小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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声。声が聞こえた。
奴のことはいい。今は、とにかく。
とにかくアイツを……。



♯23.硬直×必死



走って恋歌の部屋の前まで来て、俺は勢いよくドアノブを引いた。
木が軋む音を聞きながら目を開眼させていた。俺の目の前に現れたその光景は、何とも言えない。他の誰かが見たら必ず事件になるほどの光景だった。
そこには、ロープで体を硬直させられ、タオルで目隠しをされ、挙げ句の果てには体に巻き付かれているロープよりも大きく太いロープが、口を縛っていた。
ロープは腕と足をも巻き込んで体の胴の部分に巻きついている。固く縛られており、外すには手間がとてもかかりそうだった。
口も、体と同様になっていて、だがそのロープの大きさは比べ物にもならない。あんなもの巻き付かられていたら、呼吸もできないんじゃないか?
しかし、声を必死に出している。もごもごとしていて一体何を言っているかはわからない、否。逆にわかった。求めているんだ……助けを……俺を……!

「恋歌……!!」

俺は人の部屋とも知りながら、支えていたドアを思いっきり突き放し、恋歌の元に駆けた。

「今助けてやる…! もう少し頑張れ!」

きっと呼吸しにくいはずだ。とりあえずはタオルを外すか。
俺は目に縛られていたタオルをほどいた。ロープよりも浅い布で作られていたタオルはすぐに解かすことができた。恋歌の目が顕になる。その目は真っ赤になっていた。
真っ赤になってまでも、泣いていた。

「恋歌、泣くな……って言っても無理か。もう少しだ、耐えろ!」
「んーっ! んーっ!」

くそ、何言ってんだよ。わけがわからん。
俺はそう思いながら、今度は口に縛られているロープを外そうと、固く止められているそれに手を伸ばした。
手で持ってさらに感じる。そのロープの太さを。
俺の男の手でさえ、包むことが精一杯だ。
縄が皮膚をかすれる。妙に痛くても、必死に外そうとする。固くて、目で見ただけでは微動だにしていないようにも見える。それでも、俺は手を止めることはなかった。
その間にも、恋歌は苦しんでいる。足と腕をバタつかせようとしても、縛られていて身動きが取れていなかった。
そんな異常な光景を見ながら、縄を解いていく。しかし、大して変わっていない…?
なにか、何かないか?
恋歌に聞こうと思っても、今では無理だ。
俺はあたりを見渡す。周りには、女の子が所有して当たり前のようなものばかりだ。
服やらアクセサリーやらが少し散らかっていることもあって、探しにくい状況だった。
片付けくらいしとけ……!
探し回っていると、机にハサミが置いてあった。……しかし、ハサミで切れるとも思わない。どうすりゃいい? ……あ、あの手がある!

「遅れてすまん! 今解く!」

そう、俺が思ったあの手というものは、ずばり「テコの原理」だ。
小さな力でも、その原理によって重たいものも持ち上がるアレ。あれの方法をやれば、縄だって解けるはずだ。
縄と縄のあいだにある隙間にハサミを押し込み入れる。そして、俺は引く方向の縄を左手でもち、絡みついている縄を押し上げる方に、ハサミをセットし右手で持つ。
そしてそれを、一気に引いた。

「せーのっ!」

そんなすぐに引くことはできなかったが、徐々に徐々に、縄が解けだしていた。
固く、かなりの力が要求されるが、今はそんなことはいいのだ。

「ふんっ! ……く、くく……おおおおおおおっ!!!」

何度も力を込めた末、その縄を解くことができた。
最後、思いっきり力を込め引いたそれは、恋歌を解放させた。

「恋歌! 大丈夫か? 苦しくないか?」
「けほっ……こほっ、けほっ……うん。なんとか、大丈夫よ……」

俺はその返答を聞いたあと、体を縛っていた縄を解き、解放させた。
口よりも、体は柔く、さほど時間がかかることはなかった。
完全にロープから解放させた恋歌を見て、怪我がなく、息苦しくもないと聞き、俺は安心した。なんとか、なった……。

「本当に大丈夫か……?」

俺は手を頬にあて、優しく撫でながら聞いた。
自分でもわからないが、自然とその行動を起こしていた。
はっと気づいたときには、もう遅かったみたいだ。恋歌の目から、また涙が溢れ出していた。

「うん……大丈夫だって、言ってるじゃない……心配しすぎなのよ。バッカじゃないの」

そう言っても、その言葉は照れ隠しのためだったのか。恋歌は静かに、頬を撫でていた俺の手に、自分の手を添えて、ぎゅっと握りしめてきた。
暖かく、かすかな温もりを感じる。さっきまで怖かったろうに、俺は今それを感じなかった。
とにかく、ことが大きくならないで良かったってもんだぜ。







「じゃ、もう大丈夫だろ? またな」
「うん、ありがと」

あのあと、恋歌がめいいっぱいに泣いてきたもんで、それに付き合わされたのだ。
俺にすがってまで泣く必要はどこにあったのか。
だが、気にしながらもそっとしておいた。そうもしないと怒るかもわからんからな。
そして今に至る。現在、かれこれ3時間後か。家に帰っているところだ。
空も暗くなり、俺は自転車のライトをつける。
限られた範囲だけが明るく照らされている。それが道しるべともなっている。
街の灯りも、灯火始めていた。
今日はなんとかなった。結果オーライか? いや、そんなわけがない。
俺は引っかかっていた。相馬仁は、何がしたいんだ?

『僕の恋歌に手を出した君を許さない』

そんなこと言ってたくせに、なんでアイツをあんな目に合わせる?
狂ってんのか? 何がしたい。奴の目的は何だ?
俺は謎に包まれながらも、暗い道を走っていった。妙に、肌寒くも感じた。







「アレは、まあ、当たり前の結果だろうね」
「できなかったらただの低脳としか言い様がないよ」
「全く。だがしかし、これからは……」

男は不敵な笑みを浮かべていた。
暗い夜。誰もその笑には気づくこともできなかった。
男は、それが予想通りかのように声を漏らしていた。
目の前に、消えていく自転車を、ただ見つめていた。

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