一方、ここは光影都市の双子山の片方の山のふもと…。
そこに、1人の二本の剣を手に持った少女が歩いていた。零だ…。
「イノシシ…イノシシ。そんなもの、一体どこにいるんだろう…。響史さんには、
任せてくださいなんて言ったけど、はっきり言って見つからないよ…」
零は少し悲しげに言った。すると、彼女の気持ちが届いたのか、ガサガサと草むらから音がした。
「だ、誰ですか!?」
彼女がサッと音のする方に体を向けると、それと同時にその場に姿を現したのは、イノシシというよりも、
ものすごく大きな巨大猪だった。
「で、でかい!!?」
「ブヒィイイイイ!!!」
猪は口を大きく開かせ、すさまじいおたけびをあげた。その猪の歯は鋭くとがり、
クルッとウェーブを描いた牙が、木々の芽の間から差し込む日差しを浴びて白くキラキラ光っていた。
巨大猪はおたけびの後、後ろ脚をズッズッと足を踏み込み、走る準備を整えると、
そのまま前かがみになるようになって、猪突猛進をしてきた。
「くっ!」
ズド〜ン!!
巨大猪はその巨体を動かし、目の前の木にお構いなしに突っ込んだ。その、
あまりにもの強い衝撃に耐えきれなかった木は、そのまま跳ね飛ばされるというよりも、
後ろから誰かに押された人間のように、ドミノ倒しのような状態で、倒れていった。
バキバキッ!
という木の折れていく音…。その音はまるで、木々の叫び声のように聞こえた。
「なんて力…。こんなのに、巻き込まれたら、さすがの私でも重傷を負うことは間違いありませんね……」
零は表情を少しも変化させることなく、喋る言葉だけが恐ろし気だった。
その頃、同時刻…俺の家。
俺は洗濯物を干し終え、木で出来たテラスのような場所に座って、「ふぅ〜」とため息をつきながら、
庭で休憩していた。すると、急に霄が慌ただしい様子で現れた。
「響史!!」
「な、何だよ…そんなに、焦った顔して…何かあったのか?」
「零…はぁはぁ…、れ…零はどうした!?」
霄は、急いで走って帰ってきたのか知らないが、すごく呼吸を乱していた。
「ここには、いないぞ?俺が山にイノシシを調達するように言ったから…」
「くっ!…零が危ない!!」
「何!?」
その彼女の一言に、俺は一瞬にして背中に悪寒が走るのを感じた。
「どうかしたの、響史?」
瑠璃が突然、俺に聞いてきた。
「いや、その…零に危機が訪れようとしているみたいでな…」
「それって、大丈夫なの?」
「大丈夫だろ…あの、零だぜ?イノシシごときにやられはしないだろう…」
俺が瑠璃に軽い気持ちで言っていると、その話をリビング内で聞いていた霰がう〜んと腕組みをして言った。
「分からないですわよ?もしかしたら、敵はイノシシじゃないかもしれませんからね…」
その霰の意味不明な言葉に、俺は彼女に聞いた。
「それって、どういう意味だ?」
「さっきから、変な魔力を感じるんですの…。おそらくは…―」
ピンポ〜ン♪
インターホンの音量部分を誰かがいじっていたのか、すごく大きな音量のインターホン音が鳴り響き、
そのせいで、霰の言葉の最後の部分がかき消されてしまった。
「こんな時間に誰だろう…?」
俺が玄関ドアに向かい、扉を開けようとドアに手をかけた瞬間、霊にその手をつかまれた。
「響史、そのドアは開けちゃダメ!!」
俺はいきなり、言われて何が何だかわからなかった…
「な、何だよ急に…」
俺はその時、まだ気づいていなかった。その扉の先にいる人物が一体誰なのかを…。
ガチャ!
霊の言葉とは裏腹に俺は無意識の内にドアノブを回していた。扉を開けたその先にいたのは、
瑠璃と同じく、みかん色の髪の毛を持つ瑠璃と全く同じ顔だちをした少女と、
水色の髪の毛を持ち、蒼く光る瞳…。そして、特徴的な丸いメガネをかけた、見た目的に、
俺よりも年上っぽい感じの女性だった。その少女たちは変わった服を着ていて、
俺のことをじ〜っと睨んでいた。
「この男が、お姉様をたぶらかした変態…?」
「はい、情報の通りですと、そういうことになりますね……」
俺はその変態という人物が俺だとすぐにわかり、指摘した。
「ちょっと待て!誰が変態……―」
バシッ!!
