小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第二十六話「二人の守護者」

今日もいつもの様に学校に登校する俺…。ちなみに今日は金曜日…今日学校に行けば明日は週休日で休み…。

俺は、いちごジャムを乗せた食パンを口の中に頬張り、寝起きの悪いやつらのことは放っといて、

しっかりしている零にカギを預けて先に学校へ向かった。

「はぁはぁ…走れば何とか間に合うか…」

今現在、例の秘密の抜け道は通行止めで行けないため、俺は今日も別の道を通って学校へと向かう。

全く早く終わってほしいものだ。

そして、学校へ一直線に続く大きな道へ出るために、目の前の角を左に曲がろうとしたその時、急に誰かが

ぶつかってきた。

「いてっ!」

「うっ…っつ〜あっ!すみませんッス!あ、あああのちょっと急いでいますんでこれで失礼するッス!!」

そう言って、うちの学校の制服を来た男子生徒はまるで何かから逃げるように逃げて行った。

「ったく…なんだったんだ今の…あの制服の色…三年生?」

俺は先ほどの生男子生徒のネクタイの色が緑色だったことを思い出し、即座に三年生であることを確認した。

「でも、一体何から逃げてたんだ?」

と一人で呟き先へ進んでいるとまたしても誰かとぶつかった。

「いった〜…ったく何なのよもうっ!」

「いってぇな…ちゃんと前見て歩けよ…」

「何よ…そっちこそちゃんと確認しなさいよね!!」

俺がヒリヒリ痛む腰をさすりながら、ゆっくり顔を上げると目の前にいたのは金髪でセミロングヘアの

碧瞳をした少女がいた。また、その少女もうちの学校と同じ生徒で二年生だった。

―ったく…二年生はこんなにもおっちょこちょいのやつらがいるのか?そんなんで本当に大丈夫か?


などと俺は心の中で思いながらゆっくりその場に立ちあがった。

「立てますか?」

一応俺は相手が先輩だということで敬語で対応した。

「え、ええ…。ありがとう…私の名前は『金城 瞳』生徒会所属なの…。ところで、ひょろっとした弱気の

高等部の二年男子生徒を見かけなかった?」

俺は先ほどの少年かと思い、そのことを話した。すると、彼女はしばらく考え込むとさらに俺にその少年に

ついて追及してきた。

「その人って…こう、前髪が少し長くて…細身で変な口調の人?」

「ああ…まぁそんな感じです!」

「…分かった、ありがとう!ごめんね、時間とらせちゃって…あなたも急いで学校に行きなさいよ?

