小説『Fate/Zero これは戦争ですか? いいえ観光です』
作者:銃剣()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

番外話 3年FZ組 善八先生2





某月某日、放課後
Fate高校3年FZ組の教室に、五人の生徒が集められていた。その五人は今はまだ姿を見せていない担任が来るのを待っていた。沈黙が続く中チャイムが鳴り始めた


チャイムのあと、教室の引き戸が開き、白衣姿で黒髪姿、ずり落ちた眼鏡の松村善八が姿を現した


「よーし、お前ら席付けー」


背負いのかけらもない声で言いながら、善八は教壇に上がった


「えー今から特別授業始めんぞー。今回のテーマは…」


とチョークに手を伸ばした善八だったが、なにかを思い出したように正面に向き直り


「……おっと、その前に軽く出席とっとくか。名前呼ばれた奴は返事しろよ。ハサン」


なぜ出席?と思いつつも、ハサンは「はい」と返事する


「セイバーオルタ」


「はい」


「ジル・ド・レイ」


「はい!」


「慢心……」と言いかけたのを、訂正して


「えー、ギルガメッシュ」


ギルガメッシュはイラっと眉毛を動かしつつ、「……はい」


「ランスロット」


『はい』


出席をとり終えると、一つ頷いて善八は言う


「はい。今回は、俺を入れてこの六人で進めていくんで、ひとつよろしくー。じゃ、今日のテーマ……」


「あの、先生」とハサンは挙手をする


「なんだ?」


「どうしてわざわざ出席とったんですか?」


生徒はたったの五人。わざわざ出席をとるほどのことでも、と思ったのだ


「どうしてって、そうした方がメンバーが分かりやすいじゃねーか」


善八は片眉を上げながら答える


「それによ、最初にこのメンバーですっつっといたら、小説読んでる人も余計な期待しなくて済むだろ。『このあとイスカンダル出てくんのかな』とか『桜ちゃんもいるのかな』とか、気にしなくて済むだろ」


「ま、そりゃそうですけど」


「つーわけなんで小説読んでる諸君」と善八は呼びかける


「もうこのあと新しいメンバーは出てこないんで、そこんとこよろしく。まあ、そんときはハサンがモノマネで対応しますんで」


「いや、ムチャぶりしないで下さい!できませんよ、モノマネなんて」


慌ててハサンはツッコム


「そんなに怒るこたーねだろ、ジル」


「私は我が聖処女の良さをみなさんに……てだから無理ですよ!」


「あと私、側にいますよ」とジル・ド・レイは自分を指差す


「さ、駄面(駄目な仮面の略)が軽くスベったところで本題に入るぞ」


一瞬でも頑張ろうとしたハサンを、そんな残酷な一言であしらってから、善八はチョークを手にした


「もう帰りたくなった……」


というハサンの呟きも無視し、善八は続ける


「えー、じゃ、今日のテーマを発表するから、全員黒板に注目」


言って、善八は黒板になにかを書き始める
カツカツという小気味よいチョークの音が響く

響く

まだ響いている

まだ……


「いや、どんだけ長文書いてるんですか!長すぎるでしょ」


たまらずハサンがツッコムと、善八はやっとチョークを置いて、こちらに向き直った


「今日のテーマは『この小説』についてだ」


黒板に書かれたのは『この小説』という四文字だけ


「それだけ?」とハサン


「あのチョークの音はなんだったんですか」


「えー、席ほどから、この仮面がチョイチョイ口挟んでるが、これが一般的にツッコミと呼ばれている行為だ。今日はこのツッコミが重要となっている『この小説』について、もろもろ議論をつくしたいと思う」


