第八話 リズベット武具店
〜真紅狼side〜
最初に言わせてくれ、時間のすっ飛ばし許してくれ。
“犬鬼”から希少鉱石“ブラックダイヤモンド”を手に入れてから、【魔刀の製造書】に必要な素材は手に入ったが、それを創る事が出来る鍛冶屋が現時点ではおらず、そのまま一年半以上が経ってしまった。
すでにこのデスゲームが始まってから二年が経ち、この浮遊城も約九割が攻略され、マッピングされている。
………が、八十層を超えたあたりからモンスターの強さが群を抜き始めた。
なんせ、徘徊しているモンスターの強さがボス並みに性質が悪くなっており、どいつもこいつも一癖も二癖もあるヤツばっかだ。
―――と他人事のように説明しているが、七十六階層からのマッピング及びモンスター情報は全て俺がやっているのだ。
ぶっちゃけ、どんなに安全マージンを取ってもガンガンHPバーが削られて、正直シャレにならんのですよ。
持ってる武器はカトラスなのに、ダメージは通常で一割、クリティカルなら二割を超えるとか………割合おかしいだろ!
まぁ、ゲームのシステムに文句言っても仕方がないので、その辺は流してくれ。
俺を含めた一部のプレイヤー以外は、攻略組も含めて七十五階層まで辿り着き、死者も最初の方に比べるとかなり減った。
それでも、未だに“オレンジ”や“レッド”による死者はちらほらと出ていた。
そして、俺は今、【魔刀】を作成できる鍛冶屋があるという噂を聞いて、四十八階層<リンダース>に転移結晶を使って降り立った。
「さてと、確か名前は………………リズベット武具店か」
主街区に出た後、俺は名を探すと少し離れた所に建っていて、裏には水車もついている。
俺は戸を開けて入ることにする。
「いらっしゃいませ、武器をお探しですか?」
そこに居たのは女性プレイヤーでワインレッドの色をした髪型で童顔の女性だった。
「いや、この武器を創れるか?」
この店の主は困惑し、俺の動きを見ている。
俺はその視線を気にせず、アイテム欄を引っ張り出し、店の主に見えるように可視モードにしてから【魔刀の製造書】を目の前に出した。
すると、店の主は目を大きく見開いて、俺に詰め寄った。
「こ、これをどこで!?」
………すごい………近いです。
〜真紅狼side out〜
〜???side〜
いつもと変わらない一日が始まった。
いや、むしろ心のどこかでは、「このデスゲームが早くクリアしないだろうか」と思う事が時々ある。
だが、この<アインクラッド>は七十五階層までしか到達していないと街中の噂で聞いた。
誰かが「本当は八十八階層まで到達しているプレイヤーがいるらしいぜ」と語っていたが、私も皆も嘘だと思い相手にしなかった。
ベッドから起きた私は、着替えてから早速店を開けた。………と言っても、未だに朝の九時を回ったところで、動きだすプレイヤーはほとんどゼロに近い。
そんな中だった、一人の男が店を訊ねてきた。
「いらっしゃいませ、武器をお探しですか?」
男は、いきなり「この武器を創れるか?」と訊ね返した。
私は「この武器」と言われても、男の手には何も持っていなくて困惑しながら男を見たが、その視線に物ともせず男はアイテム欄を開き、私に“あるモノ”を見せつけられて私は驚いた。
鍛冶屋職人になったら、一度は創ってみたい武器というのがあって、その中でも今私が見ている物は一位に当たるモノだった。
だからこそ、私はこの男に詰め寄った。
「こ、これをどこで!?」
「ボスを攻略して、そのボーナスとして手に入ったが?」
「何階層のボス!?」
「二十五階層だ」
確かにどこかの階層のボスのドロップ品として手に入ると聞いたが、その確率は3%未満だったはず………
「で、創れるのかを聞きたいのだが………」
「え! あ、はい、はい! 創れますよ!!」
「では、創って欲しい」
「でも、ここに書かれている素材や鉱石は………?」
「心配無い、既に揃ってあるし、金もある」
男はアイテム欄からこの武器の素材になるアイテムを次々と取り出して必要素材の鉱石も手渡した。
そして男は……………
「創るのに時間はどれぐらいかかる?」
「や、だいたい2,30分もあれば出来ますけど…………」
「なら、一度街に出かけるつもりなんだが、構わないか?」
「ええ、m………」
私ははっきりしない返事を口に出そうとした瞬間、新たな客人が扉を勢いよく開けて突入して来た。
「おはよー、リズ!!」
声の持ち主は、私のお得意様で“細剣使い”のアスナだ。
笑顔で入ってきたアスナは、この店の中の状況を見た後確認し始めた。
「………ガ、ガロン?」
「朝っぱらから元気だな、オマエ」
「ガ、ガロンがなんでココに………??」
「そりゃ、武具店にいるんだから武具の作成だろーが」
アスナはみるみると顔を真っ赤にしていき、隅にある白木の椅子に座った。
「………おはよう、アスナ」
「お、おはよう、リズ////」
うわ、凄い真っ赤。
相当恥ずかしかったんだろうなぁ。
というよりも、二人はお互いを知ってる仲なのかな?
