小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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使っていたぬいぐるみなどを捨てると、魂が籠ってよみがえってくると言われる
「付喪神」
物に魂が宿ったらなるらしい。
一番無難なのがぬいぐるみであろう。学校の怪談などでは、カメとウサギなども有名かもしれない。
しかし、これは本当なのだろうか?
そもそも物に魂が宿るなんてありえないっつーの、とお考えの人は信じていないだろうし、簡単に捨てることもできるだろう。
逆に信じる者は、どこかしら持ち続けるはずだ。
だが、俺的に言わせてもらうと、「大事に使っていた物を簡単に捨てるものではない」という神様からの教えなのではないか?
それこそ、仮に魂があるのだとしたら、捨てられたぬいぐるみたちは悲しいはずだ。
俺たちももちろん、誰かからに捨てられたら嫌だし、悲しい。
それと同じ。作られた者にも、作らされた者にも、皆同じ「想い」があるのではないか?
だってよ。恋歌の奴だって、未だに持ち続けてるんだぜ。
俺が誕生日の日にあげたクマのぬいぐるみを。



♯6.時間×期待



さて。誕生日のために買ったブレスレットを鞄の中に居れ、今は恋歌を待ち続けている俺こと、秋島氷河。
待ち合わせのバチ公前に、きっちり10時の5分前に来ていた。
というか、このバチ公、って眉がこ○亀の両さんみたいなんだよなぁ〜。なんでこんな犬にしたんだろう?
ま、いっか。気にしたってどうもならないし。
と、もう10時か。まだ恋歌は来ていないみたいだな。……うん、それらしき姿は一つも見当たらない。
――――5分経過。
最近の女子ってのは、遅刻するのが普通になってるみたいだな〜。でもそれって友達同士だけじゃないのか? プチ遅刻……だったっけ?
ああ、でも。俺と恋歌も幼馴染ってだけだから、友達みたいなもんなのかな。
――――10分経過。
まぁ、10分も似たようなもんだよな。俺もたまにやっちゃうし。
信号とかで詰まってる場合ってよくあるよなぁ〜。ああいうときって、相手に申し訳なくなっちゃうんだよね。
――――15分経過。
ん〜、男同士だったらあんまりないような時間だな。
いや、相手は女子、しかも恋歌だ。反抗したら何て言われるか………。やめておこう。
――――20分経過。

「いつだよっ! あれか? 俺が男だから間隔違うのかっ!? 女子同士だったら「あ、ゴメ〜ンちょっと遅れちゃったよ〜」で済むのか!? 全然ちょっとじゃねぇだろ!!」

さすがに遅いと思った俺は、怒号をついつい上げてしまった。
周りにいた数人がこちらに目をやっているのが分かる。それが余計に恥ずかしくなってしまい、俺の顔はもう真っ赤だった。
いやだがしかし、今は時間だ、時間。
何をやったらここまで遅れるのか。不思議すぎて頭の中がオーバーヒートしそうだ。
普段あれだけ人をこき使ってるくせに、こういう場となったらどっちが迷惑を受けていることかっ! って、どっち未知俺じゃねーか!!
―――と、ようやくその姿が見えてきた。

「――っ! はぁ、はぁ、はぁ……! お、遅れてんじゃないわよっ!」
「お前だろうがっ!!」

一応、全力疾走はしてきた……のか?
やたらと汗がにじみ出ており、ものすごく息が荒い。これが虫の息と言う奴か。
お腹を押さえ、もう片方の手を肘に置き、目はその苦しさを訴えていた。
いやでも、自業自得だからね。
ちなみに今日の恋歌の服は、白いカーディガンに、短いショートパンツ。
シンプルな恰好ではあるが、その容姿がまさに「できる女」を見せつけているようだ。
小物のアクセサリーも身に着けており、ネックレスは俺が上げたプレゼントのものだった。

「ああ、そのネックレスつけてくれているんだな」
「え、ああこれ? まぁ……氷河のくれたものだし、つけておいて当然……」

最後の「くれていたものだし」の後が全く聞こえなかった。
声が小さいぞ、恋歌。
まぁ、可愛い、な……。
って、なぜ俺が顔を赤くせねばならんのだ!
はぁ、なんか怒りが一気に冷めたな……。ま、許してやるか。

「あ、アンタも、その。私が上げた腕時計、つけてるじゃない」
「おう、まぁな。せっかくもらったんだし、それにコレ俺も結構気に入っててよ」
「へぇ、そ、そうなんだ……」

なんで恋歌も顔が赤いんだ? 
そう。俺がいつもといってもつけている腕時計だが、これは恋歌が俺の誕生日にくれたものだ。俺自身気に入ってるから、よく身につける。
センスいいよな、恋歌は。

「で、まずはどっか行くか?」
「ええ、そうね。暑いし、涼しい所がいいわね」
「ん。じゃ、どっか探して行ってみるか」

こうして俺たちは歩み始めた。
ちなみにその時間は、待ち合わせの時間10時を軽く過ぎての、10時40分だった。







今、ドキドキが止まっていない。
私、恋歌はいつものように対応するつもりだった。いや、いつも“ときどき”ドキンッ、とすることがあるけれど、基本的には学校生活のように振る舞うつもりだった。
でもその目標は、一瞬にして砕けた。

(うぅ〜! 腕時計ちゃんとつけてんじゃないわよっ! そ、それに今日に限って服装が真面目にかっこよくしてるんじゃないっ!? も、もう、意味わかんない!)

こうなっていた。
きっと頬は真っ赤だ。それに気づかない氷河にも少し感づいてしまうが、そこは恋する16歳。今はそんなことよりも、目の前にいる氷河の事で頭がいっぱいだった。

(こ、これからどこに行くのかな。ふ、ふたりっきりだから、これってやっぱりデートなんじゃぁ……。って、そんなわけないでしょ! ただの遊びよ、遊び!)

一人で妄想しては否定し、妄想しては否定しの無限ループ。
まさに自家発電タイプ。これからやっていけるのか……。
不安と、そして少し期待を背負いながら、恋歌と氷河は歩いて行った――――


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