憐爾は英語はあまり得意な方ではない。今、少女が言った単語が英語ということだけは分かったが、それの意味までは分からない。
「の、ノー……なんだって?」
憐爾がそう問うと、少女は、
「No existenceだよ」
とアメリカ人顔負けの発音で答えた。
「なんなんだ?そのNo existenceって。まじでどうなってんだよ。お前、知ってんだろ?」
少女は輝くような笑顔から、心底面倒臭そうな顔に表情を変え、
「べつに教えても私にはなんの利益もないけど、教えないことには話が進まないから教えてあげる。ん、利益はあるのかな……」
と、なぜか上から目線で言ってきた。
憐爾は多少不快に思いながらも、教えてもらわないことにはどうにもならないので、何も言わなかった。
「No existenceについて教える前にまずは自己紹介からした方がいいわね」
べつにいらないのだが……。
「私の名前は、鈴鳴初音(すずなり はつね)。この街の龍炎高校に通っていた、高校1年生。趣味は音楽鑑賞。苦手なことは動物(人間含む)と接すること。まぁ、よろしく」
いや、よろしくじゃなくて。心底どうでもいい。
しかも、動物(人間含む)と接するのが苦手って、べつにそうは見えないのだが…………。
それより、一つ気になったことがあった。龍炎高校……。憐爾が通っている学校だ。ちなみに、憐爾も一年生。だが、彼女は一度も見たことがない。既に9月なのに……だ。
「あなたの名前は?」
一応答えることにする。
「俺の名前は、山鳴憐爾。ってか、No existenceってなんなんだよ。早く教えろよ」
さすがに少し昨日からのストレスもあっていらいらしてきた。
「ん〜せっかちだなぁ…。まぁおしえてあげる。私たちは自分たちのことをNo existenceって呼んでる。No existence………。訳すと、『無存在』かな。私たちはこの世界の法則からはずれ、この世界によって存在を消された人間なの」