小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第二十一話「見舞い客」

次の日の朝…。時刻は午前七時…。一番最初にリビングに入ってきたのは、

いつもマジメで普段は口数の少ない零だった。彼女は、パジャマ姿のままリビングに入って来ると、

閉まっているカーテンを全て開けて、台所に向かい、冷蔵庫の扉を開けて、

中から紙パックの牛乳を取り出した。そして、それを片手にテーブルに向かうと、机の真ん中に置き、

コップを何故か一つではなく、五つ持ってきた。恐らく瑠璃達の分だろう…。

相変わらずのことながら、零は偉い…。さらに、今度は白いビニール袋の中から、

以前買っておいた様々な種類のパンが入った袋を取り出し、それをビリッと破いてあけると、

それも机の上に置いて、またしても台所に向かった。

「え〜っと、丸いお皿は…確かこの辺に…あっ、あった…」

いつもは丁寧な口調の零もどうやら、一人の時には普通の言葉で喋るようだ。

しかし、彼女の手に入れようとしている丸い皿は、思ったよりも少し高めの棚に収納されており、

彼女の背の高さでは取るのは少し難しかった。だが、彼女はすぐに頭脳をフル回転させ、

近くにおいてあった小さな台を持ってくると、それを足場にして見事丸い皿を手に入れた。

「後は…皆を起こさないと…」

零は台から降りて、一旦腰に手を当て

「ふぅ〜…」

と小さな溜息をもらすと、台を元の場所に戻して、二階に上がっていった。



ここは、神童 響史の部屋…。本当ならば、ここには響史がいなければならないのだが、

生憎、彼は昨日の一件があり、一階のリビングで寝ている。ちなみに、そこまで重傷ではないとのこと…。

零は一段一段、階段を上がりながら、響史の部屋に向かった。

扉の目の前に立ち、ドアノブをひねる…。

「皆さん…起きてくださ〜い!朝ですよ?」

「う、う〜ん…後一時間…」

魔界の姫君である瑠璃が、寝ぼけながらとんでもないことを言った。

「何を言ってるんですか…姫様。起きてください!姉上達も護衛役なんですから…早く!」

「いいじゃないか…寝不足なんだよ…」

護衛役の一人である霄が、文句を言いながら言う。

「それは、皆一緒です…姉上。…はぁ仕方ありませんね、あの手を使いましょう…」

そう言って、零は部屋を出て行き、何かを持ってくると、もう一度響史の部屋に入ってきた。

「霄姉様…“おにぎり”ですよ?」

「何!?」

零のおにぎりという言葉に反応して、霄は飛び起きた。

「私のものだ〜!!!」

「ダメです!」

「な、何故だ…もう既に、私は腹ペコなのだ…早く、早くそのおにぎりを!

おにぎりを食べなければ、私は死んでしまう…」

「それぐらいでは死にません…。全く、少しは自分で起きようという努力はしないんですか?」

「う、うむ…確かに、最近私もこっちに来てから、寝坊気味ではあるのだが…、

なかなかこの布団が気持ちよくて、出たくなくなるのだ!お前も分かるだろう?」

霄は腕組をしながら零に同意を求めた。

「うっ、確かに…人間界の布団は、魔界と比べて随分と肌触りもいいですし…って、

話をそらさないでください!そんなことよりも、姉上も姫様達を起こすの手伝ってください!」

「…だるい…」

霄はきっぱり言った。すると、零はためいきをついて言った。

「はぁ…もしも手伝ってくれたら、このおにぎりあげますよ?」

「何!?本当か?」

「はい…」

「分かった…私に任せておけ!」

そう言って霄はさっそく皆を起こし始めた。

「ほら、霰…霊…姫様!もう朝だぞ?早く起きなければ、朝ごはんがなくなってしまうぞ?」

すると、瑠璃がうなりながら、さらに寝ぼけたことを言った。

「う〜ん…後二時間…」

―増えてる!?


零は突っ込んだ。普段ツッコミは、大抵響史の担当なのだが、肝心な彼が今瀕死状態なので、

変わりに彼女がやっているのだ。

「何を言っている姫様…響史を看病しなくていいのか?早く起きぬか!」

「ううぅああ、もう分かった、分かったよ…。今起きるって…せめて後十分…」

「今起きろ!」

「うぅ…鬼」

瑠璃はボソッと愚痴をこぼした。

「さてと、後はこの二人だな…」

そう言って、霄は霊と霰の二人を見た。二人ともぐっすり寝ていて、実に気持ち良さそうだ。

青い髪の毛に猫耳をつけているのが、霊…。そして、その彼女に抱きついているのが、霰である。

何でも、霊のことが大好きなんだとか…。猫などの動物が好きな彼女にとって、霊は一番のお気に入りで、

彼女の言う事であれば何でも聞く。

「おい、起きろ…朝っぱらから霊に抱きついて…。ほら、霰離れろ!」

「うっ、いやですわ!私は霊お姉様から離れたくありませんわ!!」

霰は必死に霊の体にしがみつき、離れたがらない。さすがの、霄も我慢の限界に達したのか、

無理やり2人をひきはがした。

「あ〜!お姉さま〜!!」

「ん〜…何?朝っぱらから騒がしいな〜。人がせっかく気持ちよく寝てたのに……って、お姉ちゃん?

どうして、私つままれてるの?」

「まったく…、少しは早起きというものを心がけたりしないのか?」

―姉上もですけどね…。


零が心の中で言った。



時刻は午前八時…。周りもすっかり明るくなり、外の人気も多くなってきた。響史の家は、

住宅地に囲まれているため、車通りはそこまで多くはないのだが、自転車やバイクがよく通っている。

おそらく、大通りの方が、渋滞などで行き詰ったりするからなのだろう。

一階に降りた瑠璃達は、大きくのびをしながら、朝食の準備が既にされているテーブルの椅子に各自座った。

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