小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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考えていても仕方がない。
俺はそそくさと走り出す。どこにアイツは行ったのか知りもしないがとにかく元へと行かないわけにはいかない。ここでほったらかしにしていたら、どうせ周りの奴らが何やってんだとか言ってくるに違いない。
悪いがそんなのはゴメンなんだ。それに、もし行かなかったらこれからが気まずいだろ?
見つけて謝って、また何か別のをだな……。
俺はデパートの店内を一つ一つ走り回っては探した。さすがに公共の場だ、大声は出せない。目を四方八方にやりながら、真剣に探す。
エレベーターなんて待っている暇などあるか。階段だ、階段。
………………
…………
……
デパートの全てを回ったが、恋歌の姿は見当たらなかった。
アイツ、ここから出ていきやがったな。めんどくさいことをしてくれる。
だがまぁ、探さないとな。恋歌が行きそうな場所、かぁ……。
思い当たる節など全然ないんだが……。いや、それでもいい。とにかく探すだけだ。
にしてもそんなに怒ったのか恋歌の奴は。まぁ、約束を破られたら誰だって怒るだろうがよぉ……。

『約束だよ?』
『うん、約束だ』

……。クソ、余計なことは考えんでいい!
俺は道と言う道を走る。ここならもう大丈夫だ。叫んでも。

「恋歌ー! おい、恋歌ーッ!」

いないか。どこ行ったんだ、全く。
にしても、居そうな場所がほんとにわからん。あ、いや……。
もしかしてだが、あそこじゃないか……?

「未来公園……」

そうだよ、きっとあそこだ!
そこの公園は、俺と恋歌が昔よく遊んでいた場所だ。人気が全くなくて、いつも二人っきりの空間だったことをよく覚えてる。狭くて小さい公園で、遊具と言ったらブランコとシーソーだけ。うむ、我ながらよく覚えているものだ。
ここからだと、約500mくらいか? だとしたらすぐだ。

「動くなよ、恋歌!」

まるで決まったかのような台詞だ。だが、決まっていてほしい。
当たっていてほしかった。
俺は全力疾走で向かう。信号に何度か引っ掛かってしまったが、それでも走る速度は落とさないようにした。人にぶつかりそうになりながらも、すいませんと一言だけ言ってその場を立ち去って行った。

「はぁ、はぁ、はぁ……いつ以来だな、こんなに全力で走ったのは」

そしておよそ5分で、未来公園に着いた。
あいかわらず人ひとりいない。入り口から入って真正面、恋歌はいた。
一人ブランコで、弱々しく揺れている。

「ご久しぶりさん」

あ、しくじったか。
横にもう一つあいているブランコの席へと座った俺は、恋歌の方は見ずに、ただ上だけを見た。空がやけに青く見える。

「何しに来たのよ」
「状況が把握できていないみたいだな、そりゃもちろん追っかけて来たんだ」

恋歌の声は、いつもよりトーンが低く、頭はうなだれていた。

「……どうしてこの場所が分かったのよ」
「昔、二人でよく遊んだろ。俺もなんか知らんがよく覚えてんだ」
「っ……」

お前もそうなんだろ、恋歌。
そのまま、しばらく沈黙が続いた。俺からまた話しかければよかったのかもしれんが、俺は自分でも分からないくらいに、恋歌からの言葉を待っていた。
そしてようやく、

「私ね、ホントにあの時怖かったんだ。もう死ぬんだ、って思って。私たった10歳で全てが終わってしまうんだって、あの時ずっと思ってた」
「…………」
「でも、氷河の手が目の前にあるから、私はまだ死なない……死にたくないって思って、手を伸ばし続けた」
「…………」
「あの時、ブレスレットなんかなければ、もっと怖い思いしなくて良かったんだよ」

