「うわ〜!すごくおいしそう♪これ、全部零が用意したの?」
「は、はい…。と言っても、ほとんどスーパーで売られていたパンなどを、
皿の上にのっけただけなんですが…」
「それでも、見栄えがよくて、私はいいと思うよ?皆もそう思うよね?」
「確かに…。偉いぞ、零」
尊敬する姉の霄に褒められ、うれしくなった零は少しうつむきながら照れ隠しをした。頬が少し赤くなる…。
「うっ…!ここは?」
「あっ、響史!ようやく、目が覚めたのね?」
瑠璃が歓喜の声を上げて、俺に飛びついてきた。
「うわっ…おいおい、どうしたんだ?俺、何がどうなって…っつ!」
俺は一瞬激痛が走ったのを感じ、ふと下に視線を移した。すると、脇腹辺りを、
白い包帯でぐるぐる巻きにされていた。俺が不振に思っているのを、感じとったのか零が説明した。
「響史さんは…昨日、太陽系の水星の守護者マーキュリーの『水滝 麗』さんと戦ったんです。
でも、怪我は負ったけど勝ててよかったですね!」
零が俺を励まそうと一生懸命なのが、すごく俺の心に伝わってきた。だが、はっきり言って、
俺は昨日のあの戦いの結果がついていないと思っている。しかし、まだ少し曖昧な感じだったため、
本当のことを言うべきか言わないべきか、少しばかり迷っていた。その時、
昨日出逢った謎の少女のことが気になり、彼女達なら何か知っているかもと思い、尋ねることにした。
「なぁ。俺、昨日…水滝さんと戦ったんだけどさ、その時に何か変な少女を見たんだよ!」
「ッ変な少女?」
「ああ…。なんていうか、その…白衣っぽいのを身にまとってて、ツインテールで髪の毛の色は、
少しばかり青に近い感じの緑色だったかな?」
「ま、まさか…!?」
瑠璃が何かに気付いたのか、少し反応していた。
「知ってるのか?」
「ねぇ、他に特徴は?」
「ん〜…あっ、む…胸が大きかった!」
「えっ!?」
一瞬周りの空気が凍りついたのを身に感じた。
「響史…。お前いつも、そんなことを考えながら、私たちを見ていたのか?」
「えっ、なっ…い、いやちが…―」
「スケベですね…」
「ち、違うって!たまたま、思い出しただけで…」
俺は耳まで真っ赤にして、必死に言い訳をした。
「でも、そのおかげで、可能性が間違いないものになった!」
「どういうことだ?」
「響史があったのは、この間も話したと思うけど、私のおばさんだよ!」
「お、おば…さん?…ちょ、ちょっと待ってくれ!俺が見たのは、若い少女なんだぜ?
それが、おばさんだなんて…」
「でも、本当のことだよ?だって、私のお母さんの妹だから…確か、相当年離れてるはずだけど…」
「へ、へぇ…そういうこともあるんだな〜」
俺はうんうんうなずきながら納得していた。
その時、ぐぅ〜と腹の音が鳴った。
「あ〜っ、響史…おなかぐぅ〜って言ってるよ?おなかすいたんでしょ?
ほら、零がちゃんと準備してくれてるから、こっちに来て…一緒に食べよ?」
「あ、ああ…」
俺はゆっくり立ち上がり、傷口が開かないように安静にしたまま、椅子に座った。目の前には、
コップに注がれた牛乳と、真っ白な丸い皿の上に置かれた二個のパン…。
そして、バランスよくという意味で、サラダが置かれていた。
どうやら、栄養バランスはちゃんと考えてあるようだ。前までは俺以外、
誰も料理を作ることが出来なかったが、今では零が料理を作れるようになってきたため、
俺が忙しい時とかには、彼女が作るようになっている。
―あれだけ、料理のコツなんかを叩き込んだんだ。上手くなってないと、おかしいからな…。
俺はそんなことを思いながら、一番手前に置いてあったパンを一個手につかむと、それを口元に運んだ。
やわらかい生地がすごくいい。だが、やはり俺的には、食パンのあのサクサクという音が、
なんとも言えないと思う。パンでも食パンの方が好みだ。でも、最近はやたらと固いものを食べず、
やわらかいものを食べたりする人が多くなってきたため、歯並びの悪い奴が、学校にたくさんいる。
その点では、俺は小さい頃から姉ちゃんやお母さんに言われてきたからな…。
「どう…ですか、おいしいですか?」
「ん?ああ…、ちゃんと中にも火が通ってるし、大丈夫だ!」
「はぁ…よかったです!」
彼女は少し安心したのか、すごく気が楽になったという顔をした。
「そういえば、この包帯誰が巻いてくれたんだ?」
俺が質問すると、瑠璃が手を挙げていった。
「私と、霊でやったんだよ?最初は、うまくいかなかったけど、何とか巻けたみたいでよかった!」
瑠璃がうれしそうに言う。俺達は昨日のことを振り返りながら話をし、朝食を済ませた。
時刻は午前九時…。俺は洗濯物を干し、瑠璃はその手伝い。霄と零は腕がなまるとかで、剣の練習…。
霊は相変わらず霰と戯れている。その時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。
「誰だろう?は〜い!」
俺は庭から一旦家の中に入り、そこから玄関に向かって靴に履き替え、再び外に出た。玄関ドアを開けると、
そこには昨日の少女がいた。
「よっ!また、会ったね!ていうか、私があなたに会いに来たんだけどね…」
「え〜と…誰だったっけ?」
「はぁ〜!?あんた、私の名前忘れたの?ルナーよルナー!!いい加減覚えてよね!」
「あ〜、そうだった、そうだっだ!!」
俺はぽんと手を叩いた。
「それより、瑠璃はいる?」
「えっ、瑠璃?」
俺が相手に問い返していると、瑠璃がやってきた。
「どうしたの、響史?…あっ、おばさん!」
「お、おばさん言うな!!こう、見えても私はまだ十七よ!!」
「えっ、その身長で十七!?」
「あんた、いちいち癇に障る言い方しかできないわけ?」
ルナーはぷいとそっぽを向いた。
「どうして、おばさんがここに?」
「だから、おば……あぁ、もういいや。メンドクサイ…。あのね、今日はあなたに、
渡したいものがあってきたの…」
「渡したいもの?」
瑠璃は首をかしげた。