小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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気付けば真夜中までもう後一時間ちょっとしかない。俺は寝ぼけた状態でその時計の示す針を見つめ、

一瞬動きを止めた。しかし、次の瞬間俺はバッとその場に飛び起き、慌てて他のメンバーを起こした。

「おい起きろ!もう時間がない!!」

「ん〜…ふぁ〜あ…えっ?もう時間なの?」

「学校へ行くぞ!」

「うん…」

彼女達はすごく眠たそうでイラだっていたが、それは俺も同じ…。不思議なのがなぜこんなタイミングのいい

時間に起きることが出来たのだろうかということ。だが、それは運が良かったととっておき、急いで学校へ

向かった。夜の光影学園は朝と異なり明るい印象がなくなり怖い印象を強くしていた。まさにギャップで

ある。俺は思わず、声を上げてしまいそうになったが近所には住宅地が密集しているため、

迂闊に声を上げるわけには行かなかった。俺は校門のドアを開け、四つの扉のうちの一つの扉を開けた。

なぜ、その扉だけ開いていたのかは自分でもよくわからない…。そして、暗がりの階段を懐中電灯で照らし

だしながら上へと上がり、屋上へたどりついた。その扉を開けると、そこにいたのは昼間何かと

世話になった金城先輩と高地先輩だった。

「先輩…やっぱり、先輩が守護者だったんですね?」

「ええ…はっきり言って、既にうっすらと勘付いてはいるんじゃないかって思ってはいたけど…。大した

確信もなかったし、ずっと黙ってたの…でも、あの時暁のバカがドジってうっかり指輪を見せてしまった。

あれはとんだ大失態だったわ…。まぁ、そのおかげでこうして確信を得ることが出来たんだけどね?」

金城先輩はフェンスに手をあて、そこから周りの景色を眺めた。綺麗な街の街灯が何色もの眩い光を出し、

冷たい街を太陽の代わりに明るく照らす。近くにある飛天タワーもライトアップで綺麗に輝いていた。

二人の先輩の顔がその光に淡く照らし出されている姿を見て俺はその異常な力量を肌で感じ、身震いした。

「今回…勝負の内容は何なんですか?」

「まぁまぁ、そう焦らなくてもいいわ…暁、説明して…」

「はいッス…えと、今回の勝負は鬼ごっこの様な単純なものッス…。簡単に言えば、僕達2人を制限時間内に

捕まえることが出来たらその時点で試合終了…守護者のリングを二つともあなた達に渡すッス…でも、

仮にそっちが負けた場合、既に手に入れている守護者のリングを返してもらうッスよ?」

その無茶苦茶な条件に俺は激怒して罵声を放った。

「何で頑張って手に入れた守護者の指輪を渡さねぇといけねぇんだよ!!」

俺は言い切った後に、相手が先輩だということを改めて思い出しはっとなった。高地先輩は少し怖く

なったのか、オロオロして金城先輩の方を見た。しかし、先輩はツンとして何も手を貸してくれなかった。

「うぅ…と、とにかく内容は分かったッスね?」

「鬼ごっこみたいなことをやるってことだろ?」

「そうッス…。ちなみに、制限時間は午前1時から午前6時の間…それまでに捕まえられなかった場合、

失格となるッス…いいッスね?」

「場所は?」

「場所はこの学校全域…そして、メンバーは私達が逃げる役…それをあなた達全員が捕まえればそれで、

試合終了よいいわね?」

俺は途中まで高地先輩が説明していたのになぜ突然、金城先輩が説明したのかわからないが、ルールの中で

不思議とそれでいいのかと思う部分があったため、その部分を彼女に訊いた。

「相手は二人なのに、こんなに大勢で捕まえにかかっていいんですか?」

「あら…ハンデは不要だったかしら?」

金城先輩はわざとらしく俺に言ってきた。俺は少しえっという感じがしたが、何か裏がありそうな感じがした

ため、その話はとりあえず呑んでおくことにした。

「じゃあ、始めるわよ?鬼はそこのフェンスに立って目を伏せて…」

