小説『ソードアート・オンライン 第一章 〜アインクラッドと蒼騎真紅狼〜』
作者:大喰らいの牙()

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第十一話  ボス部屋


〜アスナside〜
私達は今迷宮区にて、出現したモンスターと戦っている。
私は、後衛で前衛はガロンがスケルトンナイトと戦闘中だが、私はその戦闘に手出しすることなく、ただただ見ることしかできなかった。
ガロンの戦い方は、千差万別。モンスターによって戦い方を変えて、必ず自分にとって立ち回りやすいように戦っていた。
私達が相手にしているスケルトンナイトは、結構厄介で自身のHPバーが半分を切ると楯による攻撃・防御の二つの行動パターンを取ってくる。
しかも、ときおりシールドバッシュでこちらを気絶させてくる為、気の抜けない相手だ。


―――パシャン!


ガロンの双剣による攻撃がスケルトンナイトにトドメを刺し、ポリゴンが弾けて飛ぶ。


「………良い相手だった」
「ガロンが前衛のせいで、私まったく戦っていないわね」
「いいんじゃねぇの? あのバカに『安全に責任は持つ』って言っちまったし、約束はきっちり果たさないとな」
「そういえば、気になっていたんだけど………貴方の“双剣”(それ)、なんなの?」


私は、ガロンが手にしている黒と白の双剣が気になった。


「ああ、これはな。俺に戦い方を教えてくれた師匠が使っていた武器がこのゲーム内にもあったのを知って、手に入れたんだ(大嘘です)」
「現実世界での?」
「そうそう。いやぁ、俺の師匠ってさ、容赦がないから気ィ抜いたら、即座に気絶させられたんだよね。フルボッコで攻撃をいなすのも大変なんだよ」


ガロンは笑いながら、気軽に話す。


「………ガロン、貴方は現実世界の事を話すときも口ごもったりしないのね。他の人は気まずくなったりするのに………」
「まぁ、この手の話しがここではタブーだってのは俺だって知ってるさ。だがな、ここに染まりきるってのもマズイだろ? いずれは現実世界に戻るんだ。少しぐらいはあっちの事も思い出して話す事ぐらいはしてもいいじゃないか」


それを聞いて、私は素朴の疑問が頭に浮かんだので訊ねてみた。


「ガロンは………この世界が嫌いなの?」


訊ねられたガロンは、頭を捻りながら答えた。


「う〜〜〜ん、どうだろう………答えるのが難しいな。結論から言ってしまえば、嫌いじゃない、むしろ好きだな。俺はこの世界も一種の現実世界だと思える」
「どうして?」
「朝になったら、職人達や俺達は<アインクラッド>を攻略し始める。そんな中にでも、犯罪は発生する。そして夜になれば、ギルメンで打ち上げをしたり、職人達は明日の準備に取り掛かったり、アスナの様に食事を取る奴だっている。これは現実世界でも同じことを俺達はやっているだろ? だからかな、俺がここも一種の現実世界だと感じてしまうのは………」


ガロンはそう思っていたんだ………。
今の置かれた状況や茅場晶彦によるデスゲームという事実を取り払って、見た状態がガロンにはそう見えた。
私には、理不尽に見えた。
ただただ試しに付けてみただけなのに、それがいきなり『この世界で死んだら、現実世界でも死ぬこととなる』と言い付けられ、絶望しながらもこの塔の頂を目指して頑張ってきた今の私とはまったく違う意見だった。


「………まぁ、人思うところはそれぞれあるだろうよ。今のは、現状を取り払った意見だな。………っと、安全エリアが見えてきたな」
「本当ね。ってことは、大体半分までマッピングされてきたってことね」
「ああ。この先のマッピングと言えば、ボス部屋だけだな」


私達は安全エリアで一度休憩してから、マッピングを開始した。
すると、連続でのモンスターとの戦闘により奥深くまで移動してしまったらしく、気が付いた時には………………目の前に凄く大きな扉が目に映った。


