小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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そんなこんなで第二回戦。

一体どんな競技になるかは考以外誰も知らない修羅場の中、皆固唾を飲む。
願う。ただ一心に。この時、恐らくこの場にいる人間全ての人がそう思っていたはずだ。
健也たちだって、雄志だって、皆まともな競技にして欲しいと。
願う。ただ一心に。
そして、ついに考の口から解き放たれた。

「それでは第二回戦! 二回戦は……『海で泳ぎましょう! 三人ひと組の大レースリレー!』でーす!!」

…………あー、ほっとする。



♯17.笑い×今度こそ



きっと今回のこの第二回戦の内容は定番といえば定番だ。つまりいい。
三人ひと組となるとまた誰か二人余るわけだな。今回は誰と誰だ? できるのなら俺は不参加でいたい。
周りを見ると皆もほっとしたようだった。
ん? だが妙だな。一人だけ、雄志だけ不安そうな顔をしている。
あ、まさか……と、ここで考からのルール説明が始まった。俺も皆も考に注目する。

「ルールの方はいたって簡単! 三人ひと組になり、ここの海のちょうどあの辺まで行き、往復して帰ってくるだけ! あとはタッチして順番交代して、それが三人全員とも終わった方のチームが勝利ってことね。順番は各自で決めていいですよー。ああ、それからこのコーンを浮かばせておくから、そこをぐるっと回って往復してくださいねー」

なるほど。ルールの方も特別変なものがあるわけでもないようだな。

「ではではみなさんお待ちかねのチーム編成の方を発表したいと思います!」

ここでやはりみんなは冷や汗をかく。不安なんだな、俺と同じように皆も。

「まずひと組目のチームは、雄志、健也、恋歌さんのチームです!」
「げっ、私またこいつらと一緒なの? いつになったら……はぁ」
「おおー! 俺また競技に参加できるのか!」
「う……予想してたけど……」

………。どうもさっきから雄志の様子がおかしい。
けど泳げないってことはないよな? 肉体は悪い方でもないし。まぁ、うちの学校水泳の授業ないから中学止まりだけど。

「そして対なるふた組目のチームは、鮫島、深木、岬さんのチームです!」
「「「皆一緒だー!」」」

うん、あちらの方は嬉しそうだ。
ふふふ……そしてなにより嬉しいのはこの俺よ! 聞いたか? 俺は今回不参加だー!
こんなに嬉しいことはない。こんないつ怪我をしてもおかしくないようなメンツの中、俺はやらなくていいんだからなぁ。最高だ。
考も参加しないってことは、今回は完全審判と実況を務めるようだな。まぁ、いいか。
そして、チーム両方、海辺まで行きミーティングを始めた。誰が一番目になるか、誰がアンカーになるか、泳ぎの速さなどを聞きながら入念にミーティングしていた。ゲーム不参加の俺にとっては、今回は客だ。存分に楽しませてもらうとしよう。

「ではでは、ミーティングの方は終了したします! みなさん、位置についてくださーい」

決めた順番で位置につく。一番目はスタート地点にたち、他の者はそれよりも約2mほど下がった場所で待機している。一番目は健也と深木さんだ。

「それでは! 位置について……」

二人共構えを作り泳ぎの態勢に入った。

「よーい、ドンッ!」

考がスタートを言うと同時に笛を吹いた。それを合図に両者泳ぎ始める。
早い、両者とも引けをとっていない感じだ。

「さぁ、始まりました海の大レース! 実況はこの考がお送りいたします! おーっと! まず切り出したのは健也くんか!? ものすごい速さだこれはスゴイ!」

楽しそうだな、コイツ。しかしまぁ、ホントに速いな。

「それに負けじと深きさんも泳ぐ! さぁ、健也選手、深き選手、両者ともに後半戦へと突入したー! これはまず引き分けといったところかぁ?」

健也も深木さんもほとんど同じ速さで泳いでいた。
女子と男子なら不利だと思っていた俺は今圧倒されている。
この競技は中々面白いな……。

「先にゴールしたのは健也選手だ! それに続き深木選手もゴール! タッチして次の選手に交代だー!」
「頼みます、恋歌さん!」
「遅くなってごめん、あと頼むね鏡花ちゃん!」

各々二番目に交代する。恋歌、鏡花、見るからにライバル対決といったような感じだった。
闘士が燃え上がっているようにすら見える。周りに、あれ気じゃない? ていうほどの。
そしてタッチして交代した二人は全力で泳ぎ始める。体制を確かに保ちながら、腕と足を必死に動かす。上がる水しぶきが大きく、それを見ていっそう必死なのを感じさせる。
一体どれだけ頑張っているんだよ……。

「こちらも両者選手速い! これもまたドローとなってしまうのかぁ!?」

どうだろうな。賭けるなら、確かに迷うな……。

「(負けられない! あの子には負けられない! 絶対勝って氷河は私のものに――!?)」
「あれ、おっと? どうやら恋歌選手の様子がおかしいです。一体どうしたのでしょうか」

ん? 急に泳ぐのを止めやがった。何してんだ?

