「待てよ!お前らどこに行く気だ!!?」
「き、響史!?どうして、ついてきたの?」
瑠璃が麗魅の後を追いかけながら顔だけ、後ろで走っている俺に向け、言った。
「お前らが何かしでかさないか、見張りに来たんだよ!」
「ここは、人間界だから麗魅も、そこまで力を使いこなせやしないよ!」
「そんなの、分からねぇだろ?相手は修行を積んだって言うじゃねぇか…。
どんな攻撃してくるか分からないぞ?」
俺は瑠璃に警告の意味も含めてそう言った。走りながら麗魅を追いかけていた俺と瑠璃は、
光影都市の中央公園にやってきた。
―これで、何度目だろうか?以前にもここに来て、様々なアクシデントに巻き込まれたが、
まさかまたしても何かしらのアクシデントに会う羽目になるのだろうか?
俺はそんなことを頭の中で考えながらはぁはぁと吐息を漏らし、額に汗をかいている麗魅を見ていた。
「ここなら少しくらい暴れても大丈夫そうね…」
「何するつもりだ!?」
「あんたに関係ないでしょ?」
「てめぇ…」
「さっきは狭かったからうまくいかなかったけど、今度は十分なスペースもある…。
これなら、少しは本気を出せそうね」
麗魅は家で、使った小型ナイフの倍のナイフを手に持つと、腕を交差させて構えをとった。
俺は左足を後ろに一歩下げ、その足に体重の負荷をかけると、腕を顔近くに持っていき、防御態勢に入った。
別に篭手を腕につけているわけでもないし、それなら腕に鉛でも入れているのかと言われると、
そうでもない。そう、防御するための物など何もなしに防御態勢をとっているのだ。周りから見れば、
バカなやつにしか見えないだろうが、この時俺はこうするしか方法がなかったのだ。
俺が最初から家を出るときに武器か何かを持ってくるんだったなと思うのはもう少し後の方になる…。
「くらえ!!千手斬刀!!!」
麗魅はさっきよりも高くジャンプし、その手に持った大量のナイフをものすごいスピードで一気に放った。
しかも、360°全範囲にだ。普通なら難しいかもしれないが、彼女はそれを成し遂げた。
これが彼女の言う修行の成果なのだろうか?
その大量のナイフはもちろん、公園の地面だけではなく、俺と瑠璃の体にも刺さった。
「うぐぅあ!!」
「ぐっ!!」
俺と瑠璃はとりあえず、顔の防御には成功したがその他の場所は全く防御することが出来なかった。
腕や足はもちろん、腹にも刺さっていた。しかも、それが一か所ではなく何か所も…。
酷い激痛が全身を駆け巡る。赤い血が滴り落ち、俺の足を滑らせた。
「くそっ…瑠璃…、何か武器持ってないのか?」
「ごめん…私ほとんど戦うことがないから、そういうの持ってないんだ…」
「そうか…仕方ねぇこのナイフを利用するしかないか…」
俺は自分の二の腕に突き刺さっている小型ナイフを抜き取った。
すると傷口から赤い血がさらにあふれ出た。さらに、そのナイフを抜き取ると同時に、
凄まじい激痛が俺の体を苦しめた。
「っつ!!?」
「だ、大丈夫響史?」
「あ、ああ…このくらい、なんてことはない」
「まったく、人間のクセにしぶといわね!」
「あいにく、俺はそういうやつだからな、そう簡単には死なないぜ?」
「どうやら、そうみたいね…。でも、こっちとしてもその方が殺りがいがあっていいけどね♪」
―随分と余裕だな…。セリフに“♪”をつけてくるなんて、俺もナメられたもんだぜ…。
俺は唇をかみしめ、相手をどうやったら倒せるか考えた。
と、その時俺は彼女の首から下がっているある首飾りに目がいった。
俺はそれがどうしても気になり、瑠璃に聞いた。すると、瑠璃はこう答えた。
「ああ、あれは…昔私たちが幼いころにお母様がくれたものなの…。私も持ってるけど、
今は響史の家にあるよ?」
「大事なものなのか?」
「そりゃあ、お母様からもらった初めてのプレゼントだからね…。でも、最近お母様に会ってないから、
早く会いたいな…お母様に……」
その瑠璃の言葉を聞いて俺は、早くこいつを母親に合わせたやりたいなと思った。
―しかし、そのためには太陽系の守護者から指輪をもらわなければならない。
この地道な作業は少しばかりつらいうえに、なかなかその守護者が見つからない。
しかも、相手は案外強いから面倒だ。だが、これを成し遂げなければ天界に行くための道が開かないという。
近頃はパソコンなどを使えば、ビデオなどをわざわざ店に行かずとも借りれるというのに、
何故、天界に行くためにこんな面倒な方法をしなければならないんだ?
