小説『魔界の少女【完結】』
作者:YossiDragon()

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俺は無線から霰と霊の反応が消えたことに関して少し不安を感じていた。

「まさか…あの二人…やられたのか?」

そんな縁起でもないことを呟いていると、後ろから誰かが走る足音が聞こえてきた。

「誰だ!?」

「おっと待て待て…私だ、霄だ!」

「なんだ、霄か…」

「むっ、その言い方は少し気に食わんな…」

「ごめんごめん!」

俺は彼女が懐にさしている剣の鍔に手をかけるのを見て慌てて謝った。彼女は少し機嫌悪そうに

刀から手を離した。そして、腕を組むと俺の目を見てこう言った。

「霊と霰がやられた」

その一言に勘が当たり少し嬉しいと内心で思いながらも彼女に少し悲しげな表情で

「そうか…どうやら相手も相当なやり手のようだな…」

と言って周囲に二人がいないかどうか探した。

俺達二人はとりあえず、その場から移動しようと歩き出した。

「そういえば姫はどうしたのだ?」

「あ〜、一回会ったきりまだ会ってないな…だが、それがどうかしたのか?」

「ん?いや、さっきから姫からの連絡がないのでな…少し心配になっただけだ…」

彼女は護衛役であるため、普段からひ…瑠璃のことを心配しておかなければならないのだ。

全く、一時も気を抜くことが出来ないのでは俺なら参ってしまいそうなところだが、それにめげない

のが彼女のいいところでもある。それにしても、他の護衛役たちは一体どこをほっつき歩いている

のだろうか。さっきから、無線を繋げているものの誰の声も聞こえない。

「誰も声をかけてきたりとかしないんだな…」

「まさか、全員やられたのでは?」

「そ…そんなことねぇだろ!?だ、だって…魔界で最強の護衛役なんだろ?太陽系の守護者だからと

言って、所詮は人間の体なんだから、そうそうやられやしないはずじゃねぇのか?」

そう言いながらも俺は心の底ではもしもの事態を考えてしまっていた。

「だが、万が一という可能性も考えられるだろ?」

「う〜ん、確かに…実力がすごいと言っても、見た目があんなんじゃなぁ〜」

「なっ、それは私達をバカにしているのか?」

「そうじゃねぇけど…だって考えてもみろよ…護衛役でマシなのってそうそういないぞ?

だって、長女の澪は仕事に対してマジメそうだが、案外ドジだったし、三女の露さんはかわいい女子が

好きな変態さんだし、長男の雫だって妹のこととなったらすぐに怒る変な奴だし、お前はまぁ

アレ(料理が下手)だとして…―」

「ちょっと待て響史…今、心の中で何か呟かなかったか?」

「そ、そそそそんなことねぇよ…。え〜と五女の霊はまぁ猫だし、現金だし…六女の霙は、すぐに暴走して

ハンマー振るうし、七女の霰は霊にメロメロだし、八女の零はちょっと肩叩いただけで剣取り出して

斬りつけてくるし……マシなヤツ一人もいねぇじゃねぇか!!」

「ま、まぁ落ち着け…確かに言われてみればそうかもしれないが、それでも一応マジメにやってるのは

やってるんだ…心配することはない!」

「そうか?まぁいいや…。それよりも、あの二人どこに消えたんだ?」

俺は真っ暗な学校を捜索してずいぶん経つがなかなか見つからない。すると、霄が急に止まった。

「いてっ…どうしたんだよ急に止まっ…―」

「シッ!静かに…あそこ」

「ん?」

彼女が指さした方を見てみるとそこには後姿の高地先輩がいた。

「あれは…間違いない、先輩だ!よ〜し…」

「待て…ここは私に任せてくれないか?お前にあんなことを言われたままではさすがに一族の恥…。

名誉挽回をさせてくれ!!」

俺はせっかくの機会だということの上に、自分では戦いたくないという理由で彼女に戦わせることにした。

「分かった…行って来い!」

「うむ…」

彼女は高地先輩の背後に回り込み、いきなり切りつけようとした。しかし彼は一瞬にしてそれをかわし、

逆に彼女の後ろを取った。

「すまないッスけど、終わりにさせてもらうッス!」

「霄!!」

俺が叫んだ時には一足遅かった。かのように思われたがギリギリのところで救いの手が入った。

霙がハンマーを巨大化させて高地先輩に攻撃したのだ。

高地先輩はハンマーにペシャンコにされて死んでしまったんじゃないかと一瞬俺は焦ったが、

それどころか先輩は無傷の状態だった。そう霙のあの巨大なハンマーを片手で受け止めていたのだ。

「なっ、アタシのハンマーを受け止めた!?」

霙は今までにないことに驚きを隠せずにいた。高地先輩はそのままハンマーを霙から奪い、それを

彼女に向かって放り投げた。

「し、しまっ!?」

ドガーン!

