「どうしたんだ、瑠璃?」
「何かよくわかんないけど、その燈とかいう子が怒り出して…」
「一体、何を話したんだ?」
「えっ?だから、一緒にご飯食べたり同じ学園に通ったり、一緒にベッドで寝たり…―」
「誤解を生む源が幾つか含まれてるだろうが〜!!! 」
俺はすぐに、受話器を手に取った。すると、受話器から罵声が聞こえてきた。
〈響史のバカァアアア!!!!〉
キィイイインン…。
あの耳をつんざくような、不快な機械音…。
「いや、さっき瑠璃が言ったことには確かに真実もあるけど、いくつかお前誤解してないか?」
〈ふん!あんたのことなんて、知らないっ!お姉ちゃん達にも、このことはちゃんと話しておくから!!〉
ブツッ!!!
電話を切る音…。
プーッ、プーッ…。……ガチャ…。
俺は受話器を置きながら、ズ〜ンと何か重いものが肩にのしかかる気がした。
「なんか、もうやだ…」
「まぁまぁ、元気出してよ響史…ね?」
「お前のせいだろうがぁあああ!!!!」
「うぅ…そんなに、怒らないでよ?カルシウムが足りない証拠だよ?」
―例え、カルシウムをたくさん取っていたとしても、こんなにも怒ってばかりいたら、
すぐにカルシウムも減るわ!
「ったく…もういい…さっさと朝ごはん食べるか」
俺はリビングに戻り、食べかけのアンパンを食べようと扉を開けた。
すると、霊が俺のさっきまでいた場所に座り、五個のアンパンを口に頬張り、
ホットミルクを猫の様に飲んでいた。
「ぐはぁあああ!!!」
俺は一気に怒りのメーターが頂点に達した。
「タマァ!!!てめぇ、何してんだ!人の朝ごはんを〜!!しかも、一個は食べかけなんだぞ〜?」
「むぐっ!?…」
霊はアンパンが喉につまったのか、慌てて胸の辺りを叩いた。
「…なっ、食べかけ〜!!?そんなの、早く言ってよ〜!てっきり、私のために、
用意してくれてたのかと思ってたのに…」
「ていうか、それ、間接キス…―」
「……いやぁあああ!!!」
俺は霊に、思いっきり顔を猫の爪で引っかかれた。
「うぎゃぁああああ!!!!! 」
朝から騒がしい家だな…と思う人もいるかもしれないが、これは殆ど俺に対する嫌がらせとしか思えない。
すると、今度は霊の叫び声に飛び起きた霰が階段を駆け下りてきた。
「お姉様!今の悲鳴は一体!?」
霰が声を荒げて言った。全く、昨日の自己紹介の時とは大違いだ。
「きょ、響史が…」
「なっ、あなた一体お姉様に何をしたんですの?」
「い、いや…そのか、間接キスを…」
「な、ななな…!?あなたって人はこのケダモノ〜!!!」
「ぶべらっ!!?」
ドシャッ…。
俺は霰に殴られ、思いっきり床に頭を打ち付けた。
「この変態!人間の風上にもおけませんわ!!大丈夫ですか、お姉様?私が来たからもう大丈夫ですわよ?」
―お前が来たほうが、よけいにややこしくなりそうなんだが…。
「全く、しばらくお姉様に近づかないで下さいですわ!お姉様に軽々しくキスするなんて、
考えられませんわよ?」
「おいおいおい…誤解だぞ!それに、キスじゃなくて間接キスだっつうの!!」
「どちらでも構いませんわ!」
「いやいや、同じにすんなよ!」
「まぁ!今のあなたが、この私に口答えすることが出来る立場だと思いまして?」
俺と霰が口論していると、ようやく霄が目を覚まして、リビングにやってきた。
「何だか、随分とおもしろそうな事をやってるじゃないか…」
「これのどこがおもしろそうに見えんだよ!」
「お姉様…お姉様も何とか言ってください!このケダモノ…霊お姉様に気安くキスしたんですのよ?」
「間接キスな!」
「ふ〜ん…別にいいんじゃないか?減るものではないし…」
霄の意外な言葉に、霰だけではなく俺も驚いた。
「で、ですが…お姉様の初めてですのよ?」
「あっ、…まぁそれはよくないかもな…」
「でしょう?ですから、私はここに宣言しますわ!このケダモノに精細な“罰”を与えますわ!」
「ば、罰!?」
俺は少しその言葉に反応してしまった。彼女達は悪魔…一体どんな恐ろしい罰を与えられるのだろうと、
少しビビッてしまったのだ。
「では、この男…いえ、ケダモノには…荷物持ちを強制的にさせますわ!」
「に、荷物持ち?」
―何だ、そんなことか…。悪魔だからもっと強烈な、生爪をはぐなどの、ムゴいことをするのかと思った。
俺は油断して思わず胸を撫で下ろしてしまった。そう、俺はこれだけが罰だと思ってしまったのだ。
「言っておきますが、罰は荷物持ちだけではありませんわよ?聞くところによりますと、
私達は人間界での服を持ってないんだとか、ですから、洋服を買いに今日はこれから、
商店街に向かおうと思いますの!」
「しょ、商店街!?」
「何か問題でもありますの…?」
「い、いや…」
―まずい…!商店街なんて人気の多いところに行ったりして、もしも知り合いなんかにあったりしたら、
俺がいや俺の精神が死ぬ…。何とかしねぇと…。
まぁ、そんなこんなで、俺は罰ゲームという名の買い物につきあわされ、さらに、
荷物持ちをさせられることになってしまった。
―しかも、この時間帯…絶対に知り合いが一人二人ぐらいいるはずだ…。何か作戦を考えないと…。
時刻は…午前十一時…。
―はぁ、本当は今日はゆっくりして、平和な一日を過ごそうと思っていたのに…。
こいつらのせいで、俺は荷物持ちなどという面倒な仕事を引き受けることになってしまった。
「さてと、まずはあの店から行きますわよ!」
「へいへい…」
「響史…、男ならもっとちゃんと背筋を伸ばして立たんか!」
「だって…なんか、ダルくてさ…それにさっきから、四十代のおばちゃん達が、俺の方を見てるんだよ!」
「人気者だな…」
「そういう問題じゃない!」
俺は声を出すのにも、だんだん疲れてきたため、近くにあった、木で出来たベンチに座った。
丁度いい感じの座り心地だったため、瑠璃達が買い物から戻ってくるまで、ここで待つことにした。
上を見上げると、天気がいいせいか、透明のガラスから、明るい日差しが差し込んでくる。
よ〜く、見るとガラス窓越しから真っ青な青空が見て取れる。
「洗濯物でも…干してくればよかったな…」
などという独り言を呟きながら、しばらくその場で日向ぼっこをしながら待っていると、
ようやく瑠璃達が大量の荷物を抱えて戻ってきた。
「なっ!お前等、限度って物を知っとけよな!ていうか、その服どうやって買ったんだよ?」
「無論…お前の金だぞ?」
「ええ〜っ!?」
俺は慌ててポケットに手を突っ込み財布を捜した。
―……見つからない。
「そんなに探しても無駄だぞ?何せ、お前の財布は私が持っているのだからな!」
「なっ!?」
俺は彼女の手の上に置かれている財布に気付いた。俺はさっと彼女の手から財布を取り返すと、
中身を確認した。