小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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ふと、外を見ると、雲一つない青空があった。カラスやスズメが飛び、

電柱にはハトも止まっている。俺はもっと外の様子を見ようと、ゆっくり前方に歩き、

窓に手を置いて、外の景色を眺めた。運動場では、体力測定のために、持久走をしている、

男子や女子がいた。そのトラックのそばには、体育教師の北斑先生がタイマーウォッチを手に持って、

タイムを計っていた。

「はぁ〜…。何も起こらないと退屈でしょうがねぇな…。瑠璃のやつ、大丈夫だろうか…。

まぁ、ルナーのやつがついてるから、大丈夫だろうが…。そうだ!」

俺はポンと手をたたき、指を鳴らした。

「帰りに、何か買っていってやるか!」

キーンコーンカーンコーン!

ガラララ……。

「んっ!!神童…貴様、何を考えていた?」

城元先生が俺を怪しいまなざしで睨みつけ言った。

「い、いやだな〜。なんでもありませんよ!」

俺はビクッとして体を少し後ろに反らしながら先生に言った。

先生は一瞬俺をじ〜っと見つめたかと思うと、諦めたらしく、俺の脇を通り過ぎて行った。

「ふぅ〜…。こえぇ〜。思わず冷や汗かいちまった…」

俺は額の汗を拭い、先生がいなくなって五分間の自由を満喫しながら、

騒がしく会話を楽しんでいる生徒たちのいる教室の扉を開けた。

そして、俺が扉を開けて、教室内に入ると、霊が俺の前に現れて話しかけてきた。

「ねぇねぇ、響史!」

「ん、何だ?」

「どうしよう…。お弁当忘れてきちゃった!」

「何!?」

「ねぇ、どうしよう〜…」

彼女はすごく動揺していた。

「ちょ、ちょっと待て…。今、考えるから…」

いつの間にか、彼女のせいで俺まで動揺してしまっていた。

そうこうしているうちに、二時間目の授業開始のチャイムが鳴ってしまった。

「仕方がない…。後で、考えるからとりあえず、席につけ…」

「うん」

霊は少し肩を落として、自分の席にトボトボと戻っていった。俺も彼女の後についていき、自分の席に

座った。三時間目の授業が始まり、先生が引き戸を開け、教室内に入ってきた。そしてまたしても

ダルい50分授業が始まった。



時間はつまらない間は本当に長く感じるものだ。それに対して、楽しい間はあっという間に過ぎてしまう。

人間とはどうしてこういう感覚なのだろうか。つまらない間こそ、短く感じさせてくれればいいのに…。

おそらく、楽しい間はその楽しい出来事に没頭して時間のことを忘れてしまうからなのだろう。



そして、唯一の俺の休めるブレイクタイム…。給食の時間がやってきた。

だが、今日はそうも行かないだろう。何せ、これから霊の弁当を取りに家まで猛ダッシュ

しなければならないのだから…。まったく、どうしてこうも俺はついていないんだろう。

彼女達が来てからもうずっとだ。だが、まったく楽しいといえば嘘になる。

楽しい時は楽しい。特に、今まで俺は弟が家におらず、寂しい思いをしていた。そんな中、

彼女達が俺の家に上がりこんできて、俺のさびしい気分を紛らわせてくれた。こうしていると、たくさんの

兄妹がいるというのは実にいいものだと感じる。何分、弟がいない間は、まるで一人っ子の気分を

味わっているようだったからだ。思わず、悪友…もとい友達の亮太郎に携帯で電話して話しかけて

しまうくらいさびしかった。だが、そんなひと時ももう終わり…。

今では彼女達とハーレムのような生活をエンジョイ出来て実にうれしく思う…まぁ、悪魔だが…。

その時ふと俺は思った。

―そうだ…。今日は家に、ルナーがいる。彼女に弁当を持ってきてもらえばいいではないか。


そう考えた俺だったがそこで、ある障害にあたった。

―しまった…。電話しないといけない…。だが、それは何とかなる。問題は、やつがちゃんと俺に気付いて

くれるかどうかだ…。もしも気づかれなければ、それこそ終わり…。それに、それを解決したところで、

今度は彼女をどうやってここに呼ぶかだ…。普通にここに来てというのも一つあるが、あいつのあの姿…。

あんな姿見たら、ロリコンのやつらが必ず襲い掛かるに違いない。ただでさえ、あの理事長がそんな感じだ。

