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足音が聞こえなくなって一分が経とうとしていた。
「(もしかして、今あいつ完全に動いてないのか?)」
憐爾がぼそぼそと初音に話しかける。
「(うん。足音しないから多分そううじゃない?)」
まったく動いていないとすると、新川はすぐ2mほど前にいるはず。
「(な、なぁ。殴っていいかな)」
「(相手がどこいるか分からないのにどうやって殴るのよ)」
「(いや、たぶん目の前だと思うだが)」
憐爾は身を構える。こぶしを握り、前進しながら思いっきり前へ突き出した。
「・・・!?」
が、空ぶった。そこにはいない
「い、いない?動いてないはずなのにどうして!?」
憐爾は辺りを見回す。
「憐爾、後ろ!!」
初音の叫ぶ声が聞こえた。
憐爾はとっさに後ろを振り向く。
いた。
新川はそこにいた。こぶしが自分の腹をめがけて飛んできた。憐爾は反射的に手を胸の前でクロスしてガードする。
ドッ!!
ただの人間の打撃とは思えないような音。その音と同時に憐爾は後ろに吹っ飛んだ。
「ぐっ・・・これは・・・もしかして初音と同じ・・・」
憐爾は腹をかばいながら立ち上がった。鈍い痛み。かなり重症のようだ。
(こりゃ下手すると骨折れたかも・・・)
新川はふふふと笑った。
「そうよ、私のout lawは『人間の身体能力の限界』。さて、あなたのか弱い力で私に勝てるかしら?」