第一章-existence disappear-
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PM8:50。憐爾は近所の公園のベンチに座っていた。
あの後、憐爾は一度家に帰っていた。たが、やはり母親には気付かれなかった。
何となく憐爾は家族のアルバムを開いて愕然とした。今までは貼ってあったはずの自分の写真が一枚もなかった。
憐爾ははじめ自分は何らかの原因で死んでしまったのかと思っていた。実際そんなことは信じたくなかったが、自分は所謂幽霊になってしまったと考えるのが一番妥当だった。しかし、それもどうやら違うようだった。
事実、ものはさわれる。朝はドアを開けることもできたし、目覚ましにだってさわることができた。しかもきちんと朝飯も食べた。
でも、自分が幽霊でないと言い切れる最大の理由は、アルバム。
いくら人が死んでも生きた証は遺る。しかしなぜかアルバムには自分の写真はない。まるでもともと自分がいなかったかのように。
自分は人から見えないだけではなかった。自分の声は他人にはただ聞こえないだけではなかった。
自分の存在、そのものがきえていた。