小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>



次の日の朝…。俺はなぜか自然と目が覚め、ベッドに横になったまま手をピンと伸ばした。そして、

力尽きたようにその手をベッドにおろそうとしたその時、俺は何か柔らかいものに手が触れるのを感じた。

俺はその時、自分が周囲を悪魔の少女たちに囲まれている事をすっかり忘れていたのだ。

「なっ!?」

俺が触れていたのは事もあろうか、麗魅の胸だった。

「…あんた、その手…一体どういうつもり?昨日のお姉さまに続いて私まで襲おうって…こと?」

彼女の恐ろしいオーラに俺は恐れおののいた。

「待て待て!俺はただ…その、ちょっと寝ぼけてただけで…!」

「寝ぼけてたなんていう言い訳が通じるわけないでしょうが!!」

そう言って、彼女はボキボキと指を鳴らし、ベッドから抜け出した俺にゆっくりと歩み寄ってきた。

このまま彼女に捕まれば何をされるか分からないという危機感を感じた俺は、その場から逃げようと、

ドアへと駆け出した。しかし、彼女は瞬時にそれを察知しガシッと俺の服の襟元を掴むと、グイッと

こちらへ引き戻した。俺は服に首を絞められ一瞬息が出来なかった。俺は、地面に倒れこんだ。

「いてて…」

「つ〜かま〜えた!!」

「い…ぎ、ぎゃぁああああ!!!」

今日もまた波乱万丈の一日が幕を開けたのだった…。



気付けば俺はまたしてもボロボロの状態になっていた。しかし、なぜこうも俺はボロボロの姿になるの

だろうか。その時、霄が何やら険しい顔でいるのに気づき彼女に訊いた。

「どうかしたのかお前…。何かあるのか?」

「うむ…今、そこに緑色の髪の毛の女がいて…」

「緑色の髪の毛…?ってことは、護衛役じゃないのか?」

「おそらくな…何しろ、護衛役ならば必ず髪の毛は水色と決まっているからな…」

「確かに…」

俺は一応能兄の一部に残しておき、それから下に降りると、俺は零があらかじめ用意しておいてくれた朝食を

食べ、学校へと向かった。

相変わらず時刻はギリギリ…。だが、俺には例の秘密の抜け道があるから心配ない…そう思っていた。

「な、なんだこれは!?」

目の前にあったのは通行止めの看板と、交通を取り締まる男の人達…。

「あの…ここ通れないんですか?」

「すまんね…。昨夜電柱の一部が融解してて、その原因を突き止めるのと修復するので通行止めに

なっているんだ。悪いが、別の道を通ってくれたまえ!!」

そう言って、その人は向こうに行ってしまった。

「…どうする?」

「引き換えそっか…」

「そうですね…」

結局、引き返すしか手のなかった俺達は急いできた道を戻り、そこから別の道を通って学校へと急いだ。

と、その時俺はあることを思い出した。

「あっ、そういえば…家鍵閉め忘れた!!」

「だが、もう正門前だぞ?」

「大丈夫、何とか間に合うはずだ!お前達は、先に行っててくれ!!」

「響史、気をつけてね?」

「おう!!」

俺は彼女達だけでも先に行かせ、俺一人で家に戻ろうとした。何せ、こいつらを一緒に連れて行けば、

また途中で道に迷うかもしれないという可能性があったからだ。一人で行った方が、

行きも帰りも楽だからだ。そして、家に帰りついた俺は玄関ドアの鍵穴に鍵をさしこみ回そうとした。

と、その時俺はあることに気付いた。

「あれっ?もう、既に閉まってる…」



その頃、昇降口で零がはっと何かに気付いた。

「あっ、そういえば…鍵閉めてるの忘れてました…」

「えっ、それって…つまり、響史は…無駄足ってこと?」

「まぁそうなりますね」

零の冷静な顔を見て、霊は少し響史のことを哀れに思いながら上靴に履き替えた。



「はぁはぁ…やっと着いた。にしても、随分と皆登校時間遅いな…。やっぱ、

皆あの通行止めくらってたのか?とにかく、急がないと麗魅達が待ってるからな…」

息を切らしながらも、必死に走る俺…。すると、目の前に霄が朝方言っていた緑色の髪の毛の少女がいた。

髪の毛は腰辺りまであり、長い前髪に緑色の瞳が隠れていた。

―あの子が、霄の言っていた子か…。ってあれ?あの子、俺と同じ学校の制服!?どういうことだ?