ツインテールに幼い顔…のくせに、胸は意外にも麗魅よりあるからな…。まぁ、確かあいつの方が年上

だったからな…仕方ないか。あれ…なんか、だんだんと話がズレているような…。


と、心の中で思っていると、ギロリと麗魅が俺の方を向いて怖い形相で睨みつけていた。

「うっ!!?」

俺はぞ〜っと何かが背中をなめたかのように悪寒を感じた。急いでその場から逃げ出したいという衝動に

駆られ、俺はその場から脱出し、男子トイレに慌てて駆け込んだ。そして、震える手で携帯電話のボタンを

押し、自宅に電話した。

プルルル…。

と電話の音が鳴る。



一方家では…。響史に頼まれ、致し方なく熱を出した瑠璃の看病をしていたルナーは白衣姿でその自分の

腕の長さよりも長い白衣の袖を腕の関節部分まで折り曲げていた。彼女の額に置いてあるタオル…。

それをつけかえるため水につけ絞る…。その行程の中で、裾が濡れてしまわないようにするためだ。

彼女はずっと考えていた。

(帰ってきたら必ず、お前が言うこと何でも聞くから!!)

という響史の捨て台詞…。その“何でも”という言葉に彼女は引っかかっていた。

―何でも…ということは、相手が嫌がるものでも私が望んでいるならいいってことよね?

でも、何させようかいまいちいいアイデアが思い浮かばないのよね…。


と、その時電話の鳴る音が一階から聞こえてきたので、彼女はしびれる足に少し痛みを感じながらも、

慌てて下へ駆け下りた。そして、彼女は電話の前で一呼吸置き、受話器を取った。

ガチャ!

「…ふぅ、はいもしもし?」

(あ〜もしもし…ルナーか?)

「ルナーさんでしょ?」

(あ…ルナ―……さん。あの実は、頼みがある…―)

「ごほんっ!」

(あるんですけど…)

「何?」

ルナーは彼に相変わらずタメ口で話されることに年上としての威厳をなくしてしまっているといささか危険を

感じ、彼に丁寧な口調で喋ることを強要した。そして、彼がちゃんと敬語になったところで彼の用件を

聞いてやることにした。

(実は…霊が家に弁当置き忘れちゃいまして…)

「で…?」

(だから〜その〜…何ていうか、それを持ってきて頂ければな〜と思いまして…)

響史は下手に出て彼女のご機嫌をうかがった。

「ふ〜ん…姪の看病を任されたあげく、さらに姪の護衛役のために弁当を持って行け…と?」

(あはは…。真に申し訳なく思っております…あの〜俺…じゃなくて僕…なんでもやりますので、

お願いですから何とかして、霊の弁当持ってきて頂けませんかね?
)

彼の口から再び出た“何でも”という言葉…。それを耳にした彼女は少し間を置いて彼に訊いた。

「……何でも…。本当に何でもなの?」

(えっ?…あぁ、はいっ!そりゃ、もう…何でもお申し付けください!!この神童 響史!

あなたのために、何でもして差し上げます!!
)

あまりにも危険な言葉を述べすぎではあるが、霊の弁当を持ってきてもらうためだ仕方ない。

と自分に言い聞かせる響史…。すると、いいアイデアを思い付いたのかルナーはふっと苦笑いして言った。

「あんた今どこにいる?」

(えっ…男子トイレ…ですけど…)

「今すぐ…女子トイレに行きなさい!」

(ちょっ待っ…えっ!?そ、それは…―)

「無理ならこの話はなしってことで…それじゃ!」

(あぁああああ!!待ってください…。分かりました分かりました…。行きます行きますから!!)

響史は彼女に電話を切られそうになり、慌てて了解してしまった。

「言ったわね?」

(あっ!!?)

彼がようやく理解した時にはもう時既に遅しだった。彼女は電話を切った。



所変わって学校…。

―し…しまったぁあああああ!!!?なんてバカなことをしてしまったんだ俺は!ていうか、何で

よりにもよって男子トイレが女子トイレれぇえええ!?いくらなんでもそれはないだろ!!だって、

女子トイレだよ?場所が場所でしょ!!もしも、仮に行ったとして女子来たらどうすんだよ!!ったく…。だが、

これも霊の弁当を手に入れるため…。ここはグッ!と我慢だ。


そう自分に言い聞かせた俺は、男子トイレの壁際からそ〜っと隣の女子トイレの入り口付近を眺めた。

こうしていると、まるで俺は不審者いや…変態のようだ。だが、これも霊の弁当のため…。

俺は、周りを目で確認し、誰もいないことを確認した。

「よし今だ!!」

「―それでさ〜!」

―ぬぅわぁああ!!!