彼女はハンマーの下敷きになって動けない状態になった。

「くっ、アタシとしたことが…くそっ、ぬ…抜けない〜!!」

「霙!」

「姉貴…アタシのことはいいから早くそいつを捕まえてくれ!!」

「任せろ…妹の仇は必ず取る!」

「いや…アタシまだ死んでないけど…」

霙は勝手に霄の中で殺されてしまっていた。俺はその人間とは思えない戦いに腰を抜かしていた。

そして霄と先輩の戦いが始まって30分…。周りの被害は尋常ではなかった。

「諦めの悪いお嬢さんッスね……。僕には勝つことは不可能ッスよ?」

「ほう、随分自信があるんだな…」

「僕には必殺技があるッスから…」

そう言って、高地先輩は手をかざした。

「なるほどな…ではその必殺技とやらを見せてもらおうか?」

「いいんスか?そんなカッコいいこと言って本気を出すとあっさり敗北…なんて逆にカッコ悪いッスよ?」

先輩は足を肩幅に開き唸り声を出すと、力をこめ始めた。すると、廊下の床からボコッと大きな岩を

取り出しそれを思いっきり彼女に向けて放り投げた。しかも、その勢いが尋常ではなくそのまま

彼女の体にぶつかった。

「ぐぅっ!!」

「そ、霄!!」

「来るな…うわぁ!!」

しかし、彼女の体にぶつかっても巨岩は勢いを止めることはなくむしろ、さらにスピードを上げて

霄の体は巨岩と廊下の壁に挟まれサンドイッチ状態になった。しかも、彼女の体は巨岩に隠れ

姿が見えない状態だった。俺は慌ててその場に駆け寄った。すると、巨岩と壁の隙間から暗がりで

よく見えないが血がたら〜っと垂れてきた。

「そ、霄!?くそっ…まさか…殺られたのか…?くぅっ、てめぇ…よくも霄を…!!」

俺は下唇を噛み締め、先輩をキッと睨みつけた。

「怖いッスよ…神童君…、それに僕は彼女に勧められて技を出したんスから…責任は彼女にあるッス…」

彼の言うのも一理ある。確かに霄は彼に向かって必殺技を出せと煽った。それは認める…。だが、

こう狭い場所では彼女にとってはあまりにもの分が悪すぎる。彼女はある程度の広さがある場所でないと、

力を発揮できないのだ。と、その時階段から零が姿を現した。

「あ、姉上!?」

「あっ…零…こ、これは…その」

「くっ、…あなたですか?姉上を殺ったのは…!」

「そう…だけど?」

「許しません!壱の型『流血祭』!」

彼女が放った攻撃。それは、随分前俺が彼女と初めて会って戦った時に出た技だった。

「うわわっ!危ないじゃないッスか!」

「おとなしく死んでください!!」

「そういうわけにはいかないッスね…それに、既に君のお姉さん達は僕が殺っちゃったから…」

「まさか、霊姉様や霰姉様まで?」

「もちろんッス…」

その言葉についに怒りが頂点に達したのか零はストッパーなど無視して魔力を膨大に上げ始めた。

「そんなことして…後でどうなっても知らないッスよ?」

先輩はまるで彼女達がなぜ力を抑え込まれているのかの理由を知っているかのように言った。

彼は一際大きな岩を手も触れず持ち上げると勢いよく零にぶつけた。しかし、彼女はその岩を瞬時に

切り刻みバラバラに粉砕した。

「そんな小賢しいマネ…私には通用しません!これで終わりです…」

「ふふっ、それは果たしてどっちッスかね?」

「!?」

ドシャッ!!

突然先輩の手の動きと連動して天井の岩が彼女の頭上めがけて落下した。彼女の小さな体はペシャンコに

なり、今度こそ殺られてしまったかと思われたが、彼女はギリギリでその落石を受け止めていた。

彼女の小さな体のどこにこれほどの力があるのかは不明だが、今はそんなことははっきり言ってどうでも

よかった。それよりも、問題は先輩のあの能力だ。地球の守護者とは言っていたが、一体どういう能力

なのだろうか。今までは太陽や水星など名前から属性やどんな攻撃方法なのかも、はっきり理解出来ていたが、

今回は違う。何せ、相手は地球の守護者。どんな攻撃をするのか皆目見当もつかないからだ。

すると、そのことを察したのか先輩が口を開き説明した。

「そうッスね…この技がどういう仕組みなのか…理解できていない人も多いみたいッスから、軽く説明

してやるッス!僕の能力…それは、地球の重力を全面的、部分的に操ることが出来ることッス!

