小説『国境の橋 』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 初の海外での工事、場所は東南アジアのラオスとベトナムを繋ぐ国境に架ける橋だ。洩れた者は羨ましがった。
 会社の情報によると日本とラオス、ベトナム国交樹立五十周年記念事業らしい。
 その為に日本が両国に無償援助する工事で、外国で橋を造れる技術者として誇りを持って仕事が出来るのだ。

 選ばれた人員は七人、勿論この中で裕輔が一番若くして選ばれて気分は上々だった。
 他の作業員は現地で雇う事になっているが、国の役人が一人だけ同行するが手続きが終われば帰国する。
 あとは現地の国の役人が引き継ぐそうだ。
 東京に出て十四年、故郷の父母には滅多に連絡しないが出発の前夜、明日派遣されると電話を入れた。
 両親に報告したら喜んでくれたがラオスとベトナムと聞き顔を曇らせた。
 治安を心配したのだろう。だが裕輔は親の心配をよそに海外で橋を作れる喜びに胸の鼓動を高ぶらせていた。

 七人の中では裕輔だけが独身だ。両親は高知に住んで居るし見送りには誰も来ない。
 一番の年配者は平井監督五十二才の責任者であり、他の四人は四十代で妻子持ち、もう一人は三十五才の新婚さんである。
 先輩達はここ数日間、暫く日本を離れるとあって家族と過ごしているが、裕輔だけは三十二才の独身男、女友達は居たが恋人と名乗れるほどの女性は居なかった。
 裕輔は友達と会話する時は、いつも橋の話ばかりで、橋男と変な異名まで貰うほどだった。
 恋人より橋、周りの女性達も橋の話ばかりする裕輔は、恋人としては対象外だったのだろう。

 いよいよ準備が整い、裕輔達は成田から一路ベトナムヘと向かった。
 成田空港からベトナムハノイに到着した。ここから鉄道を使って行くのかと思ったら、なんと車で行くそうだ。
 舗装のない悪路を揺られてやっと、ベトナムの国境に近い町のラオバオに到着した時はクタクタだった。
 このラオバオの町はベトナムが経済発展地域としてラオスとの貿易経済特区と定めている。
 だから今回新しく建設する国境の橋は両国の貿易に重要な役目果たし事になる。

 その割には寂れた町で、道は砂利を敷いただけの道を古いバスや錆びた車がガタゴトと走っている。
 宿舎はホテルかと思いきや仮宿舎らしい。橋を越えてラオス側のデーンサワンにあるそうだ。
 そこには今にも崩れ落ちそうな古い橋が架けられていた。その隣に今回新しく建設する橋となる。
 国境の橋といっても、田舎町の小さな橋だが国境とあって大きいトレーラーなどが沢山通る。
 その橋の手前にあるゲートが開くのは朝七時からと決まっているそうだ。

-3-
Copyright ©ドリーム All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える