「10秒間声を出して数えた後開始ッスから…」

そう言い残して、その場から二人の声が聞こえなくなった。おそらく、もうどこかに逃げたのだろう。

俺はフェンスで10秒を口に出しながら数え、10秒数え終えると、フェンスから離れ屋上の入口から

下へと駆け下りて、捜索へと向かった。各々自分の気になる場所へと向かい、二人を探す。しかし、相手も

こちらにハンデをよこしてくるほど、そう簡単には見つからないような場所に隠れているのだろう…。

何せ、相手は生徒会のメンバーのうえに太陽系の守護者なんだ…この光影学園の中に知らない場所なんて

あるはずがない。そして、俺はとりあえず教室棟を巡回する捜査官のように懐中電灯を片手に捜索した。

だが、どこにも彼らの姿はない。こんな短時間でそう遠くにまで逃げられはしないはず…そう考えていた俺は

一番複雑な道になっている場所にやってきたが、ここにも彼らはいない。

「どこにもいないな…」

俺が懐中電灯を左右に向きを変えながら照らすがやはり彼らどころか人影もない。仕方なく引き返した俺は

別の場所を探すことにした。



「どこにもいないね…」

「そうですわね…おそらく、こっちに来たと思ったのですけれど…。でも、私的にはお姉さまと二人きり

というこの嬉しい時間をじっくりたっぷりと楽しみたいですわ!」

「そんなことしてる暇ないよ!制限時間はあるんだし、その間に見つけないと今まで頑張って手に入れてきた

守護者の指輪を全部返さないといけなくなるんだよ?私は絶対にそんなのイヤだからね?」

「わ、分かってますわよ!ちょっとしたジョークですわ。でも、どうしてそこまでお姉さまが

頑張るんですの?神童 響史のためですの?」

霰は腕を組み、前を歩いている霊の後姿を見つめながら言った。

「ううん、姫様のためだよ!」

「姫様の?」

「うん…お母さんに会いたくても会えないなんてかわいそうじゃん!私達は会おうと思えばいつでも

会えるのに…」

「一つ言わせていただきますけれど、お姉さま…姫様はお母様には会えないですけど、お父様には会えるじゃ

ありませんか!」

「姫様はお父様よりも今はお母様に会いたいんだよ。私は姫様にずっと世話になってきたから、だから…

これくらいはしないと…」

「お姉さま…」

霰は霊の話を聴いて、少し悲しそうな顔をしながらも、彼女の後をついていき、高地 暁と金城 瞳を探しに

向かった。



「はぁ…ったく、どこに隠れたんだ?」

俺は辺りを見ながら二人を捜索していた。と、その時ふと俺は夜の学校に訪れるのは初めてだなと思った。

それからしばらく歩いていると、目の前に人影が見えた。

「いたっ!」

俺は声を張り上げその人影の後を追った。そして、ルナーに一応と渡された連絡手段の小型無線を使って他の

メンバーに協力要請した。

「おい、瑠璃!そっちに先輩の一人が向かった!どっちなのかは不明だが間違いない!!急いで、

その場に向かってくれ!」

無線を使って瑠璃に指示をした俺は、彼女に先輩が向かった場所と位置を伝えると無線を切り替え、

霄に繋いだ。

「霄、聞こえるか?」

〈ああ…どうかしたのか?〉

「先輩の一人を今追ってる…そっちは何か進展はあったか?」

〈いや…まだ一人も見つかっていない。すまない…〉

「いいって…それよりも、暗がりの学校は割と危険だからな…気をつけろよ?」

〈分かった…妹達にも伝えておく…〉

「ああ…よろしく頼む!それじゃな…」

俺は無線を切ると、全速力で廊下を走った。暗がりの廊下は肝試しをやっているかのように不気味で、

夜のせいでもあるのだろうがうすら寒かった。そして、人影が暗がりの廊下を左に曲がったのを目撃した俺は

そのことを彼女に伝えた。

「瑠璃!そっちに行ったぞ!」

〈OK!こっちも今そっちに向かってる!!〉

「お〜し、挟み撃ちだ!!」

俺は角を曲がり、人影を追い詰めたことを確信すると、そのまま前方に向かって勢いよく飛びかかった。

「捕まえた!」

「ひゃあ!」

「えっ瑠璃!?」

ドサッ!

