「そんなものどこにあるんだ?」
「ああ…ここだよ?」
そう言って彼女は、バッグから、そのアクセサリーを取り出した。
「そんなとこに入れてたのか…ていうか、首から提げてないと意味なくないか?」
「あっ、そっか!!」
彼女はハッとしてまるで今気付いたかのような反応を示した。
―こいつ、本当に麗魅の姉なのか?
そんなことを想いながら俺は、相手の様子を伺った。彼女はすっかり変化を遂げ、
不気味はオーラを体から漂わせていた。邪悪な魔力が風に乗って俺の体にあたる。
俺はもうそろそろ夏だというのに、なぜか寒気を感じた。恐らく、
彼女のこの不気味なオーラがそうさせているのだろう…。
俺は麗魅から奪った首飾りを片手に持ったまま、強く拳を握った。
「私を怒らせるとどうなるか、その身に味あわせてやるわ!!」
麗魅は赤い瞳を輝かせて、空高く飛び上がり悪魔の黒い羽根を広げた。
羽根は彼女の体格よりも一回り大きかった。さらに、彼女の黒い尻尾が太いコードのように、
くねくねと曲がり、その先端部分は鋭く鋭利にとがっている。あんなもので、
串刺しにされたらたまったもんじゃない…。俺は、彼女がいる頭上を見上げようとしたが、
生憎今日は快晴のため、太陽の眩い日差しが邪魔してみることが出来なかった。
俺は腕で顔を覆い、日差しを遮った。
―それにしても熱い…。何なんだこの以上な暑さは…。俺を殺す気か?
俺は太陽に文句を言った。別に太陽が話す訳でもなければ、太陽が
「ごめんね…温度を低くするから許してね☆」
なんていうわけでもない…。
俺が頭の中で、そんなたわいもないことを考えていると、
いつの間にか空中にいたはずの麗魅が俺の目の前にいた。
「余裕ぶっこいでんじゃないわよ!!」
麗魅は指をまっすぐにのばし、その手自体を武器にして俺の腹に突き刺した。
「うっ、ぐはぁっ!!?」
俺はビックリした。
普通の人間ならこんなことはしない。だが、この時俺はそれよりもまず、
手で人の腹を貫けることに驚いたのだ。俺は口から血を流しながら、
視線を下におろした。すると、彼女の真っ白な手が俺の腹に突き刺さり、
その手に俺の返り血がついているのが見えた。そう、これは冗談なんかじゃない現実なのだ。
現に彼女の手は、俺の腹を突き抜け、背中から見ると、彼女の手と指先が見えるのだ。
しかも、真っ赤な血がべっとりついた手が…。
「これで分かったでしょ?あなたと、私との力の差ってものが…」
「うっ…くっ……」
「さぁ、早く首飾りを返しなさい!」
俺ははぁはぁと吐息を漏らしながら彼女をにらんだ。その時ふと彼女の口元に視線が移った。
すると、彼女がふっと勝利を確信したかのような笑みを浮かべたその瞬間、彼女の歯の中に牙が見えた。
「さぁ、覚悟しなさい!これで、終わりよ!!」
そう言って、彼女は俺の腹から手を抜き取ると、血のついた状態の手で俺の頭をわしづかみにした。
「あぁ、ぐぅうぅあぁああ!!!!」
「きょ、響史!!」
瑠璃が俺に駆け寄ろうとした瞬間、それに気付いた麗魅が尻尾を巧みに利用して、瑠璃の行く手を阻んだ。
「ふふふっ…お姉さまには邪魔されたくないからね〜…。
しばらく、そこでおとなしくしていてもらおうかしら?」
「くっ!!」
瑠璃は悔しそうに下唇をかみしめた。俺は朦朧とする意識と、頭に走る激痛で頭の中がいっぱいだった。
しかし、こうしている間にも彼女は女とは思えないほどの握力を用いて、
俺の頭のこめかみ付近を強く押さえつけた。さっきとは桁違いの激痛が頭に走った。
「うぐっ!うぐぅううぅうあああああ!!!!」
「響史〜!!!」
瑠璃が叫んだその瞬間、奇跡とも思えるような出来事が起こった。俺の剣が光り輝き、
ものすごい衝撃波を放ったのだ。しかも、それは麗魅だけを対象としていたようで、
彼女だけを遠くに吹き飛ばした。麗魅はあまりにも突然のことだったために、
防御態勢をとることが出来ず、そのまま公園の遊具に背中を強く打ちつけた。
「ぐはっ!!」
「やった!?」
「くっ…油断した……。まさか、まだそんな技を隠し持っていたなんて…」
麗魅は背中を年をとった老婆のようにさすりながらゆっくり立ち上がった。
「でも、そっちがその気ならこっちだって!」
そう言って麗魅は右手と左手の間に僅かな隙間を開け、そこに気を溜めた。そして、
それを圧縮して超収縮エネルギーを生み出すと、一気にそれを発射した。
凄まじいパワーを持ったその波動弾は俺に近づくにつれ、どんどんそのスピードと威力を高めて、
俺に襲い掛かった。
「な、ななな…何なんだ!!?この大きさは…」
「麗魅、やめて!!この街を吹き飛ばす気!?」
「こんなくだらない争いで私が人間に負けるくらいなら、全てを破壊して終わりにする方がマシよ!!!!」
「くっ!」
俺は聖剣を構え、エネルギー弾に対抗した。聖剣を使用して、エネルギー弾を跳ね返し、
まるで野球選手が打つホームランのように、上空で恐らく俺の負ける瞬間を見届けようとしていたであろう、
麗魅に当てた。
ドッガァアアアアアン!!!!!!!!!!!!!!!!
「っぐがぁああ!!!」
ドサッ!!
麗魅は宙から回転しながら墜落した。その様子はまるで、ジェット機が操作不能になり、
墜落するようだった。彼女の黒い翼は爆発の影響により、燃えていた。赤い炎が不気味に揺らめき、
彼女の横たわっている周りにも、何か所か焼け焦げた跡が残っていた。
と、その時ピクッと指が動き、彼女が動き始めた。
「うっ…まさかこの私が自分の技にやられるなんて…。誤算だったわ……」
「残念だったな…今度こそ覚悟を決めて負けを認めてもらおうか?」
「くっ…お断りよ!そんなことするくらいなら……ううっ!!」
麗魅は何かを考え付いたのかその場にゆっくりと足をガクガク震わせながら立ち上がると、
傍に落ちていた木の棒を杖代わりにしてそばの蛍河に近寄ると、川を背にして、こっちを向いた。