神童 響史君…」

「はい…えっ!?」

その彼女の最後の一言に俺は引っかかった。なぜ初対面の相手が俺の名前をしかも苗字まで知っているのか

ということに…。俺はふと腕時計で時間を確認した。もう時間がない。俺は急いで学校へ走った。



昼休み…。俺は珍しく亮太郎と弁当を食べていた。その時、ふと生徒会の話題になり俺は今朝生徒会の一人と

会ったことを思い出し彼にそのことを話した。すると、彼は目を輝かせてこう言った。

「それって、金城 瞳先輩だろ?」

「なんだ、知ってるのか?」

「知ってるも何も…有名だろ?」

「そう…なのか?」

「ったく…お前何にも知らないんだな…」

「悪かったな…」

俺は少しムッとした。

「それで、その金城 瞳…先輩?って、生徒会で何の仕事をしてるんだ?」

「え〜と、確か…美化委員長じゃなかったか?どうして、そんなこと聞くんだ?」

亮太郎が不思議そうに俺に理由を尋ねた。

「えっ…いや、ちょっとな…」

俺は今朝彼女の首からさがっているネックレスの先端に見覚えのある指輪があるのを見ていたのだ。

だが、それが見間違いかもしれないということで、もう一度会って確かめてみようと考えていたのだ。

と、その時完全に病気から回復した瑠璃が俺の首に腕を回してきた。

「響史〜…何の話してるの?」

「ん?ちょっとな…」

そんな俺達二人の様子をうらやましそうに眺めていた亮太郎の怒りのパラメーターが最高潮に達したのか、

大きなさ叫び声を上げて俺の顔を指さして言った。

「神童〜!!もう我慢ならねぇ!お前ら、こいつを殺っちまえぇェェェ!!!」

「うおぉおお!!」

いつの間にか周りから自クラス、他クラスの男子生徒が集合し、亮太郎を大将…俺を対象にして獰猛な猛獣の

ように襲い掛かってきた。俺はそれを何とかかわし、急いで教室から抜け出し、昼休みの廊下をダッシュで

駆け抜けた。

「待てえ〜!!」

「くそ〜どうしていつもいつも…」

俺は食べたばかりで脇腹が痛くなるのを必死にこらえながら長い廊下を走って行った。



「あ〜あ、響史行っちゃった…」

退屈そうな声で瑠璃が木の椅子に体をもたれかけて言った。すると、霊が両腕に大量のサンドイッチを

持って戻ってきた。どうやら、売店に行っていたらしい…。

「あれ〜響史どっか行ったの?」

「うん…クラスの男子生徒に追っかけられてどっか行っちゃった〜」

机にあごをくっつけて言う。

「そうなんだ〜あっ、そういえば…響史に用があるんだった!」

「用?」

「うん…実は、お金が足りなくて後一個でシール100枚たまるんだよ!」

「シールたまったらどうなるの?」

「うんとね〜…確か、何かいいものがもらえるって響史は言ってたよ?」

「へぇ〜…だったら、廊下走って行ったから行って来れば?」

瑠璃にそう言われ、霊はうんと頷くと大量のパンを自分の席の机の上に置き、響史を探しに廊下に出て行った。



「はぁはぁ…やばい疲れてきた…」

俺は一旦、廊下の突き当りで休憩した。呼吸を整え、それから再び走り出す。階段を駆け上がり、上の階へと

上がった。と、その時どこからか霊の声が聞こえた。しかし、彼女らしき姿はどこにもない。

「どこにいるんだ?」

「こっちこっち!」

「ん?」

「下だよ、し・た・!」

声の言うがままに俺は視線を下に落とした。すると、そこには猫化した霊がいた。

「なんでこんなとこで猫化してるんだよ!他のやつらにバレたらどうすんだ!!」

「だって、こっちの方が速く走れるし、楽だし…」

「そんなことよりも、ここに何しに来たんだ?俺今忙しいんだが…」

「あのね、シール100枚集めたら何かもらえるって響史言ってたじゃん?」

「ああ…それが?」

「だから、あと一枚で100枚に達するんだよ!でも、お金が足りなくなっちゃって…。そこで、響史に

お金を借りたいな〜と思って…」

「今、それどころじゃないし、それに財布は教室なんだよ!!」

「金目の物は肌身離さず持ってないと危ないよ?」

「わ〜ってるよ!とりあえず、教室に戻るから…だが、そのためにはあいつらをまかないといけない!」

「あいつら?」

霊はきょとんとした顔で首を傾げて俺に訊いた。

「亮太郎達だよ…追い掛けられててさ…とにかく、ここから逃げないと…」

「分かった!私も協力するよ!」

「本当か?」

「うん!でも、その代わり…お金貸してね?」

「分かった、分かったから!」

俺は急いでこの状況を打破したかったため、同じ言葉を二度繰り返して話を先に進めた。



午後0:20分…昼休み終了の時間まで残り20分…。

その頃、屋上では…青い髪の毛を風になびかせながら双眼鏡越しに向かいの棟の中の様子を観察している

某変態…水連寺 露がいた。

「…ふふっ、可愛い女の子いないかな〜。ん〜…おっ、あれは響史くんだ!お〜い…って聞こえるわけないか!