「お二人さんは、知ってる仲なの?」
「まぁ、ボス攻略やダンジョンで何度も出会ってるからな」
「………その度に私以外の血盟騎士団メンバーと言い争いになるけどね」
なるほど、二人は知ってる仲なのか。
しかも、アスナの顔が今でも真っ赤になっている所を見ると、これはアレだね。
「じゃあ、製作始めますので………」
「頼んだ」
ガロンと呼ばれた男は、アスナを一度見たあと店を出て街に向かった。
出て行った直後、アスナは大声で叫んでいた。
〜リズside out〜
〜アスナside〜
何故か今日は目覚めが良くて、気分もいいので私が得意にしているリズベット武具店に向かった。
時刻はいまだに九時回っていないので、誰も居ないと思って子供らしい表情で店に入ったのをのちに後悔することとなった。
「おはようー、リズ!!」
笑顔で入った私は、当然のようにリズ一人だけだと思っていたが、そうではなかった朝早くから一人のプレイヤーが出入りしていた。
私は急いでそのプレイヤー名を見ると“Garon”と書かれていた。
「………ガ、ガロン?」
「朝っぱらから元気だな、オマエ」
「ガ、ガロンがなんでココに………??」
「そりゃ、武具店にいるんだから武具の作成だろーが」
ガロンの言う事はまったくもって正論で反論することも出来ず、私は顔を真っ赤にして隅に置いてある白木の椅子に座り、縮こまった。
うぅ………、まさかこんな朝から人がいるなんて、しかもガロンに見られるなんてなんて日なの!?
ガロンとリズは、何やら話を進めていきガロンは一度外に出て行った。
私は店の中からガロンが離れたのを確認した後、大声で叫んだ。
「うーーーーーーーわぁーーーーーーーーーー、すっごい恥ずかしいーーーーーーー!!」
「アスナ、うるさい! と、言いたいところだけど、アレは恥ずかしいよねぇ」
「言わないで! 今でも恥ずかしいんだから!! どうしよう! 子供っぽいって思われたかな?! ねぇ、リズはどう思う!?」
私はリズの肩をいつの間にか掴んで、揺さぶっていた。
「お、おおおお、落ち着いて」
「これが落ち着いていられる??!」
「アスナさぁ、そんなに取り乱しているってことは、あの人に気でもあるの?」
「な、何言ってるのよ?! そんな訳……「ゴチン!」………あいたぁ?!」
私はあまりの動揺に壁に頭をぶつけてその場で頭を押さえて蹲ることで動きを止めて、ようやく冷静になれた。
「い、いたい………(涙目)」
「そりゃ、痛いでしょうよ。取り敢えず私は奥に引っ込むからね」
「う、うん………………」
涙目で私は冷静になって、数分前のシーンを思い返してみた。
………………ダメね、思い返すだけで恥ずかしくて死にたくなってきた。
私は、ガロンが再びこの店に戻ってくるまで、終始顔を赤くしていた。
〜アスナside out〜
〜真紅狼side〜
俺は店を出た後、街に戻りながらアスナの登場シーンを今一度思い出していた。
いやはや、スゲェなアイツ。
今まで見てきたが、あんな姿は初めて見たよ、マジで。
さてと、俺は頼まれていたお土産を買わないと。
アイツ等、俺を何だと思ってるんだろうね?
一応、トップの存在なんだが…………
「えーっと、確かリンダースでしか手に入らないクッキーを買って来てくださいとか言ってたな」
頼まれている物が売ってある店は、花屋兼菓子屋といった店である。
街に戻ってから探すこと7分、ようやく見つけ出すことが出来て、俺は七人分のお土産を買い、アイテム欄に収納した後俺は再びリズベット武具店に戻ることにした。
移動中……………
再び店の中に入ると、未だにアスナの顔は真っ赤で話すこともままならない状態だったのでそっとしておこう。
俺はカウンターの方を見ると、そこには一本の刀が出来上がっていた。
「出来たわ。ただ、出来は運によって左右されるから勘弁してくださいちょうだい」
「OK.……名は?」
「まだ付けてないわ、アンタが付ける?」
「いいのか? 鍛冶屋は自分の創った武器に名を付けると聞いたが?」
「別にいいわ。それに関してはね………。その武器を創る機会を提供してくれたアンタには感謝してるし」
「そうかい。なら、コイツの名は―――――双鬼・禍」
「興味本位でだけど、なんでそんな名にしたの?」
「コイツの製作書を落としたのが、二十五階層のボス【ツイン・オーガ】だし、“魔刀”って書かれていたから、それっぽい名にしてみた」
「なるほどね」
「………で、お代は?」
「50万コルってところかな」
安いな、もっとかかると思っていたんだが………
俺の予想では100万コルは普通に行くかと思っていた。
手元には500万コルほど持っていたので、その場ですぐに支払う。そして俺は店の外に出て、鞘から刀を抜き、カタナ使いの持ち方とはまったく異なった構え方をした。