「ねぇ、ガロン………アレってまさか………」
「んあ? おおぅ、間違いなくボス部屋の扉だな」
「だよね………。覗いてく?」
「お前がそうしたいなら、俺は構わないが?」


つまり、私の意見によって次の行動が決まると言う事だ。
ここのボスの情報だけでも持ち帰れば、今後のボス攻略に優位に立てることが出来ることを考えると、見た方がいいわね。


「………見るわ。でも、姿を確認したすぐに撤退よ」
「はいよ。なら、転移結晶を用意しとけよ」
「わかってるわ」


私達は、転移結晶を持ち、ガロンがドアを派手に蹴り飛ばして中に入り、構えの姿勢を取った。
すると、周りの燭台に青い炎が灯り、この部屋のボスが姿を現した。
山羊の様な顔に、体躯は青い炎に負けないぐらいの深い青で全身は筋肉隆々。
さらには、大の大人が二人縦に並ぶことで同じぐらいの大刀に後ろには蛇の尾がくっついていた。
私は、あまりの怖さにガロンの腕に無意識でしがみついていた。
そして、ようやくボスの名が表示された。


【The Gleam eyes】


名は、グリームアイズと呼べばいいんだろう。
ボス―――グリームアイズは私達の姿を見た後、一際大きな咆哮を叫ぶ。


『グゥルァァァァァァァァァァァァ!!!!』


私は耐えられくなり、悲鳴を上げながらガロンの襟を掴んで一目散に逃げ出した。


「キャアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「アスナ、首! 首が絞まってるから!! ちょっ………離してk………(チーン」


走ってる最中、何か聞こえたがそれよりも私は早くその場から逃げだしたくて、聞きとることなく安全エリアまで逃げた。
〜アスナside out〜


〜真紅狼side〜
…………………………………ハッ!?
俺が気が付いた時には、何故か再び安全エリアまで戻っていた。
そして、頭上には何故かアスナの顔がある。


「気が付いた?」
「………死んだ父さんと母さんに会っていたような気がする」
「それ、危ないわよ!?」
「どっかの誰かさんが、俺の襟を掴んで全力疾走するせいでな」
「うっ………! あ、あれは仕方がないじゃない!! あんなのが出てきたら誰だってビックリしちゃうわよ!!!」
「だからって、なんで俺の襟を掴むんだよ。本気で死ぬかと思ったぜ」
「だから、謝ってるじゃない!」
「ところで、俺はなんで膝枕されてるんでしょうね?」
「………わ、私も少しは悪いと思って………その………………お詫びを………///」


お詫びで膝枕?!
お前のお詫びはどういう風になってんだ?
だが、役得だな、これは。


「…………アレは大変な相手になりそうね」
「そうだな。武器はあの大剣一本だけだが、特殊能力がありそうだ」


一度攻略してるから立ち回りは知ってるし、特殊能力も知ってる。
アイツの攻撃を受け止めると、じわじわと体力が減っていくのだ。だから、受け止めるよりかは、弾いた方がダメージは少ない。
受け止めるとどんどん減るので気を付けないと一瞬で一撃死する状態に陥る。


「…………ところでガロンってさ、なんか隠してない?」
「………隠してないが? 一体どうしたよ?」
「クラディールのデュエルの時も第十層のボス戦の時も思ったんだけど、ガロンってさ、本当は私達よりももっと強いんじゃないの? おそらく、どのプレイヤーよりも」
「それだったら、ユニークスキルを持ってるヒースクリフよりも強いってことになるぞ? 奴の方が“今”は強いだろ」
「うん。だから、団長の次………という意味でね」