俺は慌てて体を起こした。懐中電灯を照らすとそこにいたのは、懐中電灯の光を浴びて眩しそうにしている

瑠璃だった。

「お前どうしてここに?」

「だって、響史が挟み撃ちにしようって…」

「えっ?お前も捕まえてなかったのか?」

「うん…」

「じゃあ、さっきの人影は一体どこに行ったんだ!?」

「さあ…?」

訳が分からなくなり不気味な奇怪現象に俺と瑠璃は身震いした。不思議なことに何故か冷たい夜風が俺達

二人の体に吹き付けた。周りを見回すと、窓の一つが開いているのが見えた。

「まさか、ここから?」

「かもね…」

「じゃあ、外に行ったのか!?」

「多分…」

「よ〜し善は急げだ!」

「うん!」

そう言って、俺達二人はよくその場も確かめずに外へと向かった。



「ふぅ…どうやら、気づかれてなかったみたいッスね…」

響史達がさっきまで居た暗がりの廊下から声がした。その声の正体は生徒会美化委員会委員長の

高地 暁だった。しかも、信じられないことに彼は廊下の天井に足をぴったりくっつけ、天井から

ぶら下がっている状態になっていたのだ。

「ふぅ…重力操作で自分の体だけ重力反転するのはなかなか楽なもんじゃないッスね…」

そう言って、暁はその場にシュタッと着地し、携帯電話を使って誰かに電話した。

〈もしもし…誰?こんな遅くに〉

その声は同じく生徒会美化委員長の金城 瞳だった。彼女の声は電話越しで聞くと少し声質が違った。

そんなことを感じながら暁は別の場所へと向かった。



その頃、霊と霰は体育館に来ていた。なんとなく勘でここが怪しいと思ったからだ。そして、暗幕の裏や

体育館では有名な秘密の開かずの間も調べ、何もないことを確認するとその場を後にしようとした。と、

その時ガタッという物音がした。静かで広い体育館にその効果音はすごく大きく響き渡った。

「お姉さま…今の…」

「うん、響史達じゃないみたい」

二人はゴクリと息を呑み、音の正体を確かめるために物音のした場所へゆっくりと歩み寄って行った。

しかし、そこにいは誰もいない。

「気のせい…だったのかな?」

「う、上ですわ!!」

霰の指さす方を向くと、上の照明道具などの銀のパイプの上に鉄棒の飛行機という技の準備の様な状態で

瞳が居た。彼女はパイプを両手でつかみ、その場から飛び降りた。体育館のステージから彼女のいる

照明道具の設置されているパイプまでは結構な高さがあるのだが、そんなことを彼女は気にも留めず

そのまま飛び降りていた。そして真下に着地すると霊と霰に襲い掛かった。その姿はまるで鬼のようだった。

―ちょっ、どうして私達が鬼なのに鬼のような女に襲われかけてますの!?


