小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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2007年 8月19日 午前10:30

夏真っ最中、夏休み真っ最中の日中。
当時、恋歌共に10歳の時だった。
俺たちは、田舎のおばあちゃんの家に泊まりに来ていた。
恋歌の左手首には、その年あげたブレスレットがつけられていた。
そんなある日、俺たち二人は山の方へと探検に行ったんだ。大人の注意は一切聞かず、子供二人で。

『大丈夫なのかなぁ……? お父さん、ついてこなくて』
『大丈夫よ、きっと! ほら、早く行こっ!』

当時は、俺も恋歌もまるで双子のようで嫌と言うほど仲が良かった。
いや、まぁ、今の現状は幼馴染となっているが、仲の方はわからない。きっと、いやいいか。
俺たちは森の中の奥底であろう所まで足を踏み入れた。今考えれば、よくそこまで辿り着けたものだ。一体どれだけの時間がたったことか、そんなもの知りも知らずに。
奥底はこんなにもかってくらいの断崖絶壁だった。一度落ちたら死ぬんじゃないか――いや、絶対に死ぬくらいの。
そんな時だ、恋歌は下が気になったのか顔を覗かせ、あと一歩で落ちると言う限界までに腕を伸ばし耐えながら、頭も下に降ろした。
悟った俺は、すぐに声をかけた。

『危ないよ、恋歌。ホラ、もう帰ろうよ』
『大丈夫だよこのくらい! それに下が気になるんだもん』

子供ってのはよっぽど好奇心旺盛なんだろうな、って今は思う。
そんなもののせいで、この後不吉なことが起こったのだから。

『……ふぇ?』
『? 恋歌?』

――ビシッ、ガラララッ!!

『……! 恋歌ッ!』

突如、地面の先端部分が割れ、恋歌は断崖絶壁へと落ちて行ったのだ。
今思うと漫画かよとも思うが、そんな考えはどうだっていいな。
とにかく、その時は怖くて怖くてたまらなかった。
恋歌は叫ぶ暇さえなかっただろう。突然、今まで触れていた物が急に離れ、一切の空中へと誘われるのだから。
だが後から聞こえてくる悲鳴。
俺の心臓を貫いた。それと共に、俺は闘志が震え上がった。
だって、声が聞こえると言うことは、あの断崖絶壁だと言うのに落ちていないと言うことだからだ。
すぐさま俺は駆けつけた。そして下を見下ろした。そこには、木の枝にかろうじてぶら下がっている、恋歌の姿。
服が引っ掛かっていたのだ。俺は、好機なのか修羅場なのか、そんなことはどうだっていい! すぐに手を伸ばした。

『掴まれ! 頑張れ!』
『……う、っく……』

必死に伸ばしあう腕。
必死に掴もうとする手。
そして、数分後。ようやく、手を掴むことができた!――はずだった。
違ったんだ。最初に掴んだのはそのブレスレットだった。

『……! ひょ、氷河ァッ!』

ブレスレットは千切れた。断崖絶壁の中へと消えて行った。
この後、親たちが気になって、ここまで駆けつけてきたんだ。それでようやく恋歌は救出された。
怖い思いをし、その上何時間も説教を食らって、一夏の最悪の思い出となってしまった。
………………
…………
……
じゃあなんでブレスレットが嫌なのかって?
簡単さ。恋歌のヤツはそれを見ると、その時の記憶がフラッシュバックしてよみがえるんだそうだ。そうしたらまた怖い思いをする。そんなことが起こらなくても、怖くなってしまう。相当なトラウマになってるんだ。
そりゃそうだろう。一時は忘れていた俺だって、今となっては記憶がまた再生されて不謹慎な気持ちになる。
だから、思い出したくなかった。

「俺はそんなことすっかり忘れちまってたってのか。馬鹿だなァ、クソ」

『ねぇ、氷河』
『……な、なに。恋歌』
『今日の出来事はもう忘れようよ。私、怖くて泣いちゃうよ』
『うん、そうだね』
『それからね、ブレスレットももう嫌だよ。思い出しそうで、つけたくない』
『分かった。じゃあ、もうプレゼントで上げるのは無しだね』
『約束だよ?』


『うん、約束だ』「うん、約束だ」


ふいにもう一つ、新たに思い出した記憶。そして誓った言葉。
過去の俺と、今の俺の声が重なった。
約束を破った俺。約束を破られた恋歌。
なにを、思っているんだろうな……。

                             ♯9.過去×約束

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