「あいつ、大丈夫なのか?」
俺は澪のことについて、麗魅と瑠璃に尋ねた。
「そうだね…多分、大丈夫だよ思うよ?お父様だって、そこまでひどいことはしない………と思うし…」
「なんか間が長くなかったか?」
「そんなこと、気にしてる暇があるなら、自分の命の心配でもしたら?」
「どういう意味だよ!?」
俺は少し嫌気がさして、彼女に聞いた。
「そういう意味よ…澪だってさっき言ってたでしょ?妹達がまた襲いに来るかもって…。
言っておくけど、護衛役はこの子達だけじゃないのよ?
まだまだ、たくさんいるの…。その力は今までの倍かもしれないし…」
俺は少し不安になった。不本意だが、確かに麗魅の言うとおりだ。今までやってきた護衛役をまとめると、
順番に四女の霄、五女の霊、八女の零、長男の雫、七女の霰、長女の澪だろ?
そう考えると、残りは後六人か…。だとすると、少なくとも次女と三女がいるはず…。
澪や霄があんなに強かったんだ…。おそらく、その二人も強いんだろうな…。
俺は考えれば考えるほど不安の気持ちが募ってきた。
すると、俺が暗い顔をしていたせいか、瑠璃が励ましの言葉をかけてくれた。
「心配することないよ、響史?今までだって、大丈夫だったんだから、大丈夫に決まってるよ!」
俺はその言葉を聞いてすごくうれしくなった。
「…ふっ、あぁそうだな…。サンキュー瑠璃」
「うん!」
瑠璃は嬉しそうに俺に微笑んだ。
「それにしても、すっかり暗くなっちまって、せっかくの昼ごはんが、晩御飯になっちまったな…」
「仕方ないさ…。突然のことだったからな…それで、どうするんだ?」
霄は庭に置きっぱなしの巨大猪を見ながら言った。
「そうだな…仕方ない…。予定を変更して今日の晩御飯を、ステーキにするか…」
「夜にステーキ!?はぁ〜…」
霄がおもむろにためいきをつき、俺はそれが気になりためいきの理由を聞いてみた。
「なんだよ、ためいきなんかついて…」
「お前は何も知らないんだな、響史…」
「何を?」
「夜はあまり、カロリーの高いものを食べるのはよくないんだぞ?」
「そうだったか?」
「……確か」
そのあまり自信なさげな返答に俺は半目で彼女を見た。
「な、何だ、その目は!!」
「別に〜…」
「さっさとステーキを作れ!!」
彼女は俺に小馬鹿にされたのが気に食わないのか、そっぽを向いて、どこかに行ってしまった。
すると、ちょうどいいところに麗魅が通りかかった。
「おお〜!ちょうどよかった!なぁ、れ……―」
「却下!!!」
―えええぇえええ〜〜〜〜〜っ!!!?まだ、何も言ってないが?
俺は頭を左手でかきながら、彼女に聞いた。
「あの〜…まだ、俺何も言ってないんだが?」
「大体想像つくわよ…どうせ、人手が足りないから私に手伝わせようっていう魂胆なんでしょ?」
「うっ…ご明察…。まぁ、少しくらいいいじゃねぇか…。こっちの生活に慣れるいい機会じゃねぇか」
俺は彼女をうまい具合に言いくるめた。
「そう簡単に私があんたの言うこと聞くわけないでしょーが、バ〜カ!」
「なっ、バカとはなんだバカとは!!」
俺はムッとして彼女を注意した。
「そのままの意味よ…。あんたみたいな変態にはいい言葉じゃない?よく、似合ってるわよ?」
俺はワナワナと体を震わせながらも、その怒りを心の奥深くに封じ込めた。
なぜなら、ここで、反抗的な言葉を述べれば、また彼女に言い返され、俺はそれ以上に言い返せなくなる。
恐らく、今の段階では俺は彼女に口げんかでは負けるだろう…。そう俺は心の中で思っていたからだ。
「どうしたの?言い返す言葉がないの?」
「もういい…。分かったよ、手伝わないならせめて、邪魔だけはするなよ?」
「なっ!誰も邪魔なんてしてないでしょ!?」
「どうだかな……?」
俺は少し彼女をおちょくってみた。
「そ、そこまで言うならいいわよ!邪魔なんてしないってところ、見せてあげるわ!