と霰は心の中でそう思った。だが、相手は太陽系の守護者といえど、ただの人間…。悪魔にして大魔王の娘を

守る護衛役である以上、負けるわけにはいかなかったため、必死に彼女の攻撃をかわしていた。

「くっ、なかなかすばしっこいわね!」

「そちらこそ、なかなかの身のこなしですわ!普通の人間ならば、あの高さから飛び降りれば足をくじくか、

骨折するかするはずですのに、まったくの無傷…不思議でなりませんわ…」

「それが私の力のようなものだからね…」

そう言って瞳は握り拳を作ると、霰のみぞおちを狙って拳を振るった。拳は見事クリティカルヒットし

彼女はその場に膝をついた。しかも、その硬さが尋常ではなかった。霰に駆け寄る霊はふっと瞳の方を

向いた。

「な、何なのその手…」

「これ?これが私の力…『金剛硬化』。あらゆる物を金属化させることが可能なの…それは人体も同じ…」

瞳はもう片方の手を自分の心臓の高さまで上げると力をこめた。すると、彼女の白い手が金属化した。

「す、すごい…」

「ふふっ…これで分かったでしょ?」

彼女は勝ち誇ったような目で彼女達を見下した。

「くっ、まだ負けだなんて認めてないですわよ!」

「霰の言うとおりだよ!私達は負けない!!」

「その威勢がいつまで続くか…見ものだわ!」

瞳が拳を構えると同時に霊と霰も武器を手にした。

「お姉さま…お姉さまは攻撃というよりも回復系に近いですので、ここは私にお任せを…」

「えっ、でも…」

「大丈夫ですわ!いざとなったら、霄お姉さまや霙お姉さまを呼べばいいだけのことです…」

霰は自分のことを心配してくれる霊に心配させないように言い、彼女を後ろに下がらせた。

そして彼女が後ろに下がったのを見ると、瞳をにらみつけた。

「まぁ怖い怖い…。可愛い顔が台無しよ?」

「あなたも、十分怖い顔してらっしゃいますわよ?」

「くっ、ふふ…面白いわ…せいぜいずっとやってなさい…」

金色の髪の毛が霊と霰に手渡された懐中電灯に照らされ輝く…。それと同時に彼女はシュッと

霰の真横に瞬間移動したように見えた。

「なっ!?」

「はい、おしまい…バイバイ♪」

瞳はニヤッと笑みを浮かべ彼女の顔を鷲掴みにすると体育館のステージの床に勢いよく叩きつけた。

「ぐはっ!!」

彼女は床に後頭部を打ち付け、動けなくなっていた。

「ぐぅ…」

「これでまず一人…次はあなたの番ね…たまちゃん?」

「うっ…あっそうだ!」

霊はふと霰の言っていたことを思い出した。そう、ピンチになったら仲間を呼ぶ。

彼女は慌てて無線をつけ、響史に無線をつなげた。

「もしもし響史?」

〈…ん、どうした…霊?何かあったのか?〉

「今、金城先輩と戦ってるんだけど、霰がやられちゃって…」

〈分かった…今すぐそっちに向かうから待ってろ!!〉

「うん…」

響史の言葉に彼女は少し心配だなと思いながら、無線を切った。

「言いたいことは終わった?」

「わ、私はあなたには負けない!」

「じゃあ、あなたの持てるすべての力で私を倒してみなさい?どうせ、無理でしょうけど…」

「むっ…いいよ!やってあげる!!」

霊はまんまと相手の罠に引っかかり相手に攻撃した。

「やぁっ!!」

「おっと!あら、これで終わり?つまんないわね〜…じゃあ、こっちから行くわよ」

鋭い目つきで彼女は霊を見る。睨まれた彼女は少し一、二歩後ずさりしたがこのまま負けたままでは

悪魔として護衛役の一人として情けないと思い、意を決して攻撃した。

「終わり…」

その一言が瞳の口から零れた瞬間、霊はその場に倒れた。

「どうして、僕がこんなひどいことをしないといけないんスか?」

「あら、あなたが勝手にやったことでしょ?」

「うっ…だってこうでもしないと、瞳さんがやられちゃうじゃないッスか…」

暁は片手にスタンガンを持ち、もう片方の手を霊の体に添えて倒れ掛かる彼女を支えた。

その横には、後頭部を打ち付け気絶している霰がいた。

「この二人にはしばらくの間、おとなしくしていてもらおっか…」

「そうッスね…」

暁は霊と霰を連れて、瞳の後についていった。

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