小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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「それはあまりにも…あの、あれですね…」

「なっ!そ、そそそんなの私の勝手でしょ?あなたには関係ないじゃない!あなたに人の趣味をとやかく

言われる筋合いはないわよ!あなただってかわいい妹達に囲まれてハーレムになって嬉しいんでしょ?」

「べっ、別に俺はそんなことは…」

俺は彼女に急に俺についての話題を振ってきたため、焦って思わず顔をそむけてしまった。すると、その隙を

狙って護衛役である彼女が槍の様な物で攻撃してきた。

「うわっと!」

「くっ…さすがに今まで数人の護衛役と相手しただけあって、反射スピードはなかなかのものね…。

でも、それだけじゃこの私の攻撃を全て防ぎきることはできないわ!」

露さんは、武器を上空に掲げ勢いよく回しだした。高速回転する槍はだんだんと円形に見えそれはまるで

円輪の刃のようになった。そして、それを思い切り俺に向かって振り下ろした。

俺はギリギリのところで避けたが、ついさっきまで俺がいた場所の足元は、まるでえぐれるように地面が

削られていた。俺はゴクリと息を呑んだ。

「ふふっ…どう?驚いた?」

「ふんっ…これぐらいのことは今まで何人もの護衛役を相手にしてきましたから何ともありませんよ!」

俺はわざと強がって見せた。確かに、俺は霄や霙など恐ろしいほど力のあるやつらと戦ってきた。

霙とは戦ったわけではないが…。雫もそうだ。そういえば、最近あいつ見ないな…。などと思いながら、

俺は相手の様子を伺った。すると、露さんは武器を持ってそれを思いっきり横に空間を裂くように振るった。

「これでもくらえ〜!」

そう言って彼女の武器から出現したのは、水が鋭く尖り鋭利な刃のような状態になった衝撃波だった。

俺はさすがにかわすことは不可能だと直感で感じとり、急いで妖刀を取り出した。

「そ、それは…まさか、妖刀『夜月刀』!?どうして、あなたがそれを…」

彼女はすごく驚いた顔をしていた。

「これは瑠璃にもらったんです…。俺もはっきり言って、最初の時は驚きましたよ。でも、それも

もう慣れました。さぁ、まだ…やりますか?」

「ええ…まだ、あなたの実力がいかほどのものか見極めていないからね〜」

露さんはにこやかにほほ笑みかけながら武器を構え、魔力を放出しはじめた。その量は異常で、さすが霄の

姉というだけのことはあるなと思った。

「行くわよ!」

「くっ!」

俺は彼女の攻撃を夜月刀で防いだ。しかし、彼女はそれを予想していたかのように一歩身を引き、そこから

武器の槍の先端に魔力を集中させ、

「千連水操!!」

と言って、連続突きを繰り出してきた。その威力は凄まじいものだったが、俺は負けじと夜月刀でその突きを

全て防いだ。すると、俺のその様子を見た露さんはビックリしていた。無理もない。俺は自分でも驚くほど

早いスピードで繰り出されている彼女の攻撃を全て同じスピードで防いでいたからだ。

―これはどうなってるの?おかしい…人間にこんな力はないはず。そもそも、妖刀をどうして人間に扱う

ことが出来るの?そんな話前例にないわ…。ふふっ、ますます興味が出てきたわ…神童 響史くん!

おもしろい…霄でも防ぎきれなかったこの技を防ぎきって見せなさい!!


彼女は心の中でそう呟くと俺のわずかな隙の部分に入り込み、そこから突きを繰り出してきた。

―とった!!


さすがにこれは俺も防ぎようがない…そう思っていたが、その時夜月刀を握っている方の手が勝手に動き、

自動的に彼女の攻撃を刀身で防ぎ切った。

「う、ウソ!?」

信じられないという声で彼女は首をわずかに左右に振りながら後ずさりした。悪魔が人間を怖がる決定的

瞬間俺はそう頭の中に思い浮かべた。

「はぁはぁ…まだやりますか?」

「くぅ…まだ……よ!」

疲れ切った声で必死にガクガク震える足を立たせると、真剣な目で足を踏み込むと一気に俺に向かって

ツッコんできた。

―今だ!