そういうことか………。
ヒースクリフともガチで殺り合ってみたいね、実に楽しみだよ。


「で? どうなの?」
「………答えはNOだ。第一、強かったらもっと上の階層に俺は居るし」
「む、そう言われてみたらそうよね」


ふぅー、なんとか誤魔化しきれた。
アスナは納得した後、アイテム欄を表示し、バスケットを取り出した。


「ちょっと遅いけど、お昼にしよっか!」
「わざわざ持ってきたのか?」
「そんなこと言う人には食べさせてあげないわよ?」
「………許してくれ」
「ん。はいこれ」


アスナから手渡されたのはサンドイッチだが、味はメンチカツを食っている様な味わいだった。


「これ………美味いな」
「当然! 私が作ったんだから!!(小さくガッツポーズ)」
「料理スキルをあとちょっとで完璧だから、俺も続けようかな」


そんなこんなで、互いに昼食を済ませたあと一服してると、入口の方から新しい集団が入ってきたので、俺達は警戒した。


『あー、疲れた』
『強かったなー』
『あそこは、スイッチするべきだろ?』


全員が赤衣の鎧を付けていて、肩には四つ割菱。かの有名な武田信玄の家紋だ。
そして先頭者は、頭にバンダナを付けて無精ひげを生やした男。名はクライン。自分自身が作り上げたギルド、【風林火山】の団長だ。


「「あ!」」


お互いがお互いの姿に気が付き、声を上げる。


「よぉ、クライン。お前もマッピングか?」
「そういうソロのお前が誰かと組むな……ん………………て…………」


もう一人の方、アスナのフォーカスを当てた瞬間、クラインは固まった。


「ああ、あっちは知ってると思うけど【血盟騎士団】の副団長のアスナって、オーイ、大丈夫か?」


目の前で手を振るが反応がない………。
なら、蒼騎家直伝のボディーブローを試そうと思った矢先に、クラインがいきなり畏まり、アスナに自己紹介し始めた。


「こ、ここ、こんにちは!! お、俺はクラインって言います!!」


そして、握手を求めるように右手を差し出していた。
コイツは何をやってるんだ。
すると、自分もと言わんばかりに【風林火山】のメンバーが握手を求めて殺到して来たので、俺が壁となって受け止めることとなった。


「ま、まぁ、こういう奴らだが、よろしくやtt………いっっっ!! 何しやがる、クライン!!」
「うるせぇ、こんな美人と二人きりになりやがって!! 俺達にも少しは分けやがれ!!」
「なら、自分のギルドに女性プレイヤーを誘えばいいだろうが!!」
「それが出来ねぇから、こうしてお前の足を踏んでるんだろうが!!」
「理不尽にも程があるぞ、それ!!」


俺達が言い合うと、アスナはその光景がおかしくなったのか笑いだした。
俺達もその姿を見て、やれやれという表情になり、場が和んだ。
そんな中、更なる闖入者達が安全エリアに入ってきた。
全身を頭までガッチリと覆っている灰色の鎧を纏い、“斧槍”(ハルバード)と片手剣で装備を整えている者達。


「『軍』の連中か」


その一言に、アスナ、クライン、風林火山のメンバーは警戒心を高めた。
『軍』の戦闘に立つ者の掛け声でその後ろに付いていた者達が、疲れた様子で座りこんでいた。
そして、こちらにやってきた。


「私は『アインクラッド解放軍』のコーバッツ中佐だ」
「ソロのガロンにこっちが血盟騎士団のアスナと風林火山のクラインだが、なんの用だ?」
「キミ達は、この先をマッピングしてるかね?」
「ああ、ボス部屋までのマッピングをしてあるがそれがどうした?」


すると、コーバッツという男はふてぶてしいにもほどがある要求を上から目線で言い放ってきた。


「では、そのマッピングデータを渡してもらいたい」
「データを………って、手前ェ、その意味を分かってんのか!?」


クラインが正論を振りかざすとコーバッツは大義名分を振りかざしてきた。


「私達は、全プレイヤーを解放するために戦っている!! ならば、キミ達プレイヤーが、協力するのは当り前の事だ!!」
「ふざけんな、バカ」
「なんだと?」
「データが欲しいなら、どちらが立場上、上か分かってんだろうが」
「そんなモノ、キミ達が下で我々が上だ」
「アホか、テメェ等がどん底で俺達が天上だ。それともアレか? アンタは目上の人間に対してもそんな態度で食ってかかるのか?」


