにゃくに穴開いてんだよ!完全に勘違いしてるよ、一回も目ェ合わせてくれなかったよ!!どーしてくれんだァ!これから超気まずいだろーがァ!!」
「まァまァ落ち着けよ」
善明は穴の空いたこんにゃくを食いながらハサンに言う
「ローションがアリってことは文通もアリだろ。良かったじゃん」 もっちゃもっちゃ
「全然良くねーんだよ!!文通バレた方がはるかにマシだったわ!!」
善明はこんにゃくを完食し、ハサンが使っている机に行く
「で、結局何て書いたんだよ手紙。見てやるよ、貸してみろ」
「いや、いいですよ。ちょっやめて下さい」
ハサンが手紙を隠そうとするが、善明に取られ読まれてしまった
「≪手紙の返事ありがとうございます。とっても不思議な事ですね、こんなやり取りが聖杯戦争でやっているなんて・・・≫オイオイ何だよコレ〜長げーし面白くねーし普通だし」
「べ・・・別にいいでしょ。奇をてらったって仕方ないでしょ手紙で」
「お前、あいつらと仲良くなりたいんでしょ。お近づきになりたいんでしょ。奇をてらわねーで、どうすんだよ」
「え?てらうって」
ハサンは手紙を取りかえすのをやめ、善明の話を聞く
「本来俺達は敵同士だ。こうして文通出来るだけで奇跡に近いんだから、もう少し慎重に行けよ。それにこの簡潔な文章。奇抜なことが好きな奴ってのはな、飽き性が多いんだよ。恐らく三行以上の文章は読まねーよ」
「・・・確かに私の手紙は長い上に要点が良く分からないですね。今まで送った手紙もですけど」
ハサンは自分の失態に落ち込んでいた
善明は軽くアドバイスをしながら慰める
「向こうの情報がロクにない以上、こっちの事を分かってもらうしかないだろ。自己紹介や俺達の事なら三行で収まる・あと写真だ、むこうの警戒を解く為にこっちは写真を送らねーと」
「そうか、そういやそうだ。でも自己紹介なんてたったの三行で出来ますか」
「出来るだろ。とにかくシンプルに分かりやすくしねーとよ。こんなんどうだ?」
そう言って善明は紙にすらすらと書いて行く
そしてハサンに見せた
「なんの単行本だァァァ!!コレ単行本の表紙の裏のアレだろコレ、よく見たことあるわ!!」
何故か単行本のアレが書かれていたのでハサンは指差しながらツッコミを入れる
「なんで著者近影、仮面しかねーんだよ!」
「著者は姿見せると作品の人気が下がる場合があるからな」
「失礼な事言うんじゃねーよ!」
ハサンは次に文章について突っかかる
「つーか文章三行どころか一行しかないでしょーが!写真も文章も仮面しかふれてねーよ!」
「色々書こうと思ったんだけどな。仮面しかなかったんだよ凹凸が」
「凹凸って何だ!!」
ハサンは机を叩きながら善明に激怒する
「ホラ、お前って平面に仮面だけ転がったようなサーヴァントじゃん。出来るだけ引き伸ばしたんけど、これが限界だな」
「どんだけつまんねーサーヴァントだよ!!」
「いやでも、これ位の方が創造の余地があって深い感じになんだよ。オシャレなカンジに」
「どこが深いんだよ!?仮面買った報告しかしてねーよ。つーか買ってないからね仮面なんて」
「分かった。じゃあこうしよう」
善明は再び手紙をすらすらと書いて行く
そしてハサンに見せる
「深みが一気に増しただろう。三行になったし」
「み○を風になっただけだろーが!!1ミリたりとも深さましてねーよ!仮面買っただけだからね!つーか何度もいうけど、買ってないからね仮面!」
ハサンは手紙を見ながらツッコム
善明は考えたという顔をしながらハサンに言う
「話を面白くするためには多少の色つけんのも必要なんだよ」
「全く面白くなってないから!!どうせなら、もっと鮮やかな色塗ってよ」
ハサンは一度落ち着かせて、善明に三本の指を見せながら言う
「三行です!やっぱ最低三行たっぷり使わないとキツイですって」
「三行ねェ。まァなんとかやってみるか」
善明はまたすらすらと手紙を書き、ハサンに見せる
「コレなんてどうだ」
「ジャンプの目次コメントになってんだろうが!!まんま目次コメントだろうが!!」
今度はジャンプ系の手紙になっていたので、それをツッコミまくるハサン
だがそろそろ喉にも限界が近かった
「何でバレンタインみたくなってんだよ!!何でたくさんの仮面が送られて来てんだよ!!このSってスタッフって誰だァ!!」
「スタッフじゃねェ。サッバーハのSだ」
「うっせーよ!!結局ハサンしか仮面つけれねーだろうが!何にも状況打破出来てねーよ!」
このやり取りが何時間も続き、ようやく一枚の手紙を書く事が出来たハサンだった
アインツベル城 朝
「マダム、お手紙です」
「ありがとう」
朝早くから起きていたアイリスフィールは舞弥から手紙を受け取っていた
手紙を読み、さらに写真を見て少し笑うアイリスフィール
「マダム、手紙にはどのような」
「フフフフッ、面白い内容よ。それから、とても楽しいそうで」
アイリスフィールは舞弥に手紙と写真を渡す
手紙にはこう書かれている
≪こちらも何かと話し合える状態になりました。皆さんも納得したみたいで・・・でも私は何かと痛い目にも会いました。全員から拳を一発もらって倒れそうです(泣)。何はともあれ、三日後楽しみにしています。 ハサン≫
そして写真は、大掃除のお昼の騒動の時のであった
舞弥はこれを見て、驚きはしたがすぐに冷静になる
「三日後が楽しみね」
「ですがマダム。本当によろしいんですか?」
「いいのよ。切嗣だって分かってくれるわ。さて、手紙の返事書かないと」
アイリスフィールはハサン達に書く手紙を書き始めた