今に見てなさい!ほえ面かいても知らないから!!」
「じゃあ、料理手伝うのか?」
「いいわ!手伝ってあげるわよ!!」
麗魅は頭を少し上に上げ、上から目線で俺を見下ろした。
偉そうに腰に手を当てている小柄な麗魅はまるで、俺の妹のようだった。
しかし、実際には同い年であり、別に同じ血を持つ兄妹でもない。彼女は悪魔であり、
魔界の王族の血を持つ姫君だ。そのせいもあってか、なぜか彼女のその仕草一つ一つが、
今まで好き放題やってきたせいか、偉そうに見えたり聞こえたりして、仕方がない。
「で、何をすればいいわけ?」
この通り…まるで、やってあげるから何すればいいのか言ってみなさいよと言わんばかりの言い方…。
だが、例え言い方が悪くとも、手伝ってくれるのならば、喜んでやってもらおう。
「そうだな…じゃあ、霄が外にいると思うから、あいつと一緒にイノシシの肉を切り分けてくれないか?」
「なっ、この私が野生のイノシシなんかの切り分け作業なんてするわけないでしょ!?」
「はは〜ん…さては、出来ないんだろ?」
俺はだんだんと彼女に無理やり言うことを聞かせる方法を学習してきた。
彼女はどうやら、なかなかの負けず嫌いな性格の持ち主のようである。
そのため、出来ないなどの言葉を聞くと、意地でもやろうとするようである。
俺はこれはイケる。と思い、さらにぐいぐいと彼女に言った。
「できないのか?」
「で、出来るわよ!そんなの、出来るに決まってるでしょ!!」
そう言って、彼女は玄関へと向かい、外に出ると庭へと歩いて行った。
「さてと…肉は何とかなるとして、下準備を終えた後は、肉の調理とかもしないといけないしな…。
包丁の扱いになれてそうなやつ……―」
そう言葉にしながら俺は目と指でこの仕事に向いている人物を探した。
すると、まさに適任な人物を見つけた。自然感漂う風情のある椅子に座っている零だ。
俺は腕組みをしてうんと縦にうなずくと、彼女に歩み寄った。すると、
俺の気配を感じ取った彼女は首をこちらに向けずに、俺に剣を突き付けた。
「うわっ!い、いきなり何すんだよ!」
「いえ…不快な気配を感じたもので…」
「俺は変質者か!!」
「…まぁ、それはさておき…何か用ですか?」
「あっ…ああ、実はお前に頼みたいことがあってな…」
「また…ですか?」
「うっ…何度もすまねぇな……」
俺は申し訳なさそうに彼女に謝った。
彼女は椅子に座ったまま、椅子の背もたれに腕を乗っけると、その腕に自分の顎をのせ、俺に言った。
「別に…いいですよ?ちょうど暇でしたし…」
「本当か?」
「はい……で何をすればいいんですか?」
「ああ…霄と麗魅がイノシシの肉を切り分けてくれるから、
俺とお前で肉の下準備をしたいんだ!でも、そのためには包丁の扱い方を熟知したやつがいいってことで、
剣をけっこう使いこなせる零に決めたんだ!」
「剣なら、姉上も使えるでしょう?」
「霄には、別の仕事を頼んであるからな…」
「分かりました…そういうことなら……」
零は普通に仕事を引き受けてくれた。
これで、何とかなりそうだ。後は、霊達にはまぁいろいろ仕事をさせればいいか。
やっぱり、あいつのことだから…魚料理がいいか?
でも、肉があるしな…。う〜ん、そういえば今まで見たことないが、霰って料理できるのか?
俺はそんなことを想いながら、台所に向かい、服の袖をひじの部分でクルッと折り曲げ、
薬用石鹸キ○イキ○イで、手洗いをした。