小説『国境の橋 』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 ここのところ毎日雨が降り続いている。五月から雨季入り十月まで続く、しかし橋の基礎は完全であり心配ない。
 誰もがそう思っていた。しかし予想以上の雨量に思わぬ波乱が生じた。予想もしなかった川の氾濫が起きた。
 橋は大丈夫だが川岸近辺に置いてある機材、材木、鋼材それにクレーン車などが流される恐れが出てきた。
 これらの鋼材、クレーン車、その他の工業機具が流されたら工事は大幅に遅れる。
 それに損害額も莫大なものになる。我々日本人スタッフは氾濫の情報を夕方四時頃に伝えられた。
 
 現地通訳を通じて機材など工事に必要な物が流されるから、手伝うように作業員に迫った。
 こんな非常事態なのだから全員が当然手を貸してくれものと思っていた。
 しかし彼等は、いつもの事だからと、たいした事はないと帰ってしまった。
 裕輔はガッカリした。あの飲み会の時に少しは理解してくれたと思っていた。
 ただあの夜、全員集まった訳じゃない。若い者が中心だ。年配者が帰ろうと言えば従うしかないのか。

 本社からは仕事よりも友好が第一優先とも聞いているが、彼等は情というものはないのか?
 助け合うことこそ友好じゃないのか? これまで一緒に働いて来た仲間じゃなかったのか?
 日本では考えられない事だ。少なくても自分達で作った橋に愛着はないのか?
 裕輔も悲しかった。あの夜は橋を一緒に造る仲間と思ったのに。
 余りにも無責任ではないか。一体誰の為の橋なのだ? 我慢出来ずに監督になんとかしてくれてと迫った。
 監督はなんどもラオスとベタナムの責任者に至急、人の手配を頼んだ。
 だが今更説得は難しいというばかりだ。祐輔は最後の望みとしてビオランに皆を説得してくれるように頼んだ。

 大量の機材を動かすには人とクレーン車やトラックが沢山必要だ。
 我々日本人スタッフ七人で幾つかの車両三台を川岸から上に上げたが。心配なのは機材などが流されたら大変だ。
 被害を防ぐ為に必死になって働いた。しかし雨が強くなり一向に仕事がはかどらない。
 現地人を恨んだ。誰の為に橋を造っているのか彼等には関係のない事らしい。
 自分達の損益しか考えない連中の為に、どうして徹夜で働くのだ。こっちも放り出したくなる。そんな時だった。

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