楽しそうにおいかけっこしてる〜。私も混ざりたいな〜」

そんなことを言っていたその時、彼女は響史の背中に乗っている動物に注目した。そう、その動物…それは

猫だった。しかも、その猫がただの猫ではなく猫化した霊であることは姉である彼女自身が一番分かっていた。

「どうして霊ちゃんが?まぁいいや…響史くんうらやましいな〜あんなに、くっつかれちゃって…。

いろいろと密着して…うふふ。まぁ猫の状態じゃ分からないか〜。おっと、それよりも何でおっかけられて

るんだろ…それに、あんなことしてたら“あの子”に何されるか分からないわよ?」

などと、ぶつぶつ独り言を呟く露…。



「くっそ〜…神童のヤローどこに行きやがった…探せ!いいか?草の根かきわけてでも探し出せ〜!!」

「藍川!」

「なんだ?」

仲間の一人が亮太郎の名前を呼びその声に亮太郎が反応した。

「学校の中に草はないぞ?」

「…うっ!今はそんなことはどうでもいいんだよ!!冗談言ってる暇あったらさっさと探せ!!」

「お、おう!!」

「ぷぷっ!!」

「ん?」

―しまったああぁああ!!


俺は霊の噴き出す声が亮太郎達にバレたといち早く気付き急いでその場から逃げた。

「ったく、何やってんだよ!おかげさまでバレちまったじゃねぇか!!」

「ごめ〜ん!でも、あいつのツッコミが結構面白かったから…」

「待ちやがれ!さっきの失態まで見られたからにはぜってぇ生きて返さねぇぞ〜!!」

亮太郎はだだだっと階段を駆け下りて猪の群れの様に、仲間を引き連れ追っかけてきた。そのむさくるしい

集団の波は俺を後少しで飲み込みそうになっていた。と、その時前から天井を走ってくる女子生徒がいた。

俺はそれが誰なのか一瞬で分かった。なぜなら、そいつはツインテールに青い髪の毛…そして青い瞳…もとい、

赤い瞳…ってえっ?

俺はその瞳に困惑した。

―ウソだろ!?目の色まで変わるって…まるで風○谷○○ウ○○の王○じゃねぇか!!


と俺は心の中で叫んだ。霊は別の意味で怯えていた。

「や、やだ…霰だ…」

「くそ…引き返せねぇし…ああ!もういい、つっこめ!!」

「ちょっ…―」

彼女は何かを俺に伝えようと思ったのだろうが、俺にはその言葉を聴けるような余裕はなかった。

「お姉さまと密着など許しませんわ!!」

―何ってこった…変態がまさか、二人もいたとは…。





「ハックション!うぅ…今、何かものすごく失礼なことを言われたような…」

露は身震いをしながら鼻をすすった。



「やっと、追い詰めたぜ神童!」

「もう逃がしませんわよ神童 響史…」

「くっ、万事休すか?」

「こうなったら、コレでもくらえ〜!!」

そう言って、霊は猫化を解いた。

「ば、バカ!こんなとこで猫化解いたら…―」

俺が止めるのも無視して彼女はさっさと猫化を解いた。しかし、それは彼女の作戦だったのだ。

猫化を解くと同時に、眩い光が今にも襲い掛かりそうな変態集団の目を奪ったのだ。

「ぐぅわぁ!目が目が〜!!」

―どこかで聞き覚えのあるセリフが…おっと!それはまぁおいといて…。

今がチャンスだ!


