第二十話「ウンタカの鼻水」
家に帰ると、俺が瑠璃に伝えたことが皆に伝わっていたらしく、全員が心配そうな眼差しで、
俺のことを見つめていた。
「大丈夫、大丈夫なの響史?」
「あ、ああ…何とか…うぐっ!」
「ああ、もうやっぱダメじゃない!」
瑠璃は慌てて、救急箱を取りに行った。何度か怪我をしたさいに、
救急箱を取りに行ってもらったことがあるため、場所は覚えていたようだ。
「え〜っと、その怪我には何がいいの?」
―どうやら、中身についてはまだ全て理解してはいなかったようだ。
「え〜っと、そうだな…。やべぇな、肝心な塗り薬とかが切れてる…。どうしよう」
「ええ〜?どうすればいいの?」
瑠璃に言われ、俺は考え込んでしまった。
―どうする?今の時間帯だと、恐らく薬局はしまっているだろうし…。運よく開いていたとしても、
今日は特売とかいってたから、もう売り切れだろうしな。
俺は途方に暮れながら、懸命に考えていた。
と、その時、霄が話し始めた。
「それなら、魔界に生えている薬草を使えばいい」
「魔界の薬草!?」
俺は何だかよく分からないが、名前を聞いただけで身の毛がよだった。
「本当にそれ、大丈夫なのか?」
「さあな…」
「さあなって…あのな〜」
「人間に使った事は今まで一度もないが、魔界の住人にとっては、凄く効き目が良いとされて、
凄く人気なんだぞ?」
「へぇ…」
俺は魔界にも、人間界と似たようなものがあるということを知った。
「とりあえず、今私が持っているのは、この薬草だけだが…」
「何ていう薬草なんだ?」
「ミント草だ!」
「ミント草?」
俺は名前を聞いただけで、ス〜ッとする気分になった。
「その名の通り、ミントの様な香りがする薬草でな。この薬草をすり潰して粉にしてそれを、
ある液体と混ぜ合わせて、作った薬が凄く効果覿面なんだ…」
「どういう効果があるんだ?」
俺は少し興味がわき、彼女に聞いた。
「う〜んと、確か…―」
「傷口を塞ぐ効果があります…」
霄の変わりに零が言った。
「そう、それだ…とにかく、人気でなかなか手に入らないといわれている薬草の一つだからな…」
「そんなに、大事な薬草。俺に渡して良いのか?」
「あ、ああ…別に構わん!困った時はお互い様だしな…」
―霄〜…。
俺は少し感激し、思わず目が潤んだ。その時俺はあることを思い出した。
「所で、そのもう一つの液体って何なんだ?」
「ん?ああ……確か『ウンタカ』という怪鳥の鼻水だったかな…」
「ウ…何だって!?」
俺がよく分からず聞いてみると、霊が答えた。
「え〜っと、ウンタカっていうのはね?凄く獰猛で大きな怪鳥なんだ〜。
鋭い爪と鋭いくちばしが特徴で、シッポは一年ごとに長くなるんだって。で、その怪鳥は十年に一度、
魔界で有名な、北と南の領地を隔てる、七つの深紅の湖を通っていくんだけど、その時に、
激しい気温の変化に体が耐えられず、一度だけ風邪を引くの…」
「鳥が、風邪!?」
俺は少し意表をつかれ、驚いた。
「まぁ、私も最初は不思議に思っていたけど、今となってはどうでもよくなってきて…あっ、
続き忘れてた…。それで、その時出てくる鼻水が凄く粘膜があって、その中に含まれる成分に、
よく分かんないんだけど、傷口をふせぐ効果があるみたいなんだよね…」
「それって、要するにその鼻水の異臭を消すために、ミントが使われてるだけじゃね!?」
「よく、分かったね!…使われている本当の目的はそれなんだよ?」
―えっ、当たった!?
俺は自分の言葉が当たっていたことが、少し信じられなかった。
「まぁ、いいや。それで、そのウンタカ?とかいう怪鳥の鼻水は今あるのか?」
「え〜っと、確か…この間、店で買ったような…」
以前の記憶を手がかりに、僅かな希望をのせて、霊が自分の荷物の中を探り始めた。
「あった、これだよ!これこれ…」
そう言って、霊が俺に手渡したのは、一本のボトルだった。
そこには注意書きの様なものが書かれていた。
「え〜っと、なになに?〔使用上の注意…一つ…。この液体は凄まじい異臭を放つため、
換気は十分に行ってから使用してください…。二つ…この異臭を消す際には、ミント草を使うか、
もしくはペパー草と、ミント草をすり潰して作ったペパーミント草を、使うようにしてください…〕」
―ペパーミント草って何!?
「〔三つ…使用中には、いらない手袋か何かを使用してください…手に悪臭が残ります。
また、この液体は強力な粘着力も持ち合わせているため、非常に危険です。
もしも、大切なものがこの液体に触れてしまった場合は、すぐに係員の人に頼み、
引き剥がしてもらってください…。専用の薬を使わなければ決して取れないので、
無闇に取ろうとはしないでください…。
四つ…前略…危険です!〕」
―何が!?そこ、ちゃんと記載しておけよ!!(怒)
「〔五つ…誰もいない場所には、放置しないでください…寂しくて爆発します!〕」
―えっ!?生き物なの?
俺は、だんだんこの注意書きに、不審さを感じ始めた。
「〔六つ…暗がりに放置しないでください…怖くて固まります!〕」
―どういうこと!?状態変化!!?
「〔最後に…あくまで注意ですので、必ず守る必要はありません…〕
だったら、最初から書くな〜!!!」
俺は、凄く大声で叫んでしまった。