それはそうだろうな。
俺だって、あの時は恐ろしかった。知っている奴が、幼馴染が死ぬのかってな。

「約束したわよね? もう、ブレスレットは嫌って。怖い思いを思い出しちゃうから、嫌なの……」

ああ、したさ。だから俺も追っかけて来たんだ。
もう、そんな思いさせたくない。

「すまん」
「何それ。それで終わると思ってんの」
「悪いな。だが今はこれしか言えん」
「何よ、もっとあるんじゃないの? もうブレスレットは送らないとか、もう嫌な思いはさせないとか、あるんじゃないの?」
「…………」
「何とか言いなさいよ!」

俺はな、恋歌……。

「それを言ったところで、お前は許してくれるのか?」
「――っ!」
「俺はそうは思えない。確かに、言おうと思った。けどな、言ったらお前がもっと嫌な思いするだろうと思ってな、あえて言わなかった」
「どうして……」
「だから今言っただろ。また嫌な思いするだろうと思って言わなかったんだ。耳の穴良く開け」
「…………」

すっかり黙り込んでしまった恋歌。
悪い。俺は今本当にこれしか言えない。
だってそうだろ? そんなこと言ったら、お前は単純な答えだとか思って、そして、予想通りの答えだと思い、引きずって行くんだろ。

「恋歌……。……約束を忘れたのは悪い。俺がバカだ。けどな恋歌……」
「……何?」
「俺はブレスレットをあげたことに、今はそんなにいけないとは思っていない」
「――!」

そうさ。思っていない。いやまぁ、ついさっきまでは思っていたんだが……。
普通な人間だったら悪い悪いと思うだろうが、今俺は思わない。
なんでかって? 以外過ぎて答えも見つからないか馬鹿野郎。
当たり前だ。恋歌がブレスレットのせいで怖い思いをするなら、俺が恋歌を……。

「どうしてよ! 私はブレスレットを見ると、あの時の思いがフラッシュバックして、怖くなるの!! ぞわってして、手が震えちゃうんだよ!? だから約束も――」
「じゃあ前言撤回だ」
「え……」
「あの時の約束はもう忘れよう。だから俺は、お前にブレスレットを送る。俺は、ブレスレットをつけて欲しい」
「だからそれだと、また――」
「怖い思いをするなら、俺が怖い思いをさせない――怖い思いをしないよう俺がお前を守ってやる」

そう。ただこうすればいいだけなんだ。簡単すぎて話にもならんだろ?
決意なんてあんまりしたくねぇが、今回は特別だ。
俺が一生付き添ってやるよ、恋歌。バカと何度も言えばいいさ、何度も俺を振り回すといい。それに応えてやる。
そして、また何分か沈黙が続いた後、

「貸しなさい」
「……?」
「ブレスレット貸しなさいよ。私のでしょ? 私のために買ってくれたんでしょ」
「……。ああ、そうさ」

溜息をこれから何度つくことやら。計りしれんな全く。
俺はブレスレットを渡した。恋歌は、それを“左手首”につけた。
ブレスレットを、しっかりと握っていた。

「お誕生日おめでとう、恋歌」
「バカ……」

――かくして、長い長い一日は終わりを告げた。
こうなった以上、男として、幼馴染としてやらなければならない。
時刻はすっかり遅くなり、今は夕日が眩しい。
夕日のせいかどうかはわからないが、恋歌の頬は、赤く染まっていた。
俺と恋歌は立ち上がり、そして二人より添って歩き始める。
恋歌はいまだに俯いたままだったが、俺は空を見上げた。
――ん? あ、カラスだ。

電線に二羽のカラスがいる。二羽のカラスは、寄り添っていた。
その光景はまるで――

「まるで、恋人同士みたいだな」
「ん? 氷河、何か言った?」
「いや、何でもねぇよ恋歌さん」

全く、カラスが本当に羨ましく思えた。
負けるか、ただの鳥ごときに!
俺は恋歌の手を一方的につなぎ、しっかりと強く握った。

「バカ」

バカ、か。今はその言葉がやけに心地がいいぜ、クソ。

                           ♯10.決意×またカラス

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