「ルールは、神童君の家で話した時と同様、私のつけているこのカチューシャを……あっ、ごめんなさい!
ついうっかりして…」
彼女は慌てて、何処からか取り出したカチューシャを、水色の長い髪の毛が生えた頭にはめた。
水色の髪の毛の所々から黄色のカチューシャが見えている。水滝さんは剣を前に構え、鞘から抜き取った。
―気のせいだろうか…動作が少し霄に似ている…。
「じゃあ、始めようか?」
「あっ、はい…」
俺は少し、相手に気を取られて、タイミングをずらしてしまった。
「じゃあ、私からいくよ?」
水滝さんの合図と同時に、彼女は足を地面に踏み込み、一気に前に進み出ると、
そこから勢いよく俺に向かって剣を振るった。
「おわっ!」俺は間一髪の所で、ギリギリかわし傾く体を受け身でかわし、調整した。
「これは、まだまだ序の口…」
それからも、ず〜っと彼女のターンで、俺は相手に攻撃されてばかりで、全く反撃出来ていなかった。
「どうしたの?どうして、反撃してこないの?まさか、私を傷つけるのが怖い?
でも、そんな甘いこと言ってたら…」
「ぐっ!?」
痛みを感じ、俺はふっと腰の辺りを見ると、黄色の服から真っ赤な血が滲み出ていた。
「なっ!…いつの間に?」
「ふふふ…これが、私の一の型『水刃』…」
俺は声のする方にさっと体ごと顔を向けると、そこには血が滴り落ちる剣を握った、水滝さんがいた。
しかも、その時の彼女の表情は、暗闇の中で電灯に色白の肌が照らされ、不気味さを引き立たせていた。
―嘘だろ?今の攻撃全然見えなかった。そんなのってアリかよ?
俺は焦りを隠せなかった。どうすればいいのか分からなかった。
だが、護衛役の零と戦った時よりかは、まだマシだと思った。
しかし、その考えは甘いんだということに後で気付いた。その後もどんどん攻撃を与えられ続けた。
何とか相手の攻撃にもパターン性がみられ、それらの攻撃はかわせるようになったが、
どうしても、あの水刃という型がかわせない。
―せめて、相手に近づくことが出来れば…。
そう思う俺だったが、そんなにも上手く行く方法など見つかるわけもなく、俺は途方に暮れていた。
時間だけが、刻々と過ぎていき、俺は必死に相手の技を懸命にかわしていた。
その時、彼女のある異変に気付いた。何と、水滝さんが疲れてきていたのだ。
どうやら、あの水刃という型は相当な体力を要するらしく、敵に持久戦に持ち込まれてしまったら、
おしまいのようだ。そう考えた俺は相手の体力を削ることに専念する事にした。
まず、簡単な攻撃は完全に防ぎ、水刃はギリギリの所でかわすようにした。
すると、最初は曲がって攻撃できていた彼女が、まるで猪が真っ直ぐにしか進めないように、
曲がれなくなっていた。そして、俺は確信した。
―間違いない、彼女は疲れてきている。そうと分かれば、水刃攻略まで後もう一歩だ。
俺はそう自分に言い聞かせ、相手の攻撃をひたすら、さっきと同じパターンで繰り返していった。
それから約十分後…。彼女はついに、動きを止めた。
「はぁはぁ…どうして攻撃が当たらないの?」
「もう、あなたの水刃は攻略しましたよ…」
「へぇ〜、どうやらこの技の弱点を見破ったみたいね…まずは、一つといったところかしら?
でも、まだ型は後三つあるし…」
そう言って、彼女はまたしても姿を消した。
すると、彼女は放物線を描くように剣を振るった。すると、剣から水が吹き出し、
俺の立っている場所から約十メートル程が水浸しになった。それと同時に、
彼女はさっと後ろにジャンプして俺との距離を保った。そして地面に剣を突き刺し言葉を放った。
「二の型『水固』!!三の型『水影』!!」
「何!?」
グサッ!
一瞬のことだった。俺は、背後に殺気を感じ、攻撃を防ごうと体を動かそうとしたが、動かなかった。
「ボフッ…」
ビチャビチャ!
口から血が滴り落ちる。しかも、下を見れば、腹から真っ赤な血をつけた剣が突き出ていた。
「ごめんね、神童君…でも、これは勝負だから、手加減するわけにはいかなないの…許してね?」
その悲しそうな顔…相変わらず俺の脳裏に焼きついたままでいる。
「ぐっ…言っておきますが、俺はこんなもんじゃ死にませんよ?」
「えぇ…!?ど、どうしてまだ喋れるの?普通の人なら…もう喋るどころか、
立ってることもままならないはずなのに…。神童君…あなた一体何者なの?」
「へへ…ただの、悪魔に囲まれた人間ですよ…。でも、さすがにこの状態のままだったら、
大量出血で死ぬかもしれないですね…」
俺は腹から突き出た剣をガッシリ掴んだ。
「や、やめて!そんなことやったら、手が…!」
彼女が止める頃には、もう遅かった。俺の手の平からは、ボタボタと赤い血が滴り落ち、
地面を赤く染めていた。その光景に、さすがの彼女も耐えられなくなったのか、急に技を止めた。
俺の腹から剣が消え、体の自由も戻った。しかし、俺の腹にあいた穴からは、
未だに血がたくさん出てきている。
「うっ!」
俺は片方の手で傷口を押さえた。しかし、隙間からどうしても血が滲み出て完全に塞ぐことが出来ない。
俺は携帯で霊を呼んだ。
「もしもし…霊か?」
〈霊なら今、お風呂だよ?〉
「その声は、瑠璃か?」
〈響史?どうしたの、その声…凄く苦しそうだけど…〉
「霊にすぐ中央公園に来るように伝えてくれ!」
「戦いの最中に電話は禁止だよ!」
「うわっ!」
いきなり、水滝さんに攻撃され、俺は携帯を落としてしまった。
バキッ!
「ああ!!!俺の携帯が〜!」
彼女は、俺の携帯に天誅を下した。俺の携帯は壊れ、使い物にならない状態になった。
そればかりか、データも全て破損…原型も留めていなかった。
「そ、そんな…これ高かったんですよ?」
「そんなの関係ないもん!戦いの最中に、電話なんかする方が悪いんだもんね!」
俺は、悲しみと怒りを抑えながら立ち上がった。まだ、傷口がズキズキ痛む。
「いい加減に、本気を出してくれない?」
―もう十分に本気を出しているつもりなんだが…。にしても、あの二と三の型のあわせ技は、
少しばかり厄介だな…。このままだと確実に俺が死んじまう。どうすれば…何とかあの技を防ぐ方法は?
俺が相手の攻撃していない今の間を有効に使い、考えていると水滝さんが口を開いた。