小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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「…………」

コソコソコソ

「…………」

コソコソコソ

「…………」

コソコソコソ

「ついてくんなーッ!!」



♯21.トイレ×謎の男



あれから。
そう、奴らに見つかったあとから、後ろを付けられている俺と鏡花。
鏡花の方はそのことに一切気づいてないようだが、むぅ……俺はだな……。
しかも、チラチラ見るたびに、あいつらなんか話したりニタニタと口を歪ませたりで気持ち悪いんだよ…!
今はカフェを出て街を歩き中なわけだが、いかんせん俺にはどうすればいいのか。
とりあえず、脳内では色々と思索しながらブラブラと歩き中なわけだ。
鏡花は、緊張しているのか妙にそわそわしている。そして俺は知っている。ここで「トイレか?」などというと必ず拳を振ってくることを(恋歌で経験済み)。

「そういえば、鏡花は恋歌のことをどう思ってるんだ?」
「え、恋歌先輩ですか?」

何気なく、会話をしないのも尺なので適当な質問を投げつけてみた。
だがしかし、俺は少し気になっていたことだ。恋歌と鏡花は仲がいいのか悪いのかで、俺は少々不安になっていた。仲良くやってほしいもんだからな。

「んー、そうですね……(ライバルだから勝ちたいとかは言えないし……)」
「(さあ、どう返す)」
「んー……元気があっていい人だと思います!」
「……っぷ、はは、ハハハハハ!」
「え、ちょ、なんで笑うんですかぁ!」
「いや、うん、それなら安心だ」
「?」

鏡花だったらたしかにはてなマークが頭上に浮かんでも仕方ないかもな。
ま、そう思ってくれるんなら、安心できるかな。鏡花は嘘いいそうなやつじゃないし。
なんだかホッとした。もう、後ろのやつらどうでもいいくらいに。
と、ん……この感覚は!

「悪い! 俺ちょっとトイレ行ってくるよ」
「あ、はいです! ここで待っておきますね!」

不意に出してくなってきた俺は、鏡花に言って近くの公衆便所に駆け込んでいった。
その途中、奴らにもであったが……。話しても何の得にもならないので目を合わせないように通り過ぎた。なんだか悲しい顔をしたあいつらが頭に浮かぶ。
そして、3分くらいで公衆便所に着き、俺は尿を足すことにした。

「ふー、スッキリする……」

目を閉じ、急かした足を休ませながら息を吐く。
なんだろうな、この時って妙に安心するんだよな。
と、誰もいなかった便所に男一人が入ってきた。その男はメガネをかけ、容姿だけで言うと根暗のような奴だった。
俺が少しチラ見したあと、男は感づいたのか、俺の背後に忍び寄ってきた。

「(んだよ……そこまでするか? 普通)」

俺は呆れながらも、尿を足し終わったのでズボンのチャックを締めベルトを締め直した。
そして男に当たらないように抜けようとした瞬間だった。
男は、ガッと俺の方を掴み、鋭い目つきでこちらを見てきた。

「ようやく見つけたよ。君、なかなかいないからね……」

動揺が隠せない俺は冷や汗をかきながらもその言葉の意味を思考した。
何言ってんだ……コイツ……。
男は、俺の動揺に気づいたのか、素朴な言葉を投げつけてきた。

「安心していいよ。殴るつもりはない……それともビビっているのかい?」
「…………」

男は俺の肩に乗せている手を一切離すことなく、むしろ、その力は増していった。
だんだんと軋み始める骨と男の指。震えが伝わってきた。
そこで俺は、ようやく第一声を放った。

「お前、誰だよ……」

それは誰しもが初めて出会ったとき、そして呼びかけられた時に言う言葉に近かった。
なんとも当たり前で、なんとも想定しやすい言葉に、男は待っていたかのような言葉で返してくる。

「やはりわからないかい。それも仕方ないかもしれないね。でも……」

男は、俺の肩に乗せていた手の力を緩め、そして、次の言葉を放ったと途端に一気に力を込めた。

「忘れたとは言わせないよ……!!」
「っぐ!?」

今までで一番力強く、骨にヒビが入ると思わせるほど痛かった。
同時に、男の言葉の意味が本当にわからない。
その言葉からして、以前会っているかのような言い回しだった。

「な……なんのことだよ……!」

俺は必死に力を込め、男の手を突き放した。
息が切れている。動いてもないのに、緊張と痛さと理解で苦しんでいた。
すると、男はメガネを指先一本でかけなおし、知ったかのように言い放った。

「君が僕を忘れるなんて、君には相手を思う気持ちがないのかい。僕は、君の敵だよ……。僕の恋歌を奪った敵だよ……!」
「……な、何言ってやがる……テメェ」

ネットでよく見かける「キチガイ」ってやつはこういうやつなんだと思い込んだ。
俺は何も知らない。だがこの男は、俺のことも、そして恋歌のことも知っているようであった。……れ、恋歌はコイツのことを知っているのか?
それに敵だといった。「恋歌を奪った」敵だと。
意味不明な言葉は到底理解できない。しようがない。
それでも俺は反論の言葉をそれ以上見いだせなかった。男の、威圧感のせいかは知らないが。
すると、男はもう一度ズレ落ちたメガネをかけなおし、俺に向かって言う。

「今後のために名前を言っておくよ。僕は優しいからね。僕の名前は「相馬仁(そうま じん)」だ。覚えておけ、僕の容姿も名前も。そして思い出せ。過去を……敵として君は不甲斐ないと思え」

それだけ言い放って、男は――相馬仁は――トイレを出て行った。
腕につけていた腕時計に目をやる。時間はたったの10分程度しか経っていなかった。
しかし、俺には30分以上にも感じた。
何気なく入ったトイレだったのに、俺は後悔をした。

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