しかも、あのネクタイの色は黄色…ということは、高2?ていうか、気のせいだろうか…。心なしか

俺のことを見ているような…。


そんなことを心の中で呟きながら進んでいたその時、彼女がボソボソと何かを呟いた。

「えっ!?」

俺が何を言ったのだろうとふと振り返ったその時、俺の唇を何かがふさいだ。なんだか、すごく柔らかい…。

そう、それはさっきの女子生徒だった。俺はそのまま、しりもちをついていたたたと尻をさすった。

「な、何するんだいきなり!」

「…ふふふ、あなた面白いわね〜。タマちゃんや霙ちゃん達が気に入るのもうなずける…。

でも、まだ足りない。あなたには欠けてる何かがある…」

彼女は謎の言葉を残し、そそくさと昇降口に駆けて行った。俺はしばらくの間、放心状態に陥ったが、

チャイムの鳴る音で我に返り、慌てて昇降口へと向かった。

教室へ向かって階段を駆け上がり、自分の教室の扉を開ける。そして、自分の席の位置を確かめるとそこに

早歩きで向かい、着席した。

「ん?響史…護衛役にあったのか?」

「うわぁ!何だよいきなり…」

「質問に答えろ!」

霄は少しムキになって俺に問いただす。

「い、いや…護衛役にはあってない…」

「には…?」

「ああ…実は、朝方お前が言ってた緑色の髪の毛の少女にあって…」

「それで?」

「そいつが、さっき正門前にうちの学校の制服来て、誰かのこと待ってた…」

「それで終わりか?」

「…う、…き…キスを…」

「ん?よく聞こえないぞ?」

彼女はわざとらしく俺にもう一度その重要な言葉を言うように促した。

「くっ…キスだよ!キスされたんだ!!」

俺は思わず大声を上げてしまった。そのせいで、他のクラスメイトにまでそのことがバレてしまった。

一番にその言葉にくいついてきたのは、期待通り亮太郎だった。

「おい!神童!!今の言葉、どういうことだ?キスしたって誰と?一体、いつ?どこで?キスはどっちから

したんだ?」

様々なシチュエーション設定を俺に訊いてくる。だが、俺的にはなぜこいつに教えてやらないといけないんだ

という気持ちになり、そのまま黙秘を続けた。するとタイミングよく下倉先生がやってきたため、席に着く

ことになり、彼の質問に対する答えはしばらくの間保留ということになった。

「ふぅ…」

と俺はひとまず一安心だ。そしてホームルームが始まり、先生の長い話が始まった。

それから数十分が経ち、ようやく先生の話から解放された俺達は自由な一時を満喫した。

その時、大抵のやつが先生のうんざりするような長話につきあってイライラしていたため、

俺の驚きのキス疑惑のことを忘れてくれて助かった。だが、亮太郎は忘れていなかった。

彼は真っ直ぐ俺のところに向かってくる。しかし、ここでまたしても奇跡。

下倉先生が亮太郎の名前を呼び、どこかに連れて行ってくれたのだ。

「ありがとう先生!」

俺は珍しく先生におれいを言った。そして、霄や他の護衛役に先ほどの出来事のおおまかな内容を伝えた。

すると、その内容を小耳にはさんだのか、麗魅が俺が喋っているというのにその話に割り込んできた。

「ちょっと、あんたついに年上の女性にまで手を出したの?しかも、

公の場でキスだなんて…信じられない!!」

「お前な…ものすんごい勘違いしてるぞ!?いいか?俺はキスしたんじゃなくてされたの!受け身なの!!