俺はジャストタイミングで武器を振るった。すると、その斬撃は彼女の顔の数ミリ前をかすめた。

そして、彼女が手に持つ武器は弾き飛ばされ宙を舞うと、俺の後ろに落ちた。

「…ふぅ、終わりです。これ以上、戦うわけにはいかないので…」

「ふふっ、あははは。やっぱり君おもしろいね〜。響史くん!でも、妹達をここに残すわけにはいかないわ!」

彼女は笑ったかと思うとまたしても冷静な表情になり護衛役である妹達の話をした。

だんだんとその話にも飽き飽きしていた俺は思わずとんでもないことを口走ってしまった。

「…んなに…そんなにあいつらと一緒にいたいなら、人間界(ここ)に居ればいいじゃないですか!!

ここは、露さん達を追い払ったりなんてヤボなことをしたりしません!!好きにいていいんです!

霄や霊達と一緒にいたいなら俺の家に来ればいいじゃないですか!!」

「えっ…でも、…いいの?」

「もう何人もいるんです…それに、俺の家は…そんなに人がいるわけでもないのに、違和感があるくらい

でかかったんで、それくらい人数がいたほうが逆に自然なんです…。それに、あいつらも喜ぶと思いますよ?

さぁ、どうします?悪い話じゃないと思いますけど?」

まぁ、彼女が妹達をあらぬ方向に向かって溺愛していることに対しては目をつぶり、俺は彼女に手を

差し伸べた。彼女はその場にペタンと座り込み下を向いてうつむいていたが、ゆっくりと顔を上げると、

目に小さな涙を浮かべて俺を見つめた。俺は一瞬目をそらし、頬を人差し指でかいた。

ガチャッ!

