小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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第二十五話「緑の髪の不審者」

時刻は2:22…もうまもなく五時間目の授業が終わりを告げる。ちなみに先生は俺達のクラスの担任である

下倉先生…。担当教科は数学…。俺は相も変わらず教科書を机の上に立て、爆睡していた。

しかし、事件はまさにその時起こった。急に扉が開き、そこに現れたのは熱を出して家にいるはずの

瑠璃だった。彼女は制服を着てここに来ていた。皆は彼女のその姿を見て、瑠璃が二人いるということで

パニックに陥った。

「ど、どうして瑠璃ちゃんが二人?」

「どういうことだよ神童!?」

ついにはその理由を俺に訊いてくるやつまで現れる始末…。俺はすっかりまいってしまった。

すると、瑠璃は顔を火照らせながら、麗魅が座っている瑠璃の席の真横にやってきた。

「麗魅…変わり身ご苦労様…。もう…私は…大丈夫…だから。…れ、み…は帰って…いい…―」

彼女は体をふらつかせ、前かがみに倒れた。

「ちょっ…お姉さま!?」

その“お姉さま”という言葉に皆は耳を疑った。そう、彼女は瑠璃ではなく彼女の双子の妹麗魅だったのだ。

「なっ!お前、どうしてここに来たんだよ…!!」

「えへへ…来ちゃった。ごめんね、響史。私、どうしても麗魅のことが心配で…」

そう言って、彼女はまた気を失った。すると、事態の収拾に下倉先生がパンパンと手を叩き言った。

「え〜みなさん…落ち着いてまず席についてください!!後、神童君…どういうことなのか訳を聞かせて

もらえますか?」

「は…はい!」

俺はつくづくついてないと思いながら、説明を始めた。

「―なるほど…。つまり、彼女は瑠璃さんではなく瑠璃さんの双子の妹である麗魅さんだったと…」

「な…ななな…ってことは、神童お前…妹が二人居たっていうのか?しかも、こんなかわいい子が!?」

変態バカこと亮太郎が俺を振るえる人差し指で指さしながら言った。

「ま、まぁな…」

―これまた、ややこしいことに…。


「とりあえず、状況は解りました…。とりあえず、彼女を保健室に連れて行ってあげて下さい…」

先生に言われ、体が異常に熱くなっている瑠璃をおぶり、保健室まで走って行った。

ガララ…。

「せんせ…っていないのか」

俺は扉を片手で開け、中に保健室の先生がいないことが分かると、彼女をベッドに寝かせた。

すると、さっき扉を閉めたはずの扉が再び開き、そこに誰かが入ってきた。それは保健室の先生だった。

「先生!?」

「あら、神童君じゃない…。どうかしたの…って、その子…瑠璃さんじゃないの!!何かあったの?

