小説『愛と幸せ、それから死と』
作者:ララ()

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  耐え難い激しい激痛の中で、あたしはふと目覚めた。

  真っ白なはずの布団は、真っ赤に染まり

  あたしを取り押さえるかのように、大勢の医師が手を伸ばしている。

  まるで心臓が暴れだしているような

  身体中全ての痛みが、苦しみが、一瞬にして

  あたしの頭の中をいっぱいにした。

  いやだ

  怖い

  怖いよ

  誰か

  誰かあたしを

  助けて
 
  誰か

  何も考える余裕もなく、あたしは必死に暴れる

  ドクンっと心臓がはねたかと思うと

  一気に口に異様な味が漂う

  耐え切れなくなって、あたしはそれを何度も吐き出した

  何度も、何度も。

  目を閉じたまま必死に宙を掴んで、誰か誰か、と叫んでいた

  どんどんあたしの身体に、いろんな機械が取り付けられる
  
  それでもあたしは、ただがむしゃらに暴れ続けた

  そんな時、あたしの視界の片隅に移ったもの―――――

  麻酔薬だった

  それはゆっくりとあたしに近づいてくる

  なぜかあたしには、それが怖くて仕方なかった

  注射なんてなれっこのはずなのに、その針の先が

  まるで黒光りする銃口のように光って見える

  それを打たれてしまうと、もう目が覚めないような気がしてならなかった

  いやだ

  いやだ

  いやだ

  いやだよ

  死ぬのはいやだ

  ひとりぼっちはいやだ

  打たないで

  打たないでよ

  いやだ

  その間にも、あたしの身体はどんどん体力を奪われ、衰弱していく

  ゆっりと、でも着実に

  心臓のリズムが崩れていくのが分かった

  




  





  ふと我に返ったとき

  あたしの身体には、大量の麻酔薬が流れ込んでいた

  だんだん瞼が重くなる

  全身に力が入らなくて、その場に倒れこんだ

  あぁ、あたしは死ぬのか

  ここで、こうして、このまんま………

  でも、それでもいいかもしれない

  あたしは声も上げずに泣いていた

  孤独を恐れないことが、こんなにも大変なことだっただなんて

  死ぬことが、こんなにも苦しいことだっただなんて

  眠りにつくことが、こんなにも悲しいことだっただなんて

  










  愛を求めることが、

  幸せを与えることが、

  あたしにとって、こんなにも苦しいことだっただなんて

    
  

    

  
  

  
  またこの病室を見つめられることを願って

  また自分の手のひらを眺められることを願って

  あたしは再び眠りに引き込まれていった








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