屋上の扉が開く音が聞こえ、ふっと後ろを振り返ると、そこには霄が息を切らしながら扉に手をついていた。

どうやら、必死に俺の行方を探して走り回っていたようだ。

「どうかしたのか?」

「ん…はぁはぁ…き、響史!今朝方のやつの正体が分かっ…―」

彼女は途中で声を止めた。目の前に座り込んでいる露の姿が目に入ったからだ。

「露…やはり姉者だったか…」

「…ら」

「ん?」

「そ〜ら〜!!」

露さんはさっきまでとは一変して、急に一歳年の離れた霄に抱き着こうとした。

しかし、そのギリギリのところで彼女は冷静にサッと身をかわした。そのため、露さんはそのまま地面に

墜落した。

「うぐぅ…いたた。いたいよ〜」

「ふん…自業自得だ!まったく…姉者がここに何をしに来たのか…は大体想像がつくが…」

「え〜?なになに?私がここに来た目的…霄ちゃんは分かってるの〜?」

露さんは満面の笑みでイライラしている霄の顔を覗き込みながら言った。

「くっ…うるさい!近づくな!!」

「あれ〜、そういえば…しばらく見ない間にまた胸大きくなった?」

彼女のその一言についに堪忍袋の緒が切れたのか、霄は剣を鞘から抜き取り掲げた。

「まてまて霄!いくら露さんが変態だからって、実の姉を殺しちゃダメだろ?」

「くっ……今回…、だけだ…」

―!?…あの霄ちゃんが、あっさり言うことを聞いた?…ふふっ、やっぱりあなたは面白いわ響史くん…。





現在時刻は5時10分…午後の課外も終わり、響史達は家路を歩いていた。

その後ろ姿を、何かを企んでいるかのように見つめる謎の男子生徒と女子生徒…。その二人は彼らが家へと

入って行くのを見届けると、すぐ横の交差点からどこかへと向かっていった。



家に帰りついた俺は

「ただいま〜」

と疲れた声で言った。すると、そんな俺を迎えてくれたのはルナーだった。

「おかえり…どうだった?今日もまた何かあった?」

「まるで、何かあるのが当たり前みたいな言い方だな…」

「いい加減、私に対するその口調…学んでくれないかしら?」

「ダメだ!俺はどうも、お前にだけは敬語で喋れない…。多分、その見た目がダメなんだよ…」

俺は彼女の体を指さして言った。確かに、彼女は身長も低いし、体も小柄…その上、顔も幼さがどことなく

残っている。それでいて、なぜか胸だけは普通にあった。少なくとも麗魅よりかは…。

「あん?」

「うっ!」

俺はなぜ、心の中で思っていることを読み取れるのかと不思議に思いながら、靴を脱いでリビングへと

向かった。バックを丸テーブルの近くに置き、テレビのスイッチを押す。

「そういえば、瑠璃の様子はどうなんだ?」

「大分よくなったけど、それでもまだ栄養失調のせいか、なかなか体力まで回復しないのよね…。

熱は引いたから、大丈夫だけど…学校に行くための体力がちょっと…」

彼女の説明に俺はいいアイデアを思い付いた。

「そうだ、おかゆだよ!」

「“おかゆ”?何それ…」

ルナーは初めて聞く言葉に興味津々のご様子…。

「おかゆってのは、ご飯を少しベチャッとした感じのやつだよ…」

「よく、分からない…」

「響史は説明へたくそだもんね〜!」

霊がフォローに回ったのだろうが、とどめをさした。

「うっ…ええい!だったら、実物見せてやるから少し待ってろ!」

俺はその場に立ちあがり、台所へと向かった。

すると、その時ルナーの目線が、最悪にも久し振りに妹達にあえて幸せ気分を満喫中である露さんと合った。

「わあ〜!かぅわぁいいぃ!!!」

彼女は、目を輝かせながらルナーに抱き着いた。突然のことに、彼女は霄のように

かわすことが出来なかった。

「はぁ〜頬もスベスベで気持ちいいわ!あなた、名前は?」

「えっ?ちょっ…る、ルナーよっ!!」

ルナーは少し迷惑そうに彼女の顔をどかそうと両手で押し返すが、なぜか力負けしていた。

まぁ、一応彼女は瑠璃と麗魅のおばさんだが、彼女達とあまり年が変わらないからである。

ちなみに、年齢は確か17か18だったと思う。

「少し悔しいのが、この胸…こんな幼い顔してるのに…どうしてこんなに大きいの?」

「えっ…ちょっ、やだ…離してよ!何なの、こいつ〜!!ちょっと、あなた達こいつ離しなさいよ〜!!」

「…」

みんな、露を厄介払い出来てありがたく思っていたため、誰も気づかぬふりをしていた。

「誰か、助けて〜!いやぁあああ!!!」

結局、それからしばらくの間、ルナーは露のおもちゃになった。



「ふぅ…出来た!お〜い、ルナー!ほら、これがおかゆだよ…って、どうしたんだ?そんなに、汗かいて…」

「はぁはぁ…ちょっと、ね…」

彼女は乱れた服を整えながら言った。露は満足そうに一人だけ別世界に旅立っていた。いっそのこと、

そのまま一度転生してきてくれないかと俺は思った。

「こ、これが…おかゆ?」

「ああ…。これを食べて、その後たくさん汗をかいて、

後は…栄養ドリンクとか飲んどけばなんとかなるだろ!」

俺は今まで自分が風邪を引いたときの対処法を懸命に思い出しながら言った。

ルナーは分からない言葉だらけで困惑している様子だったが、俺にはちゃんとわかっているのでそのまま

話を進めた。

「それで、瑠璃はどこにいるんだ?」

「一応、あなたのお姉さんの部屋に寝かせてるけど?」

部屋の場所を確認した俺はおかゆをお盆に乗せ、それを瑠璃の元まで運んだ。

二階に上がり、扉を開けると俺は姉ちゃんの部屋に入った。そこには、ベッドをかぶり、顔だけひょっこり

出している瑠璃の姿があった。確かに昨日と比べて大分熱は引いているみたいだが、やはり体力がついて

ないのか、少し元気がなかった。

「大丈夫か?」

「う…うん。ごめんね…響史。迷惑かけちゃって」

「いいって!そんなこと…俺が怪我したときもお前が必死に看病してくれたんだろ?だったら、これは俺が

お前にしてやれる一番の恩返しだと俺は思うんだ」

「ふっ、響史は優しいね…」

「そう…かな」

俺は少し照れくさそうに鼻を触った。

「後、これ…おかゆだ」

「おかゆ?」

「ああ…俺の世界でいうまぁ薬みたいなものかな?まぁ、苦いってわけじゃないからとにかくふぅふぅして

食べてくれ!」

「…食べさせて?」

「えっ…」

「お願い…」

俺はこれも彼女に対する恩返しの一環だと思って、彼女の小さな口に俺が自分の口で冷ましたおかゆを

いっぱいレンゲに乗せて入れた。それを彼女はモグモグと味わいながら飲み込んだ。

「どうだ?おいしいか?」

「うん!ありがとう響史!何だか、気のせいかもしれないけど元気出てきた…」

「そうか、それはよかった!」

こうして、一日が過ぎ、俺の家はまたにぎやかになった。これで、護衛役も残り数人…。

果たして、次にくる護衛役とは誰なのか?最近、太陽系の守護者を探したりしていないが、一体どこに

いるのか…俺はそんなことを想いながら今日も、美少女に囲まれて狭苦しい中、就寝した……。

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