分かる〜?」

「そんなの信じられるわけないでしょ?あんなことした後なんだし…」

麗魅は顔を赤らめそっぽを向いて言った。彼女が何のことを話しているのかを理解した瞬間俺の顔も思わず

赤らんでしまった。

「あ〜、響史顔赤くなってる〜!」

と、霊が冷やかす声が聞こえるが、俺はそれどころではなかった。しかし、本当に先ほどの女子生徒…。

一体、誰なのだろうか?護衛役でないとすれば、どういった理由で俺に近づいてきたのか…。

俺はそのことが気がかりでならなかった。



気付けばもう昼休み…。俺はなかなか箸が進まずにいた。

今朝の少女のことをず〜っと気にかけていたからである。

「そんなに考え込んだっていいことないですわよ?」

いつもは俺が霊と仲良くしているからと嫉妬心を抱き、俺に敵対心を向けている霰がさすがに俺の様子を見て

心配してくれたのか珍しく話しかけてきた。

「ん?ああ…」

「そんなに気になるのならば、探してみたらいかがですの?」

「探す…?」

「はい…相手はこの学園の制服を着てらっしゃったのでしょう?ならば、この学園にいることは間違いないん

ですの!」

「だが、この学園はひと学年だけで六クラスもあるんだぞ?その上、一クラス大体45、6人だし…

相当時間かかると思うぞ?」

すると、せっかく人がアイデアを出してやったのに、否定するような言葉で返してきたことにイラッと

来たのか、霰は少し声を荒くして言い返した。

「だったら、自分で考えてくださいですの!…もう、私は考えてあげませんから…」

そう言って、彼女は教室から出て行った。俺はそんな彼女の後姿を見ていた。と、その時彼女の横を緑色の

髪の毛の少女が開きっぱなしの窓から吹き込んでくる風に髪の毛をなびかせながら同じ学年の先輩と

談笑しながら歩いていくのが目に入った。

「なっ!?」

俺は思わずその場に立ちあがった。

「どうしたんだ…急に立ち上がって…。食事中に立ち上がるとは行儀が悪いぞ響史?」

霄が俺に箸を持ったまま指摘した。

「悪い…それどころじゃなくなった!」

「…どういうことだ?」

急いで、弁当を口の中にかきこんでいる今の俺には彼女の質問が聞こえていなかった。

そして、弁当を包みカバンの中に入れると、急いで少女の後を追った。

しかし、一足遅かったのか彼女の姿はどこにもない。俺は階段近くまでやってきた。周囲360度全てを

見回すもののどこにも緑色の髪の毛の少女はいない。一体どこに消えたのだろうか…。

と、その時シュンッと何かが俺に向かって飛んできた。俺は反射的に身をかがめそれをかわした。

すると、壁に何かが突き刺さる音が聞こえた。ゆっくり上を見上げると、そこには矢の羽根の部分に

文がくくりつけられていた。

―こいつ、一体何時代の人間だよ!!