そう思っていると、瑠璃が俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「大丈夫、響史何か随分と考え込んでいるみたいだけど…?」
「あぁ、いや大丈夫だ…。」
俺は相手の首飾りに狙いを定めると、片足を強く踏み込んで、ダッシュで麗魅との距離を縮めた。
「くっ…丸腰での、強行突破なんて、あんたみたいな人間の考えそうなことね…。でも、
そんなことして私に勝てると思ってるの?何するつもりか知らないけど、無駄なことはやめなさい!」
麗魅はそう言って、今まで使った武器とは違う、少し長い剣を取り出し、俺に向かって、剣を構えた。
「そのまま、突っ込んでこの剣の餌食となるがいいわ!」
「ふっ!あまいな…」
「な、何!?」
彼女は一瞬何が起きたのか理解できていないようだった。彼女の持つ剣がポッキリ折れて、
刀身の先が宙を回転し、地面に突き刺さった。彼女はその折れた刀身を見てブルブルと震えた。
どうやら、麻痺を起しているらしい。俺は相手に相当な衝撃を与えたのか知らないが、
その麻痺は俺の攻撃によって引き起こしたように思われる。さらに、
俺は相手の首元近くを狙って剣を軽く振るった。その攻撃は誰にも見えていないが、
風が巻き起こるような感覚はあった。
しかも、俺が剣を鞘に納める頃には彼女が首から提げていた首飾りは、地面にポトッと落ちていた。
「あっ、首飾りが…!?」
俺は彼女が拾うよりも先にその首飾りを拾い上げた。
「どうやら、瑠璃の言っていた通り、大事なものらしいな…」
「それを返しなさい!今すぐ!!」
彼女は今までにないような感じで大きく声を張り上げて言った。その強い言い方に、
俺は一瞬ビクッとしてしまったが、それでも俺は彼女に首飾りを返さなかった。
すると、彼女は急に頭を下げてうつむくと、不気味なオーラを出し始めた。
「な、何だ!?」
「ま、まさか麗魅ここで“アレ”をするつもりなの!?」
「“アレ”!?アレってなんなんだ!?」
俺は瑠璃に少し焦るように聞いた。
「私は今、力を封じ込めてるからこんな格好をしてるけど、実はもう一つの姿が私には存在するの…」
「もう一つの姿?」
「うん…それは、麗魅にもあって、多分王族の悪魔とかは皆持ってるんじゃないかな…」
「み、みんな!?」
俺は少し驚いた。と、その時、急にさっきまで夏特有のジメジメした生ぬるい風が、
一瞬にして冷たい風に変わった。その風はまるで麗魅の体から吹き出ているようだった。
しかも、時が経つにつれてだんだんと雲行きが怪しくなり始め、
彼女のみかん色の髪の毛が、だんだんと頭から髪の毛の毛先にかけて、赤い紅色に変化していった。
「ま、まさか封印している力って、悪魔の力のことか!?」
「うん…その通り。本来、私たちは別世界で、力を使うことはできないんだけど、
私たちはその決まりを破ることのできる特別なアクセサリーを持ってるの」
「特別なアクセサリー?」
俺は彼女の服装や髪形など何日も見続けてきたが、
今までそのアクセサリーなどを見たことがなかったため、気になり聞いてみた。