「恋歌選手ー? どうしたんですか? レースはまだ途中ですよー」
「(わかってるわよ! でも、これ……足が吊ってる!?)」

なんだ? おかしい……。っは! まさか……!

「おーい! 恋歌! 大丈夫か!? 返事しろー!」

咄嗟にあることに気づき、もう一度呼びかけてみる。だが、返事はない。
あれ、溺れる!!

「考! 恋歌のやつ溺れてるぞ!」
「え、じゃあ、雄志! お前水着だろ! ちょっと助けろ!」
「え……いや俺は」
「頼む雄志」
「氷河……いや、実は俺、泳げないんだよね……」

え……。

「……何言ってるの?」
「いやだから、金槌なんだ……」

ええええええええ!?
って! こんな驚いてる暇はない! 助けなきゃ! あいつを!

「もういい! 俺が行く!」

急いで海に飛び込む。
服で通常よりもさらに重くなった体を、何とかして動かす。機敏に動けないのも確かだ。
だがそれでも必死に腕を、足をうごかした。

「恋歌先輩、どうしたの?」
「あ、鏡花! 何か、溺れたみたいで……今氷河先輩が助けに行ってる!」
「そんな……」

くそ、重いな……。もう少しだ恋歌。耐えろ! 耐えてくれ…!

「(う……ダメ、もう無理……。息が、続か……ない)」

頼む! 頑張ってくれ!

「(私……今度こそ終わりかな? 結局10代で終わりなのかな……)」

くそ! もっと動けよ、俺!

「(嫌だよ……助けて、誰か……誰か…………助けて、氷河ぁ)」

いた! 恋歌が!
俺は溺れていっている恋歌の腕を掴んだ。疲れきった体力をオーバーヒートさせてでも動かす。助けなきゃいけない。違う、助けたい…!
二度と、怖い思いをさせない。そう俺は誓ったんだ、コイツに。
だから……だからこそ……!

「恋歌…!」







誰かに腕を引かれている。
手がいいな。手と手で繋ぎたい。
助けてくれるなんて、こんなに必死に掴んでくれるなんて、カッコイイなぁ。
こんな人、好きになっちゃうかもしれないよ。
ううん、実際もうそうなのかも。
どこかに連れて行ってくれるかな。どこに連れて行ってくれるだろう。

「恋歌…」

そうやって手をとってくれた…。

「暖かいよ……バカ」







「大丈夫か!? 目ぇ覚ませ恋歌!」

あれから、一生懸命に恋歌を運び、浅瀬まできた。
すでに時刻は過ぎ、もう大会なんてやっている暇はなくなった。
冷たくなっている恋歌の体に、そっと手を置き呼びかける。
皆も、恋歌を囲んで、名前を呼び続けた。

「ゴホッ、ゴホッ……っ!」
「恋歌! 目覚ますの遅いんだよ!」

ゆっくりと目を開けた恋歌に、少し微笑む。
状況がわからないようだ。本当に、馬鹿な野郎だ。

「大丈夫か? 息してるよな?」
「当たり前じゃない。バカじゃないの」
「バカ言うな。お前が溺れてるから助けてやったんだぞ」
「そう、だったのね……。その、あ、ありがと……」
「何言ってんだよお前。当たり前だろうが――約束はもう破ったりなんかしないさ」

そう言った俺に、恋歌は微笑んでくれた。
そして俺に言い放つ。

「フフ……バーカ」

――こうして長い海水浴は終わった。
もう、景品だのなんだのはなしでいいよな? こんなことがあったんだ。楽しんでられないだろ?
けどまぁ、この事件がなかったら、楽しかったのかもしれないな。俺は少し間違っていたようだ。
あたりもすっかり暗くなって、さて帰ろうかという時に、考が言った。

「よし! じゃあ明日は遊園地でも行くか!?」
「行かねぇよバカ。少しは考えろ」
「なんだよー! いいじゃねぇか! こういう嫌な記憶を忘れるためにもさー」

……たく、こいつは。

「フ、ハハ……ハハハハハハハ!!」
「あ、ちょ! なんだよ急に笑いやがって!!」

みんなが笑い始めた。意味もなく、ただ無心に。
だが、その笑いには確かに温もりのようなことさえも感じさせられた。
明日からはまたフリーになるのか? いや、そんなことはなさそうだな。
けどまぁ、いいかもしれない。中々に、充実した高校生活を送っているんじゃないか?

「な、恋歌」
「……フフ、意味わかんないわよ!」

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