唯は飛び跳ねるように驚き、僕が指差した方向を見つめた。
「ほら、大きな棒を持ってこっちを睨んでるぞ!
あっ、あっ、こっちに向かってずんずん歩いてくる〜!!
唯、どうしよう?」
「どこ?どこに『オニ』はいるの!?
怖いよ、おにいちゃん!」
唯は小屋中をきょろきょろ見渡し
いるはずもない鬼を必死に探している。
そう、これは僕の『名演技』だ。
大人が見たら、呆れるぐらいヘタな演技だろうけど
おバカな唯にはこれで十分だ。
もちろん、鬼なんて来ているわけがない。
ちょっとだけ唯をからかったら、後で嘘だよ〜ん!
と言うつもりだ。
そう、ちょっとだけ。
「あ〜!
鬼が僕をこん棒で叩こうとしてるっ!」
唯は、いるはずのない鬼が本気で怖かったらしく
みるみる目に涙がたまってきた。
しまった、やりすぎた・・・
と思ったときにはもう遅くて、唯はわんわん泣き出すと
小屋の外に走って行ってしまった。
行き着く先はどうせお母さんのところだ。
時間的にそろそろお母さんが帰ってくる頃だもの。
そうしたら、僕が妹をからかって本気で怖がらせた、と
お母さんに全部伝わってしまうだろう。
お母さんはすごい勢いで怒るだろうな。
『こんな純粋な子に酷い事を・・・
なんて悪いお兄ちゃんでしょう!』
とか言って、ガミガミ怒るんだ。今晩は夕飯抜きかな。
「あ〜あ、唯をからかおうなんて止めとけばよかったな・・・」
僕はその場にごろんと寝転がりながら呟いた。
そうしたら、入口辺りでカタカタと音がした。
えっ、もうお母さんが来たの?
と思い、慌てて体を起こして身構えた。
すると、そこに居たのは唯だった。