第二十三話「姉妹」
時刻は既に昼を過ぎ、二時を示そうとしている。現在家にいるのは、俺と霄と霊と霰と零と瑠璃と、
魔界から来たという麗魅と澪だ。澪は大魔王の手により毒に侵されダウン…。
俺と霄はその看病みたいな感じ…。霊と霰はじゃれあい…。零は庭でひなたぼっこ…。
そして麗魅と瑠璃の二人が戦闘中の状態だ。俺は時計とにらめっこをしながら、瑠璃の心配をしていた。
確かに相手は自分の双子の妹、まさか殺すなんてことはしないと思うが、念のための用心は重要だ。
「はぁはぁ…。さすがは、お姉さま…。こんな平和ボケしそうな人間界にいても、
ここまで強いなんて…なかなかね…」
「ふんっ…。別に、平和ボケなんてしてないよ!!」
瑠璃はプイッとそっぽを向いた。
「ふふっ…。でも、しょせん私には勝てないわ!!」
「どういう意味?」
瑠璃は不思議そうな顔で彼女に聞いた。
「修行を積んだ私は新たな技を生み出したの…。その技はお姉さまの全く知らない技…。
今までの技はしょせん勉強でいう復習のようなものよ!
そして、これからお姉さまに見せる技が、基本を用いた応用問題のようなもの…。
さぁて、お姉さまは私の応用問題に勝てるのかしら?」
「確かに人間界に来て少しは腕が堕ちてるかもしれない。それは認める…、でもかといって、
そうとも限らないよ?」
「じゃあ、それを私に証明して!!」
そう言って、麗魅はポーチの様なバッグから小刀を二、三本取り出すとその場に高くジャンプし、
あらゆる方向に投げた。
その攻撃は瑠璃がよけるまでもなく、勝手に瑠璃のいる場所とは別の場所に飛んで行った。
それを見た瑠璃はクスクスと苦笑しながら言った。
「何やってるの麗魅?もしかして、これがあなたの言った修行の成果なんて言わないよね?」
「ふふっ…バカねお姉さま…。こんな初歩的な罠にひっかかるなんて…。
やっぱり、平和ボケしてるんだわ!!」
「何を…―」
瑠璃が言い返そうとしたその時、足元に何かが引っかかり、前にいきおいよく倒れた。
まるで、何か細い紐いや、どちらかというと、
木の根っこに足を引っかけたという方がわかりやすいかもしれない。
彼女は後ろをさっと振り返り、一体何に引っかかったのか確かめようとした。
しかし、そこには何もなかった。
「あれ?どうなってるの?」
「まさか、お姉さま…視力まで低下したの?信じられない…。こんな細い糸も見えないなんて…。
これは、ワイヤ―線よ?」
「わ、ワイヤー線!?」
瑠璃が驚いて目をこすり、よく見てみると確かに日の光が当たり、
それが反射して透明な糸がキラリと光って見える。
「どう?まだ、自分の置かれた状況が理解できない?」
「何言ってるの…。今のは少し油断しただけ…。それに、他の小刀とかは全く私にあたってないよ?」
「はぁ…。やっぱり、ボケてるわね……。まぁいいわ。その内、嫌でも理解できるようになるから…」
麗魅は何かをたくらんでいるかのような笑みを見せた。彼女のオレンジ色の瞳が少し暗く見えた。
「そんなのどうだっていい!!とにかく、私は魔界へは帰らない!!」
瑠璃が武器を握り、麗魅に向かって振り下ろそうとしたその時、何かが彼女の動きを妨げた。
「な、何!?」
「まんまとかかったわね…。まさか、こんな低レベルな罠に二度も引っかかるなんて…。
双子の妹として情けないわ……」
麗魅は左手の指を軽く、額に当て、首をゆっくりと左右に振った。
それと同時に彼女の口から瑠璃に聞こえる音量でため息をついた。
「うっ…うるさいな〜…。そんなの、どうだっていいでしょ?」
瑠璃が無理やり前に進もうと足を一歩前に出した瞬間、彼女の手足、頬にシュッと傷が出来た。
「っつ…!?」
「さっきも言ったでしょ?一番最初に放った小刀は、お姉さまを狙ってたんじゃなくて、
このワイヤー線を張るためのものだったのよ!」
「そ、そんな…」
瑠璃はその場にペタンと力尽きたように座り込んだ。
「どうしたの?まさか、もう諦めたなんて言わないわよね?」
「くっ…。あ、当たり前だよ!!そんなの、姉としてみっともないじゃない!!」
瑠璃はゆっくり立ち上がり、目をつぶるとふぅ〜と深呼吸をして目を開いた。
キリッと真剣な表情で彼女は武器を構え、それを勢いよく回転させ始めた。
「うりゃぁあああ!!!」
ピシッ!パシュッ!パシュ!!ピュンッ!!
ワイヤー線が次々と切れていき、彼女の行動範囲が広がった。その瑠璃の意外な行動に、
麗魅は少し驚いていた。
「や、やるわね!!」
「これくらい、朝飯前だよ♪」
瑠璃は鼻高々に言った。と、その時
ぐぅ〜〜〜っ
と腹の音がなった。
「うぅ〜〜っ!!そういえば、まだ昼ごはん食べてない〜〜」
瑠璃はおなかを押さえて、その場にうずくまった。
「お姉さま…。本当にやる気あるの?」
「あ、あるよ!!」
瑠璃は少し焦りながら言った。
「だったら、真面目に戦ってくれないかしら?」
「う、うるさいな!!分かってるよ!」
瑠璃はゆっくり立ち上がり、ふらふらの状態で戦いを続行した。
「そんなにムリしないでもいいのよ?諦めて、私と一緒に魔界へ帰れば…ね?」
「絶対イヤ!!」
「くっ!往生際が悪いわよ!?」
麗魅は聞き分けのない双子の姉に溜まりに溜まって行く苛立ちに耐え切れずにいた。
「分かった…そこまで言うのなら、半殺しにしても連れて行く!」
ついに彼女は強硬手段に移行した。彼女はポーチから大量の小型ナイフを取り出し、
それを指と指との間にはさみ、それを四方八方に投げた。
「きゃぁああ!!」
瑠璃はその攻撃を反射的に身をかがめてかわした。俺の家の壁のあちこちにその小型ナイフが突き刺さり、
わずかにブルブルと揺れている。
「くっ!ここじゃ、せまくてまともに戦えやしないわ…。ったく、狭い家ね…」
麗魅は嫌味を言うかのようにそう言うと、玄関ドアを蹴破り、外に飛び出した。
「どうしたのお姉さま?こっちに来なさいよ…」
「言われなくてもわかってるよ!」
瑠璃は麗魅の後を追って、外に飛び出した。その音に気付いた俺は澪の看病を霄一人に任せて、
瑠璃と麗魅の二人を追いかけた。