「ぐはぁあ!!俺の一ヶ月の金が…」
「…同情するよ」
「お前らのせいだろうが!!」
俺は財布の中に入れいておいたグッチ〜(野口英世…1000円札のこと)他、
諭吉(福沢諭吉…10000円札のこと)がなくなっていることに、深くショックを受けた。
「さっ、てことでこの荷物頼みましたわよ?」
「なっ…俺の金、勝手に使われただけでは飽き足らず、さらに俺に荷物を持たせるっていうのか?」
「当たり前ですわ!元々これは罰ゲームですのよ?あなたが苦労することに意味があるんですの…。
お姉様の苦しみに比べれば安いものですわ!」
俺は霰の言葉を聞きながら霊を横目でみた。すると、霊はぼ〜っと近くにあった、
たい焼き屋の前にたたずんでいた。
「お姉様、何をやってるんですの?」
「いや〜…このたい焼きおいしそうだなって…」
その霊の一言を聞いた霰は、いきなり俺の胸倉を掴むと、言った。
「こら〜!ケダモノ、急いでたい焼きを買うんですの!」
「はあ〜!?」
「お姉様がたい焼きが食べたいと言っているんですのよ?それなのに、あなたは、
たい焼きを買うためのお金も持ってないと言うんですの?」
俺はあまりにもあほらしくて、ついためいきが出てしまった。
「はぁ…あのな、お前等ただでさえ、こんなにもたくさんの服買ったんだぞ?それに、ぐっち〜も、
もう殆ど残ってないし…諭吉に至っては、一人もいないんだぞ?それで、たい焼きを買えなんて、
あまりにも無茶じゃないか?」
「ぐ…う、うるさ〜い!!!」
俺は霰に耳元で叫ばれて、耳が痛くなった。
「私に口答えするんじゃないんですの!!おとなしく、ケダモノは言う事を聞いてればいいんですの!
さっ、さっさとお金を出しなさいですの!」
「…」
俺はこれ以上言う言葉がなくなり、仕方なく小銭入れから五百円を取り出し、霰に手渡した。
すると、彼女は俺の手から受け取った五百円に向かって、洗剤を吹きかけた。
「えっ?何してんの…?」
「何って…ケダモノから受け取った五百円は、まだ汚れていますの!ですからキレイにするんですのよ?」
「うっ…」
―何だろうか、この胸にとげが深く突き刺さる様な感覚は…。
俺は胸を強く押さえながら、霰が霊に五百円玉を渡すのを見ていた。
「おじちゃ〜ん、たい焼き一個頂戴!!」
「はいよ!」
おじちゃんと呼ばれている、その少し肌が黒い男性はサングラスをかけ、屋台の中で、
汗水流しながらたい焼きをせっせと作った。
「お譲ちゃん、お待ちどおさま!ほれ、こいつはおまけだ!」
「えっ、本当?ありがとう!!」
霊は、おじちゃんにおまけと言われてもらったたい焼きと、五百円で買ったたい焼きを袋に入れて、
両手に抱えて戻ってきた。
「はい…これ、あげる!」
そう言って霊がたい焼きを差し出した相手は、こともあろうか俺だった。
「えっ、でも…」
「そうですわ!お姉様、どうしてこんなケダモノに!」
「もう、いいよ…。それに、別に気にしちゃいないし…直接じゃないから大丈夫だよ♪」
その時、俺は霊が悪魔ではなく天使に見えた。
「お姉様がそこまで言うのなら仕方ありませんわ」
霰も俺から半分ほど荷物を受け取り、それを抱えて立ち上がった。
「さぁ、家に帰りますわよ?」
「ああ…」
俺は残りの半分の荷物を抱えて、立ち上がった。そして家に向かって歩き出して数分が経ち、
俺はあることに気づいた。
―ていうか、この洋服の入った袋のせいで、俺前見えないんだけど…。
その時、俺は目の前に電灯の柱があることに気付かず、そのままぶつかってしまい、
その反動で後ろに下がってしまった。しかも、その拍子に後ろにいた通行人を巻き込んでしまった。
「いったたたた…あっ、すいません!ちょっと前が見えなかったもので…」
「いえ…気にしないでちゃんと、周りを見てなかった私もいけないんだから…」
「そう言ってもらえると、こっちも気が楽になります…」
俺がゆっくりと体を起こすと、そのぶつかった相手は女性だった。霊や霰達と見間違うほど、
髪の毛の色が一緒で、一瞬護衛役と思ってしまったが、どうやら彼女は違うようだ。
理由はよく分からないが、とにかくそんな気配がしたのだ。
「立てますか?」
「あぁ…っつ…ごめんなさい、どうやら足をくじいてしまったみたいで…」
「そいつは、大変だ…お〜い、霰!」
俺が大声で霰の名前を呼ぶと、霰が面倒くさいというような表情で俺に話しかけてきた。
「何なんですの?私は、今この紙袋を持つので忙しいんですの!要件なら手短に済ませてくださいですの、
ケダモノ…」
「ぐっ、いちいち、そういう言い方しか出来ないのか、お前は…!」
俺ははがゆい気持ちを抑えながら言った。
「ふんっ!そんなの私の勝手ですの!…所でさっきから誰ですの、その女は?」
「ああ…俺が誤って怪我させちまって…」
「まぁ…なんてことを…か弱き乙女に怪我を負わせるとは、まさしくケダモノ!
全く…あなたって人はとんでもない輩ですわね!」
―言い返せない…何せ、彼女の言っている事は何一つ間違っちゃいないからだ。
「なぁ、頼む…」
「嫌ですわ!元々、これはあなたへの罰ゲームだということをお忘れになりまして?」
「まぁまぁ…二人とも落ち着いて…」
足首をひねった女性が、俺達二人をなだめでいると、その大声に気付いたのか他の皆も戻ってきてくれた。
「ちょっと、何やってるの霰?」
「お、お姉様…私はこの男に罰ゲームをさせるために…」
「霊…頼む罰ゲームは後でやるから、この人を助けたいんだ!俺のせいで、
彼女を怪我させちまったわけだし…」
「はぁ…。響史は、お人よしにもほどがあるわ!」
「サンキュー、霊!」
「お姉様、そんなのダメですわ!第一荷物はどうするんですの?」
「霰が運んで?」
「えっ!?」
「お願〜い♡」
「うっ、…りょ、了解ですの!」
―猫好きにも程があるな…。
俺はそう思いながら、怪我を負った女性をおぶった。
「え、ええ〜、私は別にいいのに…」
「そういうわけにはいかないだろ?これくらい気にすんなって!」
「そう?ありがとう、神童君…」
「えっ?どうして俺の名前を?」
「あっ、それはね…」
「ちょっと!話す暇があるなら手伝って欲しいですわ!」
「いや、俺今手ふさがってるし…」
「ふんっ!調子のいいこと言って、どうせ、ルリ姫様にいい所を見せたいだけに決まってますわ!」
「なっ!んなことねぇよ!」
「ほらほら、焦ってる焦ってる!」
「てめぇ、おちょくんな!」
俺は、つい照れて顔を赤くしてしまった。
―全く、俺の意識とは対照的に、本心は顔にはっきり出てしまう。厄介なものだ…。