利き手で刀を持って切っ先を下の方に向けながら、もう一方の手は腰辺りに待機させておく。
ゆっくりと息を吸い、呼吸を整えてから水平に一閃。
「………疾!」
それを見ていたアスナとリズベットは、刀を納めると同時に拍手していた。
「………すごい」
「なんかサマになってたわ………」
「なんか剣道とかやってたの?」
「いや、やってないんだけど………。まぁ、教えてくれた人がそういう事やっている人だから、自然と身に着いたんだよ」
師匠が英霊ですなんて、誰が言えるか。
槍術に関しては、神話に出てくるクーフー・リンなんて、絶対に信じないだろうし。
アスナは、恥ずかしさを克服したのか喋るようになり、最近の出来事を語り始めた。
「そういえば、ガロン。貴方、新しいギルドが出来たのを知ってる?」
「ああ、耳にしたことがあるな。確か、特殊なギルドだって聞いたぞ?」
「うん。ギルドの総会で私も聞いたんだけど、発信源は情報屋の鼠のアルゴからでアルゴ宛に一通のメッセが届いたのをそのまんまアルゴが私達、各ギルドメンバーに連絡したのよ。………ただ、メッセを送った人物の名は分からず、アルゴに訊ねても「話すことは出来ない」と答えられたらしいわ」
「で、アスナ、その新しく出来たギルドの名前は?」
リズベットは興味津々に訊ねていた。
俺はとある理由から知っているので、訊ねない。
「名前は【ヤマタノオロチ】。どういうメンバーなのか、どういうユニフォームをしてるのか、“紋章”の形も分からない。謎に包まれたギルドでね。ただ分かっていることは三つで一つは本拠地が八十八階層だということ。従って、ギルドメンバーは上位の攻略組の中の数人。そして、これが最大の特徴なんだけど、ギルド構成チームはたった八人で、私達の様に人数を増やすことは無く、また減らすことも無い。八人による八人だけのギルドよ」
だいぶ噂が広まってんなぁ。こりゃ面白いことになるぞ。
「ギルドの中には彼らの事を“オロチ八傑衆”と呼ぶ人も居るわ」
「また、大層な名前ね。他には何か情報はないの、アスナ?」
「情報が少ないから、何とも言えないんだけど………そうね、あとは彼らの中には順位があるらしいわ」
「“順位”?」
おおぅ、そこまで情報が出回ってるのかよ!?
アルゴのヤツ、情報を流したな。
「なんでも神話では“八岐大蛇”は首が八本あったから、そこから因んで 『第一頭首』〜『第八頭首』と順位があって、下に行くほどレベルと強さが上がるんだってさ。だから私達ギルドメンバーは「第八頭首がそのギルドの団長」という認識を持つことにしたの」
「へぇ〜、謎に包まれたギルドねぇ。どういう奴らなのかな?」
「さぁ、私達もまだ会ったことすらないからね。ガロン、貴方は出会ったことはある?」
「いんや、俺も無いな。まだ七十六階層で止まっていてな(嘘だけど)」
すると、リズベットが恐ろしい事をさらりと言った。
「案外、私達の近くに居て知らないフリで、下の階層に降りてきていたりして………」
そう言うと、アスナはこっちを見てくる。
こっちみんな。
「俺は知らねぇって!」
「………そう」
「さてと、俺はそろそろ帰ろうかね」
「あ、なら、私も帰るわ」
「アスナ、何か要件があったんじゃないの?」
「うん、あったけどやめとく………。そんな気分じゃないし」
「まぁ、あんな登場をしたのを他人に見られちゃあなぁ」
「うぅ………本当にあんな行動をとった自分に文句を言いたいわ///」
「じゃあ、リズベット。武器がヘタったりしたら、また来るよ」
「私も今度はお願いするから!」
そう言って、俺達はリズベット武具店を後にして転移ゲートまで一緒に行き、アスナは「<セルムブルク>」と叫んで転移した。俺は転移結晶を持って叫んだ。
「転移、<タカマガハラ>!!」
俺達の“本拠地”に帰った。
〜真紅狼side out〜
さて、そろそろこの停滞した物語も動きだすか。
―――あとがき―――
今回は、物語始まる前の一クッション入れることにしました。
ついでに、オリジナル武器の作成です。
では、武器紹介に移ります。
武器:魔刀
形状:刀
名前:“双鬼”・“禍”
能力:“鬼啼”・・・斬れば斬る分だけ攻撃力が増す。
ただし、二十五体斬り殺すと全てリセットし、元の攻撃力に戻る。
その刀の持ち主は装備している時、狂気化がしやすくなる。
といった、感じです。
今後もオリジナル武器は出して行こうと思います。
アイデアが纏まり次第ですけどね。
そして、皆さんも呼んでいるので分かっていると思いますが、ギルドの団長だということを匂わせました。
バレバレですけど………伏線張りが下手くそで泣きそうです。