「ローブック?」
「そう。ローブック」
初音に訊き返したつもりだったが、カイトが答えた。
カイトは自分の横にあった、一冊の本を手に取った。厚さは辞書ぐらい。表紙には、なんだか得体の知れない文字が書かれていた。
少なくとも日本語ではない。アルファベットでもない。よくわからないが、とにかく自分の見たことのない文字列だった。
「それは?」
憐爾はカイトが手に持っている本を指差して訊いた。
「これがそのローブック」
カイトはその本をぱらぱらめくって見せてきた。もちろん何が書いてあるのかは、まったくもって理解できない。
「何が書いてあるんですか?それには」
「うん、そのことだけどね。正直言って、僕にも読めない」
読めないのかよ………。まぁそりゃそうだろうけど。
「僕が見た限りでは、古代エジプトで使われていた神聖文字(ヒエログリフ)。これに似ている文字が一番多い。だが、ところどころ神聖文字(ヒエログリフ)とはなんとなく形の違うものや、まったく違う文字が混ざっていたりしている」
カイトは文章の一部を示してきた。
以前、憐爾は学校の歴史の授業で一度、神聖文字(ヒエログリフ)を見たことがある。しかし、今カイトが示した部分の文字は、それとはどことなく違うような気がする。
「この文字は、ゴート文字にも似ているところがある。こっちはフェニキア文字みたいだ。ようするに、大昔に使われていたさまざまな文字が混ざっている。それがなんにせよ、われわれには理解できない言語だ」
何のことを言っているのか憐爾にはさっぱりだ。どうやらカイトは知識が豊富らしい。
「まぁ不思議なところとしては様々な文字がいろいろな時代、いろいろな場所で使われていたにもかかわらず混在していること………」
カイトはそこまでいって、憐爾が心底どうでもいいみたいな顔をしていることに気づいた。
「おっと、すまない。憐爾。えーっと………。まぁこの本、内容は知らないが、用途は知っている」
「どんなことに使うんですか?」
「さっきも言ったろ?lcer時に必要になる。これは自分の外れた法則を修正してくれる、そういう代物なんだ」