学生編
１０４話 笑い薬
「さーて、家に帰りますか」
私はいつも通り授業を終えて校舎から出ると
高等部の女子に声をかけられた。
「やっほ、チェリッシュさん！」
「あ、ニコラさん！」
「やっぱり、ニコラさんもプロハンターだったんですね」
「まあね、といっても裏試験を合格してまだ数年のルーキーだけどね」
放課後、授業を終えた後、私は学校の喫茶店で
先日知り合ったニコラさんと談笑をしていた。
「あ、そうそう忘れるとこだった！
ちょっと頼みたいことがあって・・・」
しかし、ニコラさんのこの話によってこの場の空気は一変した。
「話の内容次第ですね・・・・」
私は目を細めて言った。
「笑い薬？」
「ええ、師匠が緊張を和らげるために作った薬なんだけど
それを輸送しているトラックに賊が襲撃して
盗まれちゃってね・・・」
「それで取り返してほしいと・・・」
「うん、売りに出すためにその薬の特許は取っているとはいえ
盗まれたのは原液でね・・・・」
「というと・・・」
「もし薬が入った瓶が割れたりしてしまったら
周辺にいる人達に気化した薬によって・・・・」
「あの〜、もしかしてですけど
先月、隣町の不良達がワライダケを食べて笑い転がって
全員、病院行きになった事件って・・・・・」
「あなたの想像通りです
ちょっとトラブルがあってね・・・・」
「あー、よくわかりました
下手すると惨事になるかもしれないと・・・
でも、なんで私に頼むんですか？」
「その賊は3百人規模の大型の盗賊でね
あたし1人じゃ少々荷が重いかもしれないと思ってね・・・」
「クランクさんと２人でやればいいじゃないですか」
「実は本来は危険性が低い薄めた薬を出す予定だったんだけど、
あたしが間違えて原液を輸送に出しちゃって
そのことに気付いた時に賊に持って行かれたことを知って・・・」
「クランクさんにばれないよう回収しておきたいと・・・」
ニコラさんはコクリと頭を縦に振った。
そして、その日の深夜
私はフィナンシェとニコラさんと一緒に
調べて探し出した盗賊のアジトにやって来ていた。
「あれが盗賊のアジトですか・・・
随分とまあどれだけの金をかければ
あんなでかいのが建てられるんだか・・・」
私は「よっぽどの悪事を重ねたんだろうなー」と付け加えて言った。
「調べてみたらあいつらのこの大陸有数の盗賊集団みたいだよ
まあさすがに念能力者はいないらしいけど・・・」
フィナンシェはアンサートーカーで調べた敵戦力の報告をした。
「じゃあチャッチャッと終わらせますか
すぐに彼等は異常に気づくでしょうしね・・・
あ、一応ガスマスク付けといてね」
ニコラさんはついさっき片づけた５０人程の地に伏せて気絶させた
見張り達をチラリと見ながら言い
私達は彼女に従ってガスマスクを付けた。
「おい！酒が足りねえぞ！
早く持って来い！！」
「あ、はい！どうぞ！」
数百人の盗賊達はアジトの居間で宴会をしていたが
「あー、暇だ！
なんか面白えもんはねえのか！！」
「確かに食って飲むだけじゃ退屈だぜ・・・」
「おい、何かやれよ！！」
急に退屈が嫌になって来た首領や幹部達が
皆揃ってこんなことを言いだした。
下っ端の者達はどうしようか困り
「なあ、そういえばこの前盗った
積み荷の中に変な薬があったよな・・・」
下っ端の1人がゴソゴソと倉庫をあさり
「ああ、笑い薬とかいうやつのことか」
笑い薬と書かれた瓶を出して
「なんか胡散臭いが多少の暇つぶしになんじゃね」
たいして考えずに彼等は首領の元に持って行き
危険物のふたを開けてしまった。
そして、
「手間が省けましたね・・・」
私は笑い転がっている賊達を見下ろして呟いた。
「ガスマスク付けといてよかったね」
「まあ・・・とりあえず全員捕縛しておきましょうか」
その後、私達は賊を全て警察に引き渡して
盗まれたの物もみんな持ち主の元に返り
一件落着かと思ったが・・・
謝って原液を出してしまったことがばれてしまい
ニコラさんが「何やっとんだ！！貴様はーっ！！」と
雷を落としたクランクさんにキツーく叱られる羽目になり
しばらく彼女は涙目になって落ち込んだそうだ。
まあ少し扱いを間違えたら大変なことになる薬品だから当然だが
ちなみにその笑い薬は数年後に芸能人やスポーツ選手等によって
結構売れてクランクさんはホクホクになったそうである。