憐爾はただ怖くなって家から逃げ出した。そして、ふらふらと近くの公園に来ていた。
こんなのが現実であるはずがない。夢だ。絶対夢のはずだ。夢なら覚めてくれ。でも、もし夢じゃなかったら・・・。
憐爾は自分の頬を自分でつねった。ベタなやり方で夢かどうかを確かめた。いたい。夢の中なら痛みは感じないはず。でも痛かった。要するに現実。
「まじでなんだって言うんだよ………」
自分はこの世界にはもともといなかったことになっている。ならば今自分がここにいる理由はあるのだろうか。それよりなぜ自分はこの世界に存在しなかったようなことになっている?(まだ絶対とは言い切れないが)
誰も自分の姿を認識することはできない。誰も自分の声を聞いてくれる人はいない。誰も自分のことは知らない。
思考はネガティブな方向に傾いていく。
憐爾は夜の公園でずっと俯いたままだった。
何故だろう……不思議と眠くもないし、お腹もすいてこない……。
● ● ● ●
翌日。月曜日。AM7:50。
憐爾は一睡もしていない。だが、特に眠たくはない。
思考はさらにネガティブ方向へ。軽い鬱状態になりかけていた。
そんな憐爾のことを、5m後方で見ている人影があった。
憐爾の周辺を見ているのではない。憐爾のことを見ていた。
憐爾は視線を感じて振り向いた。一人の少女が自分の事を見ていた。憐爾ははじめ自分の事を見ているとは思わなかった。なにせ、自分のことは誰にも見えないのだから。
「君、新入りね」
憐爾はその少女の言葉は自分にかけられている物だとは思わなかった。回りを軽く見渡す。
「君よ、き・み。」
少女は、そう、しっかり憐爾のほうを指差していた。
「お、俺?俺のことが見えるのか?」
「もちろん」
少女の声はなぜか弾んでいた。
「お、俺は……どうなって…」
憐爾の言葉は少女の言葉に遮られた(少女に無視されたっていうほうが正しいか…)。
「私は君と同じNo existenceだからね。君の事が見えるのは当たり前」
なぜか少女の目は探し物を見つけただしたときのごとく輝いていた。