俺は変化の解けた霊にカッターシャツを羽織らせ、その場から急いで逃げた。

「はぁはぁ…なぁ霊…お前自分の制服…どこに置いてきたんだ?」

「猫化した時だから…女子トイレかな…?」

「……自分で取って来いよ?」

「分かってるよ!それよりも響史…そんな格好で大丈夫?」

―それはこっちのセリフだよ!お前、自分の今の姿見てみろよ!ったく…。


と俺は心の中で呟きながら彼女と一緒に突き当りの廊下を曲がろうとした。と、その時向こうから来た

誰かと接触しぶつかった。

「いってぇ!」

「ひぃいい!ごめんなさいッス!…って、なぜ裸!?ひぃすみませんッス!!」

彼はなぜか知らないが二回謝った。俺はこの特徴的な喋り方を聴いて瞬時に今朝の先輩だということに

気付いた。

「まさか…あなたが、高地先輩ですか?」

「えっ、どうして僕の名前を…」

「あ…いや、そのクラスのやつに聞いて…」

俺は理由を説明した。すると、彼は何かを思い出したのかまたしてもその場から逃げようとした。

すると、いきなり、俺を踏んづけて誰かが高地先輩の襟ぐりを掴んで引き戻した。

「グゥエッ!」

突然のことに高地先輩は受け身をとることが出来ず、そのまま床に叩きつけられた。

「いった〜…何するんスか金城さん…」

「瞳呼べって何度言えばわかるの?」

「ひぃい…ひ、瞳さん…」

高地先輩は金城先輩の怖い目つきに気圧され、すぐに言いなおした。俺は踏んづけられた顔を優しく

さすりながら上半身をゆっくり起こした。

「ってぇ…」

「あっ、ごめんね…大丈夫?あぁ…あなた今朝の…えと、神童 響史君だったかな?」

「いえ…。それよりも、どうしてまた先輩を?」

「こいつ…私と生徒会の仕事やるの辞めるとか言い出して…だから、それを引き留めに来たの!」

彼女は満面の笑みでそう言ったが、その後ろで高地先輩は手と顔の両方を激しく左右に振った。

しかし、一度ギロッと彼女に睨みつけられるとすぐさま縦に何度も頷いた。

どうやら、強さ的には金城先輩の方が上のようだ。と、その時俺は高地先輩の腰のベルトから何かが

垂れ下がってるのが見えた。そう、それは探しに探していた太陽系の守護者の証の指輪だった。

「なっ…」

「あっ…こ、これはその…親の形見で…」

先輩は俺の視線に気づいたのか慌ててそれをポケットの中に突っ込んだ。それを見て、金城先輩は高地先輩に

何かを伝えていたが、それが何かまでは解らなかった。

「それじゃあ、私達これから生徒会会議があるからこれで失礼するわね?ほら行くわよノロマ!!」

「ちょっ、ひっ引っ張らないでくださいッス〜!」

そう言って、金城先輩に引っ張られて高地先輩もその場を後にした。



俺は昼休み終了のチャイムと同時に自分の席に着いた。そして、授業も終わり家へ帰った。

今日は金曜…さらに、明日は週休日のために休み…つまり土日は休みということ…。久しぶりにゆっくり

休みたいなという望みを抱きながら玄関のドアを開けた。すると、零が何かを俺に手渡した。

「ポストの中にこんなものが入ってました…」

それを見て俺は首を傾げた。

「手紙?」

「そのようだな…一体何が書かれてるんだ?」

「とりあえず、中に入ってみてみましょ?」

「そうだな…」

俺達は家の中に入ると、リビングへと向かい、手紙の内容を見た。そこには、

〔果たし状…。明日の0時きっかりに光影学園の屋上に参られよ!Venus&Earthより〕

と書かれていた。

「ヴィーナスとアースっていえば…―」

「金星と地球という意味だな…」

霄が腕を組んで考え込む。すると、霙が言った。

「おもしろい…相手になってやるよ!」

急にその場に立ちあがる彼女の行動に俺は戸惑いながら彼女に言った。

「だが、何をやるのかまでは書かれてないぞ?それに、明日の0時つったらもう後数時間しかないぞ?」

「実力で挑む…それがあたしのモットーだ!」

霙が自信満々に言う。しかし、相手がどんな方法で勝負を挑んでくるかは本当にわからない。

この時俺はせっかくの休日が潰れそうな悪い予感を身に感じていた。



その日の夜は、晩御飯がなかなか喉を通らなかった。それは俺だけじゃなく皆もそうだった。皆、今日の真夜中

の勝負に不安を感じていたのだ。すると、その気持ちを察したのか、それともこのまま重い空気にしたままで

いるのが辛かったのか、瑠璃が切り出した。

「ま、まぁ…大丈夫だよ!太陽や水星の守護者も倒せたんだし、今回もきっと…―」

その途中で言葉は途切れた。言おうとする言葉がのどの奥で詰まってしまったのだ。

「と、とりあえずまぁそのなんだ…食べようぜ?」

「そ、そうね…」

皆は苦笑いをしながら、黙々と晩御飯を食べ、腹を満たした。腹が減っては戦は出来ぬ…俺は心の中でそう

思った。しかし、腹が満たされたことにより俺はだんだんと日頃の疲れからでもあるのだろうが、

激しい睡魔に襲われそのまま机に突っ伏して眠ってしまった。

-138-
Copyright ©YossiDragon All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える