第二十二話「第二の姫君」
時刻は既に午前十一時…。後一時間後には昼ごはん…。まったく時間が過ぎるのは早いものだ。
あっという間に一日が過ぎ、気づけば一年が経っている。一年は長いと感じるが、
いざその一年を振り返ってみると、すごく短く感じる。俺はテレビを見ながら、丸テーブルに寝そべり、
ぼ〜っとしていた。
「そうだ、昼ごはん…なんにしようかな…。そうだ!…零〜」
「何ですか?」
「ちょっと、すまねぇがイノシシを手に入れてきてくれないか?」
「猪ですか?」
「ああ…。学園の北東と南西に山があるんだ。そのどっちかの山に行って、
イノシシを調達してきてほしいんだ!
ムリって言うならいいんだが…」
「いいですよ?どうせ、暇でしたし…剣を震えるのなら構いません…」
「絶対に人は殺すなよ?」
「も、もちろん分かってますよ…」
―今、一瞬考えてたな…。
俺は彼女の言葉を聞きながら思った。
「では、行ってきます…。昼前には戻ってきますので!」
「おう!」
俺はポケットに手をつっこんで、言った。
俺は零を見送り終え、リビングに戻ると、そこから庭に出て、洗濯物を干した。
ここは、瑠璃達悪魔の住処…魔界。
空はすごく、どす黒い色をしていて、太陽の様な明るい光は全くない。周りは不気味な山がそびえたち、
おどろおどろしい雰囲気をかもしだしている。しかも、その所々には真っ赤な血のような池が、
たくさんあった。さらに、その奥を行くと、見たこともない巨大な建物があった。
間違いない……これが、瑠璃達の住んでいる魔城だ!見た目はすごくボロボロに見えるが、
中身はすごく違っていた。不思議な装飾を施した内装はすごく綺麗で、青白いタイルが、
交互に床に張り巡らされていた。その、床の上を1人のストレートヘアの少女が歩いていた。
みかん色の髪の毛をなびかせながら、優しいにおいを漂わせる。その少女はそのまま、
大きな扉のある前までやってきた。
コンコン!
「入れ…!」
少し太い声の持ち主が、少女に入室の許可を出す。少女は小柄なみかけによらず、
その巨大な扉をゆっくり開けた。
「失礼します…。お父様、レイカ…。修業からただいま戻りました!」
「うむ、ご苦労だった…。だが、さっそくで悪いが、修行の成果を見せてもらおうか?」
レイカの父親は片方の眉毛を釣り上げ、偉そうにレイカを見下して言った。どうやら、
彼がこの魔界を収めている人物のようだ。見た目は人間とほとんど変わらないような姿をしているが、
彼の赤い瞳…。そして、真っ黒な黒髪と先のとがった耳…。さらに、彼の口から飛び出した二本の鋭い歯が、
まさしく、悪魔であることを示していた。
「と、いいますと?」
「う〜ん…そうだな。実は、お前の双子の姉であるメリアが、人間界に家出している」
「お、お姉様が!?…ですか?」
「そうだ…。そこで、お前に頼みたいのだ…。メリアを魔界に連れて帰って来い!それが、
私がお前に与える仕事だ!いいな?必ず、こなしてくるのだ…。さもなくば、
貴様にはきつ〜〜〜〜いお仕置きが待っているからな…?」
「うっ、分かりました…」
レイカはそのお仕置きという言葉に酷く反応してしまった。魔界のお仕置きとは、
一体どのようなものなのか…。実際には見たことがないが、背中の皮をそがれるのだろうか?
それとも、右手か左手の小指を切るのだろうか?それとも、生爪のように、爪をペンチか何かで剥ぐのか?
うううぅ…。どちらにせよ、気味が悪い…。
「そうだ、お前だけではあまりにもリスクが大きすぎるな…。それに、人間界の人間に、
お前を奪われてもいかんからな…。澪!ここへこい!!」
「…お呼びでしょうか大魔王様…」
そう言って、現れたのは丸いメガネをかけた青いストレートヘアの女性だった。制服の様なカッターシャツを着ていて、
ちゃんと綺麗にネクタイも締めていた。そう、
彼女こそ十二人の護衛役の一番年上である水連寺一族の長女『水連寺 澪』だ。
「お前を呼んだのは他でもない。お前には、レイカを守る役目とこいつが、
人間界でふざけたことをしたりしないようにという、お目付け役も兼ねてついて行ってもらう…」
「つまり、私も人間界に行くということですか?」
「その通りだ…」
「……」
澪は少し驚いていた。何せ、今までこんな命令を受けたことは一度もなかったため、
どんな言葉を返せばいいのか、よくわからなかったからだ。
「何せ、人間界にはお前の妹や弟たちがいるからな…。ついでに、連れて帰って来い!いいか、
しくじるなよ2人とも?」
「りょ、了解しました…」
2人は少し、間を開けて返事をした。