俺は急に足元が火花を散らせたので、その拍子に後ずさりしてしまった。
また、そのせいで俺は言いたいことが最後まで言えなかった。
「いきなり、何しやがる…―」
「黙れ変態!!貴様のような人間の言い分をきくつもりはない!!おとなしく、お姉様を返してもらおうか…」
「る、瑠璃を?」
「なっ、き…き、貴様お姉様を呼び捨てにするなんて…くっ!許さない!!」
俺は隣に並んだら、決して分からないぐらい似ている容姿をした彼女に言われ、突然攻撃された。
俺はあまりにも突然のことで、うまく状況が把握できず、そのまま攻撃をまともに受けてしまった。
「くっ!いってって…」
俺は彼女に攻撃された部分を優しくさすりながら、彼女の手を見た。すると、彼女の手に、
何かしらの邪悪な魔力が灯っていた。俺はそれを見た瞬間、言葉を失った。あまりにもの恐怖に、
体が震えあがり、足がガクガクいっていた。
「足が震えてるわよ?口ではあんなこと言ってたけど、実際には私の力に恐れをなしたんでしょ?」
「そ、そんなわけ…あ、あ…あるか!!」
「声まで震えてるし……。いい加減認めちゃいなさいよ…。その方が後々、楽になるわよ?」
「ふん、よけいなお世話だ!」
「あ〜っ、そう!だったらいいわよ…。
どうしてもっていうなら、少々あなたには痛い目にあってもらうわ…」
「響史に手を出さないで!!」
俺が危機を感じ、その場にしゃがみこんだと同時に、瑠璃が前に飛び出し、少女に飛びついた。
「きゃっ!ちょっ、お姉様…。そこをどいて!お願いだから……。もしも、しくじったら、
私たちが痛い目に合うのよ!」
「どういう意味だ!?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、その場に立ちあがった。
「あ、あんたには関係ないでしょ?これはこっちの問題なんだから…」
「くっ……とにかく、瑠璃達は渡さないぞ?」
「私はあんたみたいなクズには聞いてないのよ!私はお姉様に聞いてるの…。さぁ、答えてお姉さま…。
もちろん、私たちと一緒に魔界へ帰るわよね?」
「…や」
「えっ?」
「いや!!」
「なっ!?ど、どうして……お姉様。魔界へ帰らないと、私たちが痛い目にあうのよ?」
「そんなの、私には関係ないわ!それに、私は二度と魔界へ帰らないって心に誓ったの…。
一度決めたことはやり通す!それが私の性格だって、麗魅は知ってるでしょ?」
「うっ……」
さっきの瑠璃の言った麗魅という言葉で、ストレートヘアで髪の毛を、
何も結ばずにいる彼女の名前が分かった。だが、いまだにその隣にいる少女の正体がわからない。
おそらく髪の毛の色と、瞳の色から察するに護衛役だとは思うのだが…。俺はゆっくりと立ち上がると、
偶然にも麗魅と目があった。すると、彼女からとんでもない言葉を浴びせられた。
「何よ…こっち見ないでくれる?クズ…」
「ぐっ…」
俺はさっきからこいつに、クズ呼ばわりされてばかりいる…。こいつは人間を、
全員クズとしか見ていないようだ。だが、ムリもないかもしれない。その時、俺はなぜかそう思った。
「…響史。ここは、私に任せてくれない?」
「瑠璃?お前できるのか?」
「多分…」
「まさか、お姉さま自身が私と戦うの?…そんなの、ムリに決まってるわよ!」
「なっ!?どういう意味よ!」
「そういう意味よ…」
何故だろうか…すごくそれには同意できる気がする。だが、今想えば瑠璃ってどうやって戦うんだろう…。
俺はすごく気になった。その時ヒヤッと冷たい殺気を感じ、瞬時にジャンプしてその攻撃を防いだ。
どうやら、その攻撃はメガネをかけた少女からのもののようだ。
「あっぶねぇ…。いきなり、何すんだ!?」
「チッ、惜しい…。後もう少しで黙らせられたのに…」
ごくっ…。
俺はのどを鳴らしたのどの奥につっかえた唾を呑むような感じだった。
俺の右頬を流れる汗がつつーっとあごの先まで流れ、そして重力に耐えられなくなった汗の雫が、
床に落ちる。
「あなたの相手はこの私がしてあげるわ…。
レイカ姫と、メリア姫…二人の姉妹の戦いを邪魔するわけにはいかないからね…」
「本来ならその二人の戦いを止める立場にいなきゃいけないんじゃないのか?」
俺はにらみ合う瑠璃と麗魅を横から見ながら強気で彼女に言った。