小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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しかし、今更後悔したところで無駄なことだ。ここは、何か別の代用品を作るか何かして、

ごまかさないと、せっかくの他の料理も何か雰囲気的に失敗作のように思えてしまう。

俺は自分に対しては案外厳しい性質なのだ。

「何、深く考え込んでるの?」

麗魅が俺の顔を覗き込むようにして、俺に話しかけてきた。俺は少し目を逸らしながら、言った。

「べ、別に…」

俺はそう一言残し、頭の中で必死に考えた。

―ど…どうする?これ以上考えても、何の解決にもなりはしないぞ!?

ったく…今日もいろいろあったからな…。どうすればいい?何か、打開策は…。


俺が頭を抱え込み、考えていると、ピンポーンと何故かインターホンが鳴った。

別に何か品物を頼んだわけでもなければ、知り合いが家に来るという予定も無論なかった。

だとすれば、一体誰だろうか?俺は頭の半分で、主食のごはんや、味噌汁…。

もう片方では、俺が歩み寄る玄関扉の向こうにいる相手のことを考えていた。

我ながら器用だなと思いながらも、俺は玄関扉に手をのばし、既にドアノブを回している状態だった。

「はい…どちらさま…―」

俺は自分の目を疑った。目の前にいたのは、あの謎の少女ルナーだったのだ。

「お、お前…どうしてこんなとこぶごっ!!?」

俺は彼女に尋ねる前に、彼女に思いっきり腹を殴られた。訳が分からない。

「ゴホゴホッ!…な、何なんだよいきなり…人の腹殴りやがって…」

「あんたは、いい加減私に対して敬語を使うということを学ばないのかしら?」

「はぁ〜?どうして、俺がお前に敬語なんか…グフッ!」

今度は左足でキックを繰り出された。同じ場所を二度も攻撃されるのは、さすがの俺もつらい。

俺は腹を両手で押さえながら、腹痛を訴える患者の様にうめき声を上げながら、

その場に膝をついて座り込み、うずくまった。

「まぁ、それはまた後ででいいとして…。随分と美味そうな匂いがするじゃない?」

「なっ、ダメだぞ?これは、俺達の今日の夕飯……ってあれ?あいつ、どこに行った?」

俺がルナーを探してキョロキョロ辺りを見回していると、家の中から彼女の声が聞こえた。

「!?…あいつ、いつの間に入ったんだ?」

俺は少し驚きの表情を浮かべながら急いで家の中に入って行った。玄関に靴を脱ぎ散らかし、

スリッパもはかずに、裸足で食卓に戻って行った。すると、さっきまで座っていた俺の席に、

ルナーの姿はあった。ニコニコ笑顔を浮かべながら俺の作った料理を食べている彼女の顔を見て、

俺はイラッとしてズンズンと足音をわざと立て、彼女に近寄った。

「おい、ルナー!」

俺は彼女の顔の近くに自分の顔を近づけた。すると、彼女はふと俺の方を振り返るや否や、

俺の顔に向かって思いっきり口に含んでいたジュースを吐き出した。

「ブフゥ〜〜〜ッ!!!?」

「うぐぅぁあ!って、てめぇ〜!なんてことしやがんだ!!」

「ゴホッゴホッ!あんたが、いきなり近づいて驚かせるからでしょ?」

「ていうか、何でお前がここにいんだよ!」

「訳わかんない…。いたらいけないの?」

「そ、それは………くっ」

俺は口ごもった。どうしても、言い返せない。何故かは自分にも分からないが、

どうしてもその言葉に対してだけは言い返すことができないのだ。

「とりあえず、困ってるみたいね…。この食卓に並んでいる料理の品数と、

足りないものを考えたら大体想像できるわ!どうせ、肝心なご飯とみそしるを作り忘れたんでしょ?」

「うっ!?」

俺は図星だった。ここまで、ズバッと本音を答えられると、逆に清々しいくらいだ。

「それなら、簡単ね…」

「どういう意味だ?」

「私がご飯とみそしる用意してあげる!」

俺は彼女の言葉の意味が理解できなかった。

「それって…―」

「まぁ、黙ってみてなさい…」

彼女の言葉に俺も瑠璃達も黙って見守るしかなかった。すると、彼女は俺達の不安そうな顔を見て、

少し微笑むと、彼女は腰に手を当て、ごはんとみそしるの映った写真を持って来いと命令してきた。

俺は渋々小さな声で文句を言いながら、二階に上がり、写真を持ってきた。すると、それを見た彼女は、

得意げに上目づかいで写真を見下ろし、そこに、様々な荷物の入ったバッグから手鏡を取り出し、

それを左手で持ち、俺に、ごはんの写真の映った本を持たせ、その向かい側に鏡を持ったルナーが立った。

「じゃあ、行くわよ?」

「えっ…ちょ…まっ―」

俺が心の準備を終える前に、彼女は既に行動を開始していた。謎の力を発動させたルナーは、目をつぶり、

すぅ〜っと深呼吸をして、呼吸を整えていた。すると、彼女の体が光り輝き、それと同調するかのように、

鏡も輝き始めた。そして、鏡面から何かおいしい匂いがしてきた。俺はその正体に気付いた瞬間、

驚いてまたしても自分の目を疑ってしまった。何せ、彼女は鏡の中からご飯を出したからだ。

しかも、ホカホカのおいしそうな白ごはんを…。米粒の一つ一つがたっており、

ふんわりとやわらかそうな形。そして、何よりもそのツヤツヤとしたつやめき。まさに、

写真と同じごはんだ。しかも、お椀も写真と同じものである。その時俺はある仮定を立てた。

―まさか、ルナーは鏡の力を使えるのではないだろうか。しかし、そんな力聞いたことがない…。

いや、待てよ…。確か、瑠璃が以前何か話してたな…。五人の柱…。

力のバランスを保つために存在するパワーバランス。その一つが欠けても、世界は破壊される。

……思い出した。五界を総べる五人の支配者の一人。鏡界の支配者!そうか…そうだとすれば、

あいつが鏡の力を使えるのも頷ける。ってことは、ルナーが、その世界の柱の一人ってことか?

となると、残りの四人の内…魔界を総べるのが、瑠璃と麗魅の父親…。天界を総べるのが、

瑠璃と麗魅の母親…。冥界を総べるのが瑠璃と麗魅の叔父…。そして、ここにいる瑠璃と、

麗魅の叔母であるルナーが鏡界を総べてる訳で…。となると、人間界は一体誰が?


俺は考えれば考えるほど、頭が痛くなった。とりあえず、今はこのことについては考えないでおこう。

それよりも、彼女の力があれば無事に晩御飯を終えることもできそうだ。

俺は、そう思うと安心してついついため息が漏れてしまった。

こうして、俺の慌ただしい一日がまた終わりを告げたのだった……。

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