俺は慌てて男子トイレに引き返した。

「ん?」

「どうかした?」

「いや、今…誰かいたような気がして…」

「気のせいじゃない?」

「そうだね〜…」

そう言って、その二人の女子は水で濡れた手をハンカチで拭きながら談笑してその場を離れて行った。

―ふぅ…。危なかったぁあああああ!!!危うい危うい…後少しでも気付くのが遅かったらさっきの二人と

正面衝突して大変なことになるところだった…。くそ…、ここからじゃ、中の様子を確認できないから

行けないんだよな〜。でも、急がないと、もうそろそろルナーが来るんじゃないか?

ていうか、そもそもどうして女子トイレなんだ?弁当を届けるなら、普通…昇降口でも良さそうなもんだが…。



そう不思議に思いながらようやく俺は女子トイレに侵入することに成功した。だが、

もしかしたらトイレの個室の中にいるかもしれないという可能性を考え、俺はひとまず抜き足、

差し足、忍び足で中に入って行った。そして、個室に誰もいないことを扉のロックがかけられてるか、

かけられていないかどうかで確認し、周りを見渡した。しかし、どこにもルナーらしき人物がはいない。

彼女のあの白衣姿…。理科の先生でもない限り、見間違うはずがない。それに、ここは女子トイレ…。

まず男の理科の先生は絶対にいないとして、女の理科の先生もここにはいるはずがない。

教員トイレは別にあるからだ。と、その時どこからかルナーの声が聞こえてきた。俺はハッとして

もう一度辺りを見渡した。しかし、どこにもいない…。すると、女子トイレの鏡に映るはずのない

少女の姿があった。そう、ルナーだ。

「お前、一体どうやって!?」

「ゴホン!」

彼女はまた元に戻ってしまっている彼の口調を正させようと咳払いをした。

「え〜っと、一体どうやって来たんですか?」

「私は…五界の支配者の一人で、鏡界を支配するものよ?こんなもの簡単な話だわ!手頃な大きさの鏡を

あんたの家で見つけて、その鏡とあんたの通ってる学校の女子トイレをつなげたの!結構、集中力を削られる

技なんだけど、私にとってはこんなもの朝飯前みたいなものね!」

「それで、弁当は持ってきてくれましたか?」

「ええ…もちろんよ!それよりも、あんたこそ私との約束忘れてないでしょうね?」

「あぁはい!もちろんですよ!!絶対に約束は守ります!」

「そう!ならいいわ。はい、これ頼まれてたお弁当!!」

ルナーは鏡から手を出して弁当を渡そうとした。俺は一瞬自分の目を疑った。無理もない。何せ、本来ならば

鏡から手が出てくるなど考えもしないことだからだ。しかし、現にそれが目の前で起こっている。

「うわぁ!鏡界の支配者って…こんなことも可能なのか?」

「ええ…。これ以外にも、私自身が家から学校まで行くことも可能なのよ?」

「ま、まさか…そんなド○え○んの『ど○で○ド○』みたいなことが可能なんですか!?」

「よく分からないけど、まぁね…」

彼女は自慢げに腰に手を当て言った。

「へぇ!やってみてくださいよ!!」

俺はその時、ここが女子トイレだということをすっかり忘れてしまっていた。彼女は俺に褒められて

少し気分がよくなっていたせいか、何の文句も言わず、素直に俺の言うとおりにしてくれた。

「どう?」

「…なっ、ほ…本当に来れるんだ…」

俺は独り言をポツンとつぶやいた。彼女は片手に風呂敷に包まれた弁当を持ち、もう片方の手を自分の細い

腰に当てて女子トイレの洗面台の上に立っていた。俺は驚きながら上を見上げた。

と、その時ふと彼女の短いスカートから下着が見えてしまった。

「なっ!?」

「あっ!」

彼女は顔を真っ赤にしてどこからか発明品を取り出し、俺の体にいきおいよくぶつけた。その発明品は

俺の体にぶつかると同時に爆発し、凄まじい電流が俺の体を駆け巡った。

「ぎいゃやぁああああ!!!」

「このバカ!変態!!しれ〜っと人をこっちに誘導させておいてはなっからこれが目的だったのね?」

「ち、違いますよ!今のは、アクシデントというかなんという…―」

俺は彼女の誤解を解くために説明する途中で女子トイレに誰かがやってくる気配を感じた。

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