そこへ、「先生」と口を開いたのがギルガメッシュだ


「そもそもなんで今日のテーマが『この小説』なのか、まずそこを説明して下さい」


「なんでって、決まってんだろ」


だるそうに善八は説明する


「番外話入れて二ヶ月以上更新してねーのに、こうしてまた番外話書かれてるという問題。もう読者も呆れてるだろうよ」


「そこまで言いますか普通?」


「それによ、この話には番外があってな、その番外のテーマがツッコミなんだよ」


「……や、逆でしょ」


やんわりとハサンは訂正する


「小説の番外がこの話でしょ」


「え……マジ?」と目を見開く善八


「この話の方が番外なの?」


「そうですよ。今知ったんですか?」


「んだよ、おい。テンション下がっちまったよ」


善八は嘆息まじりに天を仰ぐ


「たくよー、番外だって分かったら、わざわざ気合入れてストレートパーマかけてくることもなかったんじゃねーか」


「いや、嘘つかないで下さい!」


聞き逃さずハサンはツッコム


「あんた、今日も黒髪の天然パーマじゃないですか」


「かてーこと言うなよ」


善八は小さく舌打ちする


「どうせ絵が見えてるわけじゃねーんだしよ。あと、お前も人のこと注意する前に、パンツぐらいはけ」


「いや、はいてます!誤解招くようなこと言わないで下さい」


ハサンは制服のズボンを叩く


「けど参ったなー」


善八はなおもブツクサとこぼす


「番外だって聞いた途端、急激にやる気なくなっちまったぜ。おーい、どーすんだー。だるだる善さんがいつにも増してだるだるになっちまったぞー」


そこへ、セイバーオルタが言う


「善明。だったら善明のやる気が出るように、私が凄い特技をやるぞ」


「いや、やっても見えないから!これ小説だって言ってるでしょ」


だが、構わずオルタはある物を机に置き、席を立ち上がり


「うおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


特技を見せる


「おおおおおお!!」と善八が早速驚喜


「スゲー!その関節の曲げ方!」


「だから見えないっつってんでしょーが!これ小説なの!」


しかし、善八は不敵に笑う


「甘いぜ、ハっつぁん。この小説はな、『上上上上上上左左左左右右右』で、漫画になるんだよ」


「ならねーよ!それ『ドル●ーガの塔』の隠しコマンドでしょ!」


言葉の途中で、今日初めてのピー音が教室のスピーカーから流れる


「バッカ。ドル●ーガだけじゃねーよ。他にもゼビ●●とか、パック●●とか●●●とか……」


「もうピーピーうるせーよ!」


ハサンは耳を塞ぐ


「ちょ、先生!」とここで立ち上がったのがジル・ド・レイだ


「もう一回言って下さい。えーと、上上上下?」


「ほらぁ。おバカさんが信用しちゃってるじゃないですか」


言ったあと、ハサンはジル・ド・レイが手にしている物を見てギョっとする


「てか、ジル・ド・レイさんもなんでコントローラー持ってんですか」


そこへランスロットが軽い声ならぬ軽いプラカードが


『あー、違いますよ。それ入力する前にツーコンのマイクに向かって『おーい!』って叫ばないと』


「またそうやって……」と言いかけたハサンの声にかぶせて


「おーーーーーーーーい!」


ツーコンのマイクにシャウトするバカギョロ目


「いやもう、うるせーよ!」


大体そのツーコン、どこでテレビと繋がってるのですか――――――ハサンがそう続けようとした瞬間


「ハンバーガーァァァ!」


なぜかオルタもツーコンのマイクに向かって叫び出す


「ってなんでオルタさんまで叫ぶの!てか、なんでツーコン持ってんの!」


「ギルガメッシュ死ねやァァァ!」


これはランスロットだ。やはりツーコンを持っている


「あんたもかよ!なに、今ツーコン持つの流行ってんの!?てかどうやって叫んだの!」


「貴様が死ね狂犬ンンン!!」


「ギルガメッシュさんまで!てか、あんたよく見たらジョイスティックだし!」


ハサンは頭を抱える


おーい! ハンバーガーァ! ギルガメッシュ死ねェ! 貴様が死ねェ!
激烈な生徒たちが、おのおのツーコンを手に(一人はジョイスティックだけど)シャウトする


「ちょ、先生!」とハサンが善八に駆け寄る


「早くも収拾つかなくなってますよ!どーすんですか、これ!」


だが担任は顔色一つ変えずに


「悔しかったらおめーも叫びゃあいいじゃねーか。ほら、俺のツーコン貸し手やる」


と教卓の中からツーコンを取り出す


「先生も持ってんですか!」


「ツベコベ言うな。いいから、お前も思いのたけをマイクにぶつけてみろ」


差し出されたツーコンを、ハサンは反射的に受け取った


叫ぶのか?私は……
叫べばいいのか?

逡巡するハサンの耳に、みんなのバカシャウトの声が流れ込んでくる
頭蓋骨が軋むような感覚があった。たぶん理性が破壊せれつつあるだろう

叫んでやろうじゃないか、私も……

意を決し、ハサンはコントローラーを掴む手に力を込めた


「……みんな……みんな」


そこで大きく息を吸い込み、マイクに声を叩きつける


「いい加減にしろー・アイアスゥゥゥ!」


直後、教室が静まり帰った
静寂の中、不意に教室のスピーカーから不思議な電子音が聞こえた

ピロピロッピッピッピー

その音を聞き、善八が一言呟く


「あ、増えた……」


「や、なにが!?」












「はい、というわけで『これは戦争ですか? いいえ観光です』がどういうものか、おめーらよく理解出来たと思う。これは間違っても来年のセンター試験には出ない。――――――じゃ、日直号令」


「起立」とオルタが号令をかける


「礼」


ハサンはため息を一つついてから、言った


「……君らとはやっとれんわ」






ーーーーあとがきーーーー


どうも銃剣です
皆さんお久しぶりです。もう二ヶ月も過ぎてしまいました
11月と12月は仕事が結構入って書く暇がありませんでした
次の話は少しずつ書いてますのでもう少し待ってください。
それでは皆さんさようなら&メリークリスマス

-18-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




『Fate/Zero』 Blu-ray Disc Box ?
新品 \28370
中古 \15000
(参考価格:\39900)