小説『No existence【停止中】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

-5

図書館までは歩くしかなかった。ここから約1km。まぁそれぐらいの距離なら問題はない。それにしてもさっきいた場所から出ておどいたのだが、今までいた場所は憐爾の家の真横だった。おかしいな、と憐爾は思った。お隣さんは確か老人がひとり住んでいるだけの家だったような気もする。いくらほかの人からは認識されないからとはいえ、なぜカイト達はあそこへいたのだろう。

今は12時ぐらいだろう。図書館へ行くまでの道は食べ物屋などが多く立ち並ぶ、メインストリートだった。お昼ということもあり、人通りは多かった。

憐爾はいやだった。人が多い。憐爾達はその人ごみを進む。相手はよけてくれない。相手からは見えないのだからもちろん。普通の人ごみでもおんなじ様な感じだが違う。普通の人ごみでは互いを意識していないようで気にする。しかし今は違う。まったく相手から意識もされないし感覚が違う。自分がここにいないような感覚。実際『いない』のだが。

「憐爾どうしたの?」

初音がこっちを不思議そうに見てきた。自分がどんな顔をしていたのかはわからないのだが、気分が悪かったのはたしかだ。だが、この息の詰まるような感覚。しかし、初音が話しかけてきたことによってやっとその息苦しさがなくなった。(そういえばここに来るまで全員が無言だった)

「いやなんでもない」

「ホラ、見えてきたぞ。あそこだ」

カイトが指差す先にはあった。神鳴市立総合図書館。ここにあることは知っていたが、憐爾はいったことがなかった。いや、だいぶ昔、小学校のころに学校の調べ学習か何かでいったような記憶がある。もっとも、ずっと寝ていて怒られた記憶しかないが。

ここは、古い貴重な文献などもおいてあることで有名だ。おおきさは県下の中でも3本の指に入る。

「着いたな。気をつけろよ。何がおきるかはわからない。もしかしたらすでに誰かが来ているかもしれない」

ゴク。と憐爾は息を呑む。

「じゃあいくよ?」

初音が図書館の入り口に立った。

自動ドアが開く。

-18-
Copyright ©迷音ユウ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える