小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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「雄志何やってるんだ?」
「女の子にモテる方法を……」
「……そうか。じゃ、なるべく首を突っ込まないようにしておくよ」
「なぁ、女の子って、どうして欲しくなるんだろうな」
「お前……どうした。見ないうちに気持ち悪くなってるぞ」
「なぁ、それとさ」
「まだ何かあるのか」

「俺、最近出番少なくね?」

「……異論はない、です」



♯24.やる気×無



あの日、あの事件の日。
あれからいつまで時は経ったのだろうか。
奴のことで頭にはもう何も入らない。聞こえてこない。
なんだ? 
俺は、奴と遭遇してからロクなことがない。
呪いか? 奴は、何かの呪術でも仕掛けたのか? 
俺は、目の前にいる健也に問う。

「なぁ、今いつだ?」
「ん? 何だよ急に。ついに脳が御陀仏したのか?」
「あ、いや……。今日は、何日かなと……」
「10月の10日だよ! おいおい日にち忘れるなんてそうそうないぞ。ちなみに水曜だぞ」
「あ、ああ……すまん。ありがとう」
「なんだかなー。どうしちまったんだ」

ということは、まだ1週間も経過していないのか。
既に、自分の中では2週間、いや、1ヶ月経っていたといってもいい。それほど感覚が鈍っていたのか。
学校、来てはいるのだが、授業も集中できない。飯なんて食う気にもならない。
家にいても、熱中できるものなんてない。
ただぼーっと過ごし、奴のことだけを考え、そして一日が終わる。
そんな生活を繰り返して繰り返す。
まるで終わりのないワルツのようだ。嫌になるな。
最も、これが好意を抱く女性であれば、むしろもどかしさでいっぱいなんだろうが。

「なぁ、それより氷河」
「ん、何だ?」
「弁当……食べないのかよ。昼休みは後10分くらいしかないぜ?」
「え、あ……ああ、そうだな。食べないとな」
「お前、まさか今が昼休みで、昼食の時間だってことすら忘れてたのかよ?」
「そんなわけないだろ」

そんなわけがない。嘘だ。
忘れていた。否、実感が無かった、と言うべきか。
今が昼休みだということも、昼食の時間ということも、挙げ句の果てには、今目の前に健也がいることさえも忘れかけていた。
俺は風呂敷を解き、弁当の箱を開けてそそくさと食べ始める。
残り時間も少ない。なるべく、弁当は残さないようにと、急いで食べ――ようとした。
無理だった。食欲も沸かない。
箸で持った卵焼きを、ぽろっ、と落とす。力も入らないのか、コンチクショウ。

「ん? 食べないのか、弁当。なら俺がもらうぞ?」

箸を持ったまま下を向いた俺に対して、健也は目を光らせる。
コイツ、自分の弁当が足りなかっただけで、全然思い遣りはなさそうだな。
しかし、今の俺には否定することもなく、素直に「ああ」とだけ言って、弁当を健也の方に突き出した。
これには健也も驚いたのか。少し硬直した後、まるでライオンのように舌を出し、俺の弁当にありつき始めた。
そんな健也をじっ、と見る。羨ましいぜ、クソ。
すると、しばらくして健也が顔を上げ俺に向かって言葉を放つ。

「ああ、そうだ。今のお前だからきっとだと思うが、今日恋歌ちゃんはお休みだぜ」
「!……恋歌が?」
「そら見たことか。風邪だよ、風邪。まぁ、そんなに強いものでもないらしいし、今日は大事をとって休むって学校側に連絡があったんだとよ。朝のホームルームで先生が言ってたぞ」
「そう、なのか。全然聞こえなかったな……」
「ま、一応言っておいてやった。……ごちそうさま! 弁当ありがとよ。次移動しなくちゃならねえから早くしろよ」
「ああ、わかった。……あ、熱は、ないのか?」
「微熱だってさー」

すっかり俺を一人教室において、健也は教科書やノートを持ち出て行った。
つか、コイツもう食べたのか。早っ。
俺はそのあとしばらく外の景色を眺め、ようやくと言ってもいいだろう。意志を取り戻した。
そして、俺だけの教室から誰もいない教室へと変えるため、俺は教室を出た。
すでに授業は始まっている時間だ。
しかし、まぁ適当に言い訳くっつけてその場しのぎしようと思い、俺はその足をゆっくりと動かしていった。
その速さ、霞んだ表情、どれをとっても主人を探す衰退した犬のようだったことは、誰よりもこの俺が知っていた。
俺が移動教室へと着いたのは、始まってから20分後だった。







私の名は岬鏡花。
現在、学校が終わって放課後。
私は急いで学校を出て、今日はある目的地へと足を走らせた。
何を隠そう、先輩(もちろん氷河先輩)の家だ。
休みのあいだに作ったパンケーキ。家族に地味に好評なもんだから、先輩にもあげることにしたのだ。
朝作ったパンケーキの袋を手に持ち、走って向かう。
一度だけ見たことがある。
きっと先輩は、いきなり来て驚くだろう。それでも構わない。むしろ、そうすれば何はともあれこれからは行きやすくもなる。
一石二鳥? なのかな。
私はパンケーキを崩さないように気をつけながら向かった。
数十分後、虫の息になりながら家の周辺に来た。
ここからは、息を整えて出るよう、歩いていかなければ。
角を曲がり、歩き始めたところで、私は気を殺した。

誰か――いる?

家の目の前に一人の人。恐らく男性だろう。
何もしないまま、ただ立っている。動かず、静かに。

変な人だな。友達……なのかな。

名前も知らないような赤の他人ならあんなことはしないはずだ。
私はそう思い、しかし、どこからか湧き出る不安に押し潰された。
角の傍にあった電柱に身を隠し頭半分だけをひょいと出して監視する。
すると――

こっちを見た!?

突然見られたような気がして、私は咄嗟に身を隠した。
数秒、はたまた数分だろうか。いくつか時間が経ったあとに、再度頭を出す。
すると、そこにはもう誰もいなかった。

「さっきの人、なんだったんだろう……」

辺りを見るとすっかり暗くなっていた。
もう遅いかな。
私はせっかく来た道を戻りながら、とぼとぼと家へと帰っていった。
また、明日にでもしようかな。


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