小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「そ、そんなことくらい私にだってわかるわよ!でも、これは2人だけの問題…。

私にはどうすることも出来やしないわ!それよりも、今はあなたがあの二人の戦いの邪魔をしないように、

防ぐことが先決だわ!!」

「ということは、俺はあんたを負かして、2人を止めればいいってことか!!」

「随分言ってくれるわね?まだ、私の実力も知らないクセに……。それに、あなたのような人間が、

私に勝てると本気で思ってるの?本当にそう思ってるのなら今すぐに考え直しなさい…。

それは、単なる無駄なあがきよ!それと、言っておくけど私はあんたじゃなくて澪…。

『水連寺 澪』…。水連寺一族の長女よ!!」

「あんたが、長女!?ていうことは、一番年上ってことか…」

「あんたじゃなくて、澪よ澪!!」

澪と名乗る女性は自分の胸に片方の手を当て大声で言った。

「……。それで、俺の武器はねぇのか?」

「はぁ?あんた、自分の武器くらい持ってないワケ?本当にクズね……」

―うっ…。麗魅だけかと思ったら、こいつにも言われるのかよ……。


俺はズキッと心が痛むのを感じた。

「仕方ないわね…。これ、使いなさい!」

俺はてっきり武器を渡されるのかと思った。しかし、それは単なる俺の勘違いだった。

彼女は、俺に何も渡さなかった。

「あれ?使えって…一体何を?」

「見えないの?この武器……。これは、バカには見えない特別な武器なの…。あなたが、

もしもバカじゃないなら、見えるはずよね?」

「うっ…。も、もちろん見えてるさ……」

「じゃあ、さっさと取りなさいよ!」

俺はすっかり困り果ててしまった。もちろん、そんな武器全く見えない。

だが、ここで見えないと言ってしまったら、俺にバカ・変態・クズの三原則が成り立ってしまう…。

そうなってしまうわけにはいかない。俺は迷いに迷った末、相手にひざまづいた。

「調子に乗ってました…。すいません、俺には見えません……」

すると、彼女から帰ってきた言葉は、最悪な一言だった。

「見えなくて当たり前じゃない!」

「えっ!?」

俺は目が点になった。一体どういうことだ。

―いや、待て…。これは相手が俺をさらにだまそうとしているハラじゃないのか?


相手の表情をうかがないながら必死に相手の心を読み取ろうとする俺…。

「あなた、本当のバカね……。でも、確かにメリア様が、

あなたに好意を抱いている理由も少しだけ分かるきがするわ…」

「?」

俺はなんのことかさっぱりわからなかった。

―こういう男を俗に言う疎い男子というのだろうか?


しかし、彼女はふ〜っと深呼吸をして一呼吸置くと、言った。

「でも、やはり魔界に連れて帰らなければならないことに変わりないわ…」

「考え直さねぇのか?」

「これだけはどうしても譲れないわ!!止められるものなら止めてみなさい!!あなた自身の力でね…」

澪はそういって、俺に向かって茶色のムチをふるった。

蛇のように、ムチはうねりながら俺との距離を確実に縮め、最後には俺の背中を攻撃していた。

「っぐがぁ!!」

背中に激痛が走った瞬間、火のように熱い感覚が、神経を通して俺の全身に行き渡る。

俺はもがき苦しみ、痛みで廊下を転げまわった。

「っふふふ…。やはり、あなたではダメね。それじゃぁ、姫様を守ることは出来やしない…」

散々な言われ様だが、それでも俺は彼女に返す言葉がなかった。今を想えば、

最初からそうだったのかもしれない。今までがうまくいきすぎていたのだ。ここから先も、

澪と同じように様々な力を持った護衛役が俺を殺しにくるかもしれない。瑠璃に守ってほしいと言われて、

付き合ってきたが、それもだんだんと限界なのかもしれない。痛みが広がって行き、

それがマイナス思考のエネルギーに変わっていく。体に残る痛みの感覚が増えれば増えるほど、

俺の脳内がネガティブ思考になってしまう。その時俺は小さい頃に言われた言葉を思い出した。



(響史…。お前は、どんな男になりたい?)

(僕は、弱い人たちを守りたい!)

(そうか、だったらその人を出来るだけたくさん守れるように、自分自身がもっと強くならなきゃな!!)

(うん!僕、頑張るよ!!)

(おお、ガンバレ!!)



小さい頃、姉の唯に言われた言葉…。何年前のことかはあまり覚えていないが、このせりふだけは、

未だに脳裏に焼き付いている。しかし、人間の記憶というものは全く不思議なものだ。

いいことは曖昧な記憶で覚えていて、よくないことは、大体鮮明に覚えている…。おかげさまで、

俺の昔の記憶には、やんちゃしてた時の記憶しかほとんど残っていない。その他の記憶は、

忘れてしまっているか、他の記憶とごちゃ混ぜになった状態だ。

「だったら、どうだってんだ?言っておくが、俺はこんなもんで負けやしないぜ?」

「もちろん、それぐらいのことは分かってるわ……。でも、本当にそんなこと言っていいのかしら?」

「どういう意味だ?」

俺は、彼女の口にした言葉に、何か深い意味でも隠されてるのかと疑問を抱き、彼女に聞いた。すると、

彼女はこう答えた。

「そうね……。分かりやすく言えば、後悔するってところかしら…」

「後悔…。俺はそんなことになりはしない…」

「自分ではそう思っていても、なかなか上手くいくもんじゃないわ…」

「だったら、それを証明してやるよ!」

「是非、お願いするわ…」

澪は柔らかな表情を浮かべた。しかし、その表情には明るさと暗さの明暗が見え隠れしていた。

彼女の瞳は、まるで何かを企んでいる悪人のようだった。何より、彼女のその口元がそれを示していた。

かすかに上唇と下唇の間から見える白い歯が光り、それが俺には少し不気味に思えて仕方がなかった。

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