つまり…、僕が重力を駆使して地面を地球の中心へ引くベクトルを逆にして重力を逆にすれば、

地面は無論浮き上がるッスよね?けど、全てを浮き上がらせるのはさすがの僕も体力の限界になるッス…。

そこで、僕は地面の一部のみ重力のベクトルを逆にして持ち上げることを考えついたんス…」

その説明を聴いて俺はあっという間に理解し彼に言った。

「じゃあ、まさか…今の天井からの落石や、霄に向かって真っすぐ飛んで行ったあの巨石も…」

「そう、全ては重力操作によるものッス…どうッスか?これでも、まだ戦う気があるッスか?」

先輩が俺に少しずつ近づきながら言った。すると、落石を破壊した零が体をよろめかせながらその場に

立ち上がり彼に言った。

「当たり前です…重力操作だろうがなんだろうが…、倒してしまえば同じこと…」

「すごいッスね…その精神力。それは褒めてあげるッス…しかし、本当に勝てるかどうか…そこが

問題ッス!」

そう言って高地先輩は廊下の窓ガラスを重力操作によって取り外し、それを物凄いスピードで飛ばして

きた。すると、零は素早い反射神経でその窓ガラスを全てかわした。しかし、次の瞬間、彼女の目の前に

高地先輩がいた。

「僕は何も、物質だけを操れるとは言ってないッスよ?物体などありとあらゆるもの…つまり、人間や

動物も可能ッス!」

その力は尋常ではなかった。スピードもほとんど零と変わらなかった。

「これでもう四人ッスね…本当に護衛役と言ってもただの少女ッスね…それでも、本当に悪魔なんスか?

これじゃあ、瞳さんの方が悪魔にふさわしいッス!」

遠くの方を見ながら彼はニヤッと笑った。霄も零も殺られ、ついに俺と霙のみとなった。しかし、彼女の

体にはハンマーがのしかかっており、さらにそのハンマーに膨大な重力がかかっており、その重みで

なかなか脱出することが出来なかった。

「さぁて、ボ〜ッとしているッスけど、どうかしたんスか?まさか戦意喪失してやる気なくなったんじゃ

ないッスよね?」

彼の言葉を聞きながら俺はふと思った。

―あれ?そう言えば、どうして鬼ごっこだったはずなのに鬼が逃げている奴に殺られてんだ?

これじゃもう下剋上じゃねぇか!


そう思いながら俺は夜月刀を取り出し何の作戦も立てずに突っ込んだ。すると、彼は苦笑して言った。

「人の話聞いてたッスか?僕は物質など、ありとあらゆるものの重力を変化させることが可能なんス…。

というわけで、神童君…君の動き止めさせてもらうよ?…重力操作!」

その瞬間俺はてっきり動きが止まると思っていた。しかし、なぜか俺の動きは止まらなかった。

「なっ、なぜ止まらない!?」

「終わりだ〜!!とぅおりゃぁああ!!」

「ぐはぁああ!!」

ドサッ!

彼はそのまま廊下の地面に叩きつけられた。

「ぐぅっ…!ば、バカな…どうして僕の重力操作が効かなかったんスか?……確かに、技を発動した

はず…なのに、…はっ!その武器…それは夜月刀!?どんな攻撃も無効化することが可能だという…」

「そ、そんなすごい力があったのか?」

「まさか、それを知らずに使用してたんスか?さすが…、数人の悪魔の少女を手なずけるだけのことは

あるッスね…」


―あれっ!?何だか、スゴイ誤解をされてる〜!?


「ちょっ、ちょっと待て!俺は別にあいつらを手なずけてるわけじゃ…」

「違うんスか?」

「あいつらはただの居候だ…」

俺は少し頬をかきながら照れ隠しの動作のようにして言った。

「ふっ…そうッスか…。それと安心するッス…」

「えっ?」

「彼女達は死んでなんかいないッス…。確かに瀕死状態にまで追い込んだッスけど…」

そう言うと、彼は全ての重力を元に戻した。すると、壁に挟まっていたと思われていた霄がを現した。

「すまない…響史。負けてしまった」

「いいさ別に…それに一応、先輩一人は捕まえたんだ…残りは金城先輩のみ…。だから、そっちで

挽回してくれればそれでいいさ!」

「ふっ、響史は相変わらず甘いな…。そんなんじゃ、悪いことしてもすぐに許したりしそうだな…」

「そんなことねぇよ…」

俺はちょっと心外だった。すると、先輩は廊下に大の字になったまま俺達に言った。

「瞳さんの強さには気を付けた方がいいッスよ?彼女…相当な力の持ち主ッスから…」

そう言って、先輩はゆっくりその場に立ちあがると、

「じゃあこれ渡しとくッスね?」

と俺に守護者の証を手渡した。

「僕は牢屋(運動場の朝礼台)にいるッスから…」

彼はそのままその場から姿を消した。俺は霙の体の上に乗っかったハンマーをどけた。

「大丈夫か霙?」

「あぁうん…それよりもタマとか助けに行かなくていいのか?」

「そうだったな…えっと確か体育館だっけ?ていうか、何かもはや鬼ごっこって言えないんだけど…」

「響史、それを言ったら終わりだろ?」

と俺達はたわいない話をし、零も無事助け出したところで体育館へと向かった。

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