俺が反論できない程の正論をぶつけるとコーバッツは唸る。


「ほらほら、どうしたよ? マッピングデータが欲しいんだろォ? なら、『マッピングデータを渡してください、よろしくお願いします』ぐらいの一言を言えや」
「貴様ァ、【軍】に逆らうと言うならそれなりn………「ドン!」………がっ!?」


俺はコーバッツが全て言い切る前に、めんどくさくなったので<豹虎連撃>でコーバッツを吹き飛ばした。
安全地帯なので、ダメージは通らないがノックバックや吹き飛ばしは発生し、吹き飛ぶコーバッツは滑るように吹き飛んでいき、安全地帯から頭だけ出るように止まる。俺はそれを追い掛け、コーバッツが起き上がる前に胴体を踏みつけて、【双鬼・禍】を取り出して、首筋にあてる。


「………コーバッツさんよォ、俺は一通りの礼儀は尽せって言ってるのになんで理解出来ないんだい? あんな態度を取られっぱなしじゃあ、俺もさすがに我慢出来なくなって………………俺の気まぐれ次第ではアンタの首を斬り落としちまうかもしれねぇ」


すると、コーバッツは懇願するような声を出す。


「じゃあ、はい! 『マッピングデータを渡してください、よろしくお願いします』をリピートアフターミー」
「………マッピングデータを渡してください、よろしくお願いします!!! 言った! 言ったから、頼む!! 刀を退けてくれ!!」


俺は刀を退けて、コーバッツを掴み上げて安全地帯の中心地点に投げ飛ばし、移動しながらマッピングデータをコーバッツに送ってやった。


「ボスには挑まない方がいいぞ。お前等の装備じゃ絶対に勝てん」
「……私の部下達は、そんなにヤワじゃない。立て、お前らァ!! 休憩は終わりだ!!」


部下達の前では、威厳を保ちたいらしいのか先程の弱腰はすっかり消えていた。
そして【軍】の連中は迷宮に消えていった。
クライン達の元に戻ろうとすると、全員パチクリとした表情でこちらを見ていた。


「なんだ、どうしたよ?」
「ガロン、お前、いつもあんなことしてんのか?」
「いんや、【軍】とは攻略する度に出くわしては、何かといちゃもんをつけられることが多くてよ。その度に、こういった方法で黙らせてるだけさ」
「ガロン、やっぱり貴方はギルドに入るべきよ。そんなやり方じゃあ、いつか本当に孤立してしまうわよ?」
「構わねぇよ。元より、そちらの方がやりやすいしな(つーか、ギルドを創っているからすでに問題は解決してるんだがな)」


すると、クラインが呟いた。


「それにしても連中、大丈夫か?」
「………めんどいけど、見に行くか」
「………だな。珍しいな、お前が動くなんて。一体どういう風の吹き回しだ?」
「クライン、バカ言っちゃいけねぇよ。俺が有利になるように動くに決まってんだろ。仮に連中がボスに挑んだ所を助ければ、連中が俺に突っかかって来ることが無くなるからな」
「相変わらず考え方が悪だな」
「御褒めに預かり光栄だ」


アスナは置いてけぼりを食らったように、口を開けてぽかーんとしていた。


「へ? じゃあ、見に行くの?」
「おう。そして………「コイツの言う事は聞かないでください、アスナさん」………クライン、テメェ!!」
「行くわよ〜、ガロン〜」
「そして、さりげなくアスナもその流れに乗ろうとすんじゃねぇ!!」


なんで、俺はこの二人に振りまわされてるんだ!?
俺が振り回すんじゃねぇのかよ?!
ちくしょう、何かのツケがここで一気に来やがったな!!
〜真紅狼side out〜


アイツ等、まだ生きてるかねぇ?



―――あとがき―――
ガロンがソロの活動中には、主に『軍』と『笑う棺桶』との諍いが主な日常でした。
ある意味、一番死線を潜っていたプレイヤーであり、常に殺し合いの場に名を連ねていた状態です。

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