すごく、顔が赤いけれど…」

保険医の『楠木 美佳』先生が彼女の表情を見て心配そうに言う。俺は、状況を手っ取り早く説明し、

どうすればいいのかを訊いた。すると、先生は彼女が汗をすごくかいていることに気づき、俺に言った。

「…それよりもまずは彼女の汗流してあげたら?汗で濡れて気持ち悪いでしょう…。今、お湯で温めた

布持ってくるから、それで彼女の背中とか……拭いてあげなさい?」

「先生…なぜ一瞬間が開いたんですか?」

「まぁ、そんな細かいことは気にせずに、ささっはいこれ!タオルね?これ、お湯の入ったやかんと、

これが水受けね?」

そう言って、先生は俺に様々な道具を手渡すと、デスクの回る椅子に座り、背もたれにもたれかかって、

はぁ〜とため息をついた。俺は、参ったな〜と心の中で呟きながら、彼女の背中に手を回し、とりあえず

彼女の上半身を起こした。それだけで、俺の手は彼女の汗ですっかり濡れてしまった。

「本当に大丈夫か?」

「う…うん…あっ、服脱がなきゃダメだよね?」

彼女ははぁはぁとすごくつらそうに吐息をもらす。俺は、その姿がかわいそうでならなかった。急いで、

この状態から回復させてやりたいと思った。

「…ねぇ、響史…。お願いがあるんだけど…」

「ん?なんだ?」

俺は少しでも彼女の力になればと彼女の頼みを聴くことにした。しかし、彼女の口から出た要望は少し

難易度の高いものだった。

「…ボタン取れないの…。取ってくれない?」

「なっ!お前…あの時以来、全然頼んでこないから、てっきり外せるようになったものだと…」

「今までは、霄達や霊達にお願いしてたの…。麗魅が来てからは妹に任せっきりだけど…」

彼女の冗談を言える状態から、まだヤバイ状態まではいっていないようだ。だが、油断は禁物…。

何せ、相手は悪魔…人間と違ってその症状がひどくならないとも言い切れない。もし、万が一の時があった

場合、大魔王の手によって人間界は確実に滅ぼされる!!俺はゴクリと息を呑みながら、彼女の

第一ボタンに手をかけた。彼女のあごにたれた汗が俺の手の甲に滴となって落ちる。

そして、ある程度のボタンをはずし終えると、俺は彼女に後ろを向くように言い、彼女を後ろに向かせると、

彼女の背中にお湯で温めたタオルを当て、汗を拭いた。普段は自分のしか洗ったことがないため、力加減は

自由なのだが、今回は他人の背中を拭く…。ある程度の力加減をしてやらないと、下手をすれば傷つけたり

などということにもなりかねない。俺は再度細心の注意を払いながら、彼女の綺麗な背中全体を拭いた。

その後、彼女の腕、首…顔と拭いていき、大体拭けるところは拭き終わった。しかし、俺は途中で手を止めた。

第一の難関…それは言うまでもない…胸だ。最初に言っておくが現在俺が汗を拭いている相手は女…

対して拭いている人物は男…。亮太郎なら飛びついてまでもやっているだろうが、あいにく俺にはそんな

度胸持ち合わせていない。俺は一瞬、楠木先生に助けを求めたが、先生は午後の紅茶を満喫中のため、

俺の言葉など全く耳に入っていない。それでも一応、俺は先生に声をかけてみた。

「あの〜先生…―」

「断る!」

「あの…まだ何も言っていないんですけど…」

「言わなくてもその様子で分かるわ…。大方、最初の難関ってやつに悩まされてるんでしょ?」

「ええ…まぁ」

俺は頭をかいた。先生はティーカップを資料で散らかったデスクに置き、俺のところまで歩いてきた。

「ごほん!アドバイスをあげましょうか?」

「いいアイデアがあるんですか?」

「まぁ…ね。どう、聞きたい?」

「是非とも!!」

既に手段のない俺は、急いで先生からアドバイスを聴こうとした。

「そう…じゃあ、まず目をつぶって…」

「はい…」

「次に、タオルを持って…」

「はい…」

「GO!!」

「GO…って!ゴーじゃないですよ!!これじゃ、ただ単に心を無にしろって言ってる

みたいなもんじゃないですか!!」

俺の言葉に先生は驚きの様子だった。

「よく分かったわね…まぁ、要するにそういうことね…」

「んなことして視覚を失ったとしても、聴覚と触覚で終わりですよ!!」

「確かにそうね…でも、ここはグッと我慢よ!!」

「そんな…」

先生に親指を突きだされ、もう手はないと俺は決心した。そして、意を決した俺はタオル片手に

彼女の右肩に手を置いた。その時、俺はキーンコーンカーンコーンと授業の終了を告げるチャイムが

鳴ったことに気付いていなかった。保健室に忍び寄る謎の影…。その影は邪悪なオーラを身にまとい、

一歩一歩確実に保健室との距離を縮めていた。

「ふぅ…行くぞ!!」

「…うん」

瑠璃に確認を取った俺はついに彼女の胸へと手を伸ばした。

ガラララ…。

その音に俺はピタッと手の動きを止めた。目の前にいたのは、鬼…ではなく、怒りに身を任せ恐ろしい

形相で睨みつけている麗魅だった。

「お、お前…どうしてここに…!?」

「お姉さまの…様子を確認しにきたのよ…そしたら、あんたがお姉さまの体を拭いてるっていうじゃない…。

そんなこと許さない!お姉さまの体には何人たりとも触れさせはしない!!…はっ!」

その時、俺は瑠璃の肩に直に手を置いていることにようやく気が付いた。慌てて手をどかした時には、

もう遅かった。俺は、彼女にボコボコにされ気絶した。



再び目覚めた時にはもう、既に俺は自宅の自室のベッドの上だった。

「はっ!!」

俺は慌てて上半身を起こした。だが、それと同時にズキッと痛みが走るのを感じ、慌てて自分の体を見た。

すると、それはもう酷かった。顔はあざだらけ…。額には包帯…。鼻には絆創膏。腕や足…、お腹や胸など

ありとあらゆる部位に包帯や絆創膏、布当てなどが施されていた。

ガチャッ!

という扉の開く音に俺は何故か敏感に反応した。

「あっ…起きてたんだね…。もう、大変だったんだよ?気絶した響史をまだボコボコにするんだもん麗魅姫

ったら…。大丈夫だった?痛くない?一応、応急処置はその場が保健室だっただけに早くすんだんだけど、

その傷…治るのに結構時間かかるんだって…」

「そうか…」

俺は霊に気絶した後の説明をされてボソッと一言だけ返した。

「晩御飯が出来たらしいぞ?」

霄が、俺の部屋にズカズカと入ってきて俺に言った。

「なぁ霄…。麗魅…、どんな感じだ?」

「何がだ?」

「だから…怒ってるのかどうかってこと…」

「そりゃあもうカンカンだ!」

「…やっぱりそうか」

納得の表情を浮かべため息をつく俺…。すると、噂の彼女がやってきた。

「このバカ!変態…いつまで寝てるつもり?」

「い…いや、起きてるけど…」

「あっそ!だったら、さっさと下に降りて食べてくれない?片づけられないんだけど?」

「ていうか…皿を片づけるのは俺なんだし、お前には関係ないだろ?」

彼女の言葉に少しムッときた俺は、ついカッとなって彼女に歯向かった。

しかし、このまま彼女と言い争うわけにもいかないため、俺は仕方なく下に降り、晩御飯を食べた。

だが、目の前にはじ〜っと俺をまるでケダモノの様に見つめる麗魅が見ているため、

なかなか食べ物が喉を通っていなかった。

「な、なぁ…食べる時くらい自由にさせてくれないか?食べ物が喉を通らない!」

「うっさい!いいからあんたはおとなしく晩御飯食べなさい!!」

俺ははぁとため息をつきながら結局1時間ほど時間をかけて晩御飯を食べ終えた。



その頃光影都市の住宅街にて、緑色の髪の毛の少女が響史の家の前に数時間立ち止まっていた。

しかし、インターホンを押す訳でもなければ、気になるというわけでもないようで…遠くから通行人が

来たのを確認すると、そそくさとその場を立ち去って行った。

「ふふっ…神童 響史くんか…。おもしろそうね…」

そう言って、不審な行動をとり続ける少女はその場から姿を消した。

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