というツッコミをしながらもその紙を広げるとそこには屋上にて待つとの文字が記されてあった。

「屋上か…」

俺はすぐそばの階段から一番上の最上階へと上がり、そこから屋上へとつながる道へと進み、突き当りの

ドアの前に立つと、ドアノブをゆっくり回し屋上へと出た。左右を確認し、それから前を見ると、

目の前に…例の少女が金網のフェンスに背中をもたれ、腕組みをして俺のことを待ち構えていた。

「あんたか?この文を射たのは…」

「ええ…そうよ。人間界の人たちがどんな手段で情報を伝えるのかは知っていたけれど、携帯アドレスを

聞き出すってほどヤボなことしたくはないし…そうなると、これしかないかな〜と思ってね」

少女はフェンスから背中を離すとゆっくりと俺の近くに歩み寄ってきた。

「くっ!」

俺は今朝のこともあり、少し彼女に対して警戒心を抱いていた。

「そんなにビクビクしなくても何もしないわよ…」

「じゃあ、どうしてあの時…俺にキスしたんだ?」

「あの時?…ああ、今朝の…。あれは、あなたの力を試したかっただけ…」

「力?」

「そう、力…。私には自分の力を相手の体内に流し込むことで、相手の力などの明確な情報を

知ることが出来る力があるの…。この力はすごく神経を使うものだから、しばらくは派手に動けなかった。

だから、あなたの前に現れるのがこんなにも遅れることになったのよ…理解してもらえたかしら?」

彼女に訳の分からない話をされて俺はさらに疑問が増えた。

「じゃあ、あの時のキスは俺の力を知るために?」

「そういうこと…ようやくわかってきたみたいね」

「お前、一体誰なんだ?」

「…名前を教えてほしかったら、まずは年上に対する口調をどうにかすることね?神童 響史くん…」

「なぜ、俺の名前を?」

俺は少し驚いた。確かに彼女は相手の明確な情報を手に入れることが出来るとは言ってたものの、

まさか名前まで知る力があるのかという可能性については考えなかったからだ。

「あなたは、魔界では有名だからね〜」

「魔界…って、やっぱりお前悪魔だったのか!?」

「あら…バレてたの?」

「今朝…早朝も俺の家の前にいたんだろ?」

「そこまで気付いてたのは驚きね……霄ちゃんに聞いたの?」

「なぜ霄のことを?」

「そう…」

彼女は一体何者なのだろうか…。だんだんと俺は不吉な予感を感じ始めていた。

俺は彼女の正体がだんだんと気になり始め、とりあえず彼女に敬語で尋ねてみた。

「すいません…。あの、あなたは一体誰なんですか?」

その言葉を聞いて、彼女は小さく笑うと笑顔で俺にこう言った。

「やればできるんじゃない…。いいわ、ご褒美に教えてあげる。私の名前は『水連寺 露』…。護衛役よ!」

「す…水連寺一族!?」

俺はそれだけは絶対にないと思っていた。何しろ、今までのやつらの特徴…そして話に聞いて来た

条件とは彼女は全く一致していなかったからだ。

しかし、それが相手の策だということに俺はすぐに気付いた。

「私は変装を得意としていて、情報を手に入れるスパイなどの役割を主にしているの…。

だから、変装するのはお手の物…。まぁ、変装以外にもいろいろな格好したりもするけどね…」

「えっ?」

「ふぅ〜、にしてもこの変装にも難点があるのよね〜。水の力を使って、対象物の着ぐるみのような物を

創り出すんだけど、結構これが髪の毛が蒸れて困るのよね〜。はぁ、あっつい、あっつい!」

彼女はそう言って、まるで変装の名人ことル○ン三○の様に変装を解くと、蒼く長く綺麗な髪の毛が姿を

現した。

「や、やっぱり…水連寺一族」

俺は彼女のその髪の毛を見て確信した。だが、まだ気にかかる部分がある。そう、目だ。目はまだ緑色の

ままだった。目はさすがに変装の時に変えられないようだ。

「その目はどう説明するんですか?」

「あ〜これ?これは、カラーコンタクトいれてるだけ…」

下を向き、目からカラーコンタクトを取り出した彼女の少し潤んだ瞳を見ると確かに水色だった。

「ほ、本当だ…」

俺は彼女を尊敬した。ここまで完璧に変装をこなす人物を生で見るのは初めてだったからだ。

「ところで、ここに来たあなたの本当の目的は何なんですか?」

「やっぱり…気になるわよね?でも、分かってるんじゃない?今までの時と同じよ…。姫様達を返して!!」

彼女は単刀直入に言った。確かに、彼女の目的は今までのやつらと同じようだ。だが、彼女はそれが本心では

ないように思えた。

「どうしたんですか、随分と何か思いつめてますけど…」

俺が彼女に聞くと、彼女は少し意外に思ったのか少し驚いたようにして俺に言った。

「へぇ…意外ね。人間にも、分かるんだ…。悪魔の心情…まぁ無理もないか。第一、悪魔と言っても純粋な

悪魔じゃなく人間の血も4分の1は入ってるからね…」

少し気になる言葉を口にしながら彼女は話を進めた。

「私の本当の目的は別にあるの…。本当の目的は姫様達よりも妹達を返して欲しいの…」

「妹達?」

「ええ…」

「どうして?」

俺は理由が気になり彼女に訊いた。すると、彼女の口から出た答えはとんでもないものだった。

「好きだから…」

「えっ…あのよく聞こえなかったんですけど…」

「うぅ…妹達が好きだからよ!!」

ヒュゥウウ〜。

夏だというのに、なぜかその時ムワッとする熱気ではなく、冷気が吹きつけたような気がした。

「あの〜妹達が好き…って…、要するに…シスコンですか?」

「ち、違うわよ?私は、別に…そんなんじゃ、もちろん澪ちゃんだって好きなんだから」

俺はその時とんでもない新事実を発見してしまった。水連寺 露…。彼女は、とんでもない変